丸の内経営法律事務所

【2026年12月施行予定】 カスタマーハラスメント対策の義務化 中小企業が今すぐ準備すべきこと完全ガイド

2026.01.26

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、企業には「カスタマーハラスメント対策」が義務化されます。顧客や取引先からのハラスメント行為から従業員を守ることが、法的義務となるのです。

はじめに ~「お客様は神様」から「対等なパートナー」へ
「お客様は神様です」という言葉が、長らく日本のサービス業の美徳とされてきました。しかし、この考え方が行き過ぎた結果、従業員が理不尽なクレームや暴言に耐え続ける状況が生まれています。
中小企業にとって、この法改正は単なる「義務」ではなく、優秀な人材を守り、定着させるための「チャンス」でもあります。本記事では、カスハラ対策の実務ポイントを、わかりやすく解説します。

この記事の目次
1. カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
2. 企業に求められる4つの対策義務
3. 業種別の実務対応ポイント
4. カスハラ対応マニュアルの作り方
5. 短期・中期・長期アクションプラン
6. 違反時のペナルティと企業のリスク

第1章 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
1-1 法的定義と該当行為
改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントは以下のように定義されます。
「顧客等からの著しい迷惑行為により、労働者の就業環境が害されること」
具体的には、次のような行為が該当します:
✓ 長時間の拘束・執拗なクレームの繰り返し
✓ 暴言、脅迫、侮辱的な発言
✓ 威圧的な態度、土下座の強要
✓ SNSでの誹謗中傷、悪評の拡散
✓ セクシュアルハラスメント的な言動
✓ 理不尽な要求(返品・返金・値引き等)
✓ 従業員個人への接触強要

1-2 なぜ今、カスハラ対策が必要なのか
日本労働組合総連合会の調査(2024年)によれば、サービス業従事者の約48%が「過去2年間にカスハラを経験した」と回答しています。特に飲食業・小売業・宿泊業では被害率が60%を超えています。
カスハラを放置すると、以下のリスクが生じます:
リスク項目 影響
従業員への影響 精神疾患の発症、離職率の上昇
職場環境 雰囲気悪化、生産性の低下
企業イメージ ブランド毀損、採用難
法的リスク 安全配慮義務違反による損害賠償責任

ポイント: 適切な対策を講じた企業では、従業員満足度が向上し、人材定着率が改善する効果が報告されています。

第2章 企業に求められる4つの対策義務
改正法では、企業に以下の4つの措置義務が課せられます。
【義務①】企業の方針の明確化と周知・啓発
実施すべき内容:
● 就業規則へのカスハラ対策方針の記載
● 店舗・事務所へのポスター掲示
● 顧客向けの注意喚起(HPや店頭)
● 従業員向け研修の実施

就業規則への記載例
第○条(カスタマーハラスメントの禁止) 会社は、顧客等からの著しい迷惑行為(暴言、脅迫、執拗なクレーム、身体的攻撃等)により、従業員の就業環境が害されることのないよう、必要な措置を講じる。 従業員は、カスタマーハラスメントに該当すると思われる行為