
メンタル不調社員から「復職したい」と言われたら
2026.08.24
メンタル不調で休職していた社員から、
「主治医から復職可能と言われました。元の仕事に戻りたいです」
と言われたとき、会社はどう判断すべきでしょうか。
経営者としては、できるだけ本人の希望を尊重したいと思うでしょう。
一方、現場からは、
「いきなり元の仕事に戻すのは難しい」
「また周囲がフォローすることになったら持たない」
という声が出ることもあります。
私は、この問題を「復職させるか、させないか」の二択で考えないことが重要だと考えます。
本当に考えるべきなのは、
「今、どの仕事なら安全かつ安定して続けられるのか」
ということです。
相談事例
あるWebシステム・業務アプリ開発会社を想定します。
従業員は74名。年商は約12億円です。
34歳のシステムエンジニアAさんは、技術力が高く、大型プロジェクトのサブリーダーを務めていました。
顧客からも評価され、
「Aさんに聞けば話が早い」
と言われるほど重要な存在です。
しかし、プロジェクトが遅れ、メンバーが退職したことで、Aさんに仕事が集中していきました。
Aさん自身も、
「人に説明するくらいなら自分でやった方が早い」
と仕事を抱え込みます。
やがて深夜まで業務チャットを書き込み、会議では強い口調になることが増え、最終的には顧客との会議中に感情的な発言をした後、欠勤。
そのまま休職に入りました。
4か月後、「復職可能」の診断書が出た
休職から約4か月。
Aさんから、
「体調は戻りました。復職したいです」
という申し出がありました。
主治医の診断書には、
「症状は改善しており復職可能。ただし当面は残業を避けることが望ましい」
と記載されています。
社長は、
「医師が復職可能と言っているなら戻した方がいいのではないか」
と考えます。
しかも納期が迫っているプロジェクトでは、Aさんの知識が必要とされています。
会社としても、Aさんが戻れば助かります。
しかし現場の開発部長は反対しました。
「復職には反対しない。ただ、いきなり元の仕事に戻すのは危険だ」
という意見です。
この問題の本質
私は、このケースの本質は、主治医が「復職可能」と書いたかどうかだけではないと考えます。
復職可能ということと、
以前と同じ仕事を、以前と同じ責任と負荷で担当できること
は別だからです。
たとえばAさんの元の仕事には、
- 顧客との折衝
- 納期プレッシャー
- 仕様判断
- メンバーへの指示
- 障害対応
- 複数の作業の同時進行
があります。
さらにAさんには、仕事を抱え込みやすい傾向がありました。
この状態で、
「残業だけ禁止して元のプロジェクトに戻す」
という対応では、十分とは言えません。
よくある失敗
よくあるのが、診断書に「復職可能」と書いてあるため、そのまま元の部署・元の仕事へ戻してしまうことです。
一見すると、本人の希望を尊重した良い対応に見えます。
しかし、休職前と同じ環境へ戻せば、同じ原因が再び発生する可能性があります。
逆に、
「再発が怖いから、まだ復職させない」
と会社側の不安だけで復職を先延ばしするのも違います。
私は、
本人の希望だけでも決めない。現場の不安だけでも決めない。
ことが重要だと考えます。
私ならどう考えるか
私なら、まずAさんの現在の状態と、仕事側が要求する負荷を分けて整理します。
例えば、Aさんについては、
- 定時勤務を継続できるか
- 毎朝安定して出勤できるか
- 集中作業を継続できるか
- 顧客との打合せに参加できるか
- 複数案件を同時に処理できるか
- 納期プレッシャーへの負荷はどうか
を確認します。
一方、元の仕事については、
- どの程度の判断責任があるか
- 突発対応がどれだけあるか
- 残業なしで本当に担当できるか
- 顧客からどの程度の即応を求められるか
を整理します。
そして、本人の現在の状態と仕事の要求との間にギャップがあれば、そこを埋める復職プランを作ります。
段階的な復職を考える
私なら、いきなり元のサブリーダーに戻すのではなく、段階的に仕事を増やします。
例えば初期段階では、
- 定時勤務
- 残業なし
- 顧客の主担当にはしない
- 一人で完結できる業務を中心にする
- 重要判断は上司が確認する
という形です。
その後、勤務が安定していれば、
- 設計レビューへの参加
- 顧客会議への補助参加
- 一定範囲の案件担当
と段階的に広げていきます。
重要なのは、「いつまで軽い仕事をさせるのか分からない状態」にしないことです。
Aさん自身が、
「簡単な仕事をさせられるなら戦力外と同じだ」
と感じているからです。
だからこそ、
「何ができたら次の段階へ進むのか」
を本人にも分かるようにします。
Aさんだけを見てはいけない
このケースでもう一つ重要なのが、Aさんの仕事を引き受けてきたBさんです。
Bさんは、
「Aさんが戻ってくること自体は構わない。でも、また自分が全部フォローするなら限界だ」
と言っています。
ここを軽視すると危険です。
会社がAさんへの配慮に集中すると、Bさんには、
「休職した社員は守られる。でも、その間支えてきた社員には我慢させる」
と見える可能性があります。
私は、復職支援では、本人だけではなく受け入れるチーム側の負荷も確認する必要があると考えます。
本人を守るために周囲を壊さない
復職支援では、本人への配慮が中心になります。
それは当然です。
ただし、その配慮を実現するために、周囲の社員へ過大な負荷を集中させれば、別の問題が発生します。
例えばAさんの残業を禁止する一方、残った仕事をすべてBさんが引き取る。
これでは復職支援ではなく、負荷を移しただけです。
私は、
Aさんを守るためにBさんを壊さない。Bさんを守るためにAさんを排除しない。
ことが重要だと考えます。
健康情報は必要な範囲だけ共有する
Aさん本人は、
「病気のことをチームに細かく説明されたくない」
と希望しています。
この点も尊重する必要があります。
復職するからといって、同僚へ病名や治療内容まで説明する必要があるとは限りません。
現場に必要なのは、
- 当面は残業をさせない
- この業務を担当する
- この判断は上司が行う
- 業務量は段階的に増やす
といった、仕事を進めるうえで必要な情報です。
健康情報と業務上必要な配慮情報を分けて考えることが重要です。
会社が一番やってはいけないこと
今回、会社には一つ誘惑があります。
納期が迫っているため、
「Aさんを早く戻せばプロジェクトが助かる」
という考えです。
私は、この理由で復職を急ぐことには慎重です。
復職後にAさんへ再び仕事を集中させ、2か月後に再休職すれば、会社はさらに苦しくなります。
再度の引継ぎ。
Bさんらの負担増。
顧客への説明。
納期への影響。
場合によってはBさんの退職。
短期的にはAさんを早く戻した方が得に見えても、中期では逆になる可能性があります。
復職の成功とは何か
私は、復職の成功を、
「出社できたこと」
とは考えません。
本当の成功は、
「本人が安定して働き続けられ、チームも持続可能な状態になったこと」
です。
そのため、復職した後にも定期的に確認します。
本人の状態。
仕事量。
残業。
上司との関係。
チーム側の負荷。
これらを見ながら、必要に応じて仕事を増減します。
実務上のチェックポイント
私なら、少なくとも次の事項を確認します。
- 本人の現在の生活リズム
- 主治医が想定している復職の具体的内容
- 主治医が元の仕事の負荷をどこまで把握しているか
- 残業を避けるべき期間や程度
- 本人が希望する役割
- 休職前に悪化した具体的要因
- 仕事を抱え込んだ原因
- 本人が再発要因をどう理解しているか
- 就業規則の休職・復職規定
- 元の仕事に必要な具体的能力
- 残業なしで担当できる業務
- Aさんしか分からない業務
- Bさんの現在の負荷
- 他メンバーの残業状況
- 復職後のフォロー担当者
- フォロー担当者自身の余力
- 業務を増やす条件
- 復職後の面談頻度
- 健康情報を誰まで共有するのか
- 納期と復職判断を切り離せているか
なぜ法律だけでは解決できないのか
復職判断では、安全への配慮、就業規則、健康情報の取扱いなど、法的・労務的な確認が必要です。
しかし、この問題は法律だけでは解決できません。
本人の復職が制度上可能でも、チームが崩壊すれば経営上の問題が残ります。
逆に、現場が嫌がっているという理由だけで本人を排除すれば、それも適切ではありません。
法律上はどうか。
本人はどこまで働けるか。
現場はどこまで支えられるか。
顧客案件はどう守るか。
これらを同時に考える必要があります。
最初に守るべきものは何か
私なら、次の順番で整理します。
Aさんが現在できることを確認する
↓
元の仕事に必要な負荷を確認する
↓
両者のギャップを整理する
↓
段階的な復職プランを作る
↓
Bさんを含むチームの負荷を調整する
↓
復職後も定期的に見直す
復職は一回の判断ではありません。
復職後まで含めたプロセスとして考える必要があります。
まとめ
メンタル不調で休職していた社員から、
「医師から復職可能と言われたので、元の仕事に戻りたい」
と言われると、経営者は迷います。
本人の希望は尊重したい。
しかし再発も怖い。
現場の負担も気になる。
顧客案件も守らなければならない。
私は、このとき、
「復職させるかどうか」だけでは考えません。
確認するのは、
「どの仕事なら、今の本人が安全かつ安定して続けられるのか」
です。
そして、本人の状態に合わせて段階的に仕事を戻します。
重要なのは、Aさんだけを守ることでも、現場だけを守ることでもありません。
本人が長く働き続けられ、周囲も無理なく受け入れられる状態を作ることです。
私は、
「復職可能か」ではなく、「どの仕事なら安全に、安定して復職できるか」を決める。
それが、このケースの最初の一手だと考えます。
※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・労務上の判断を示すものではありません。実際の復職可否、配置、業務上の配慮、健康情報の取扱い等は、本人の状態、診断内容、就業規則、職務内容、社内体制その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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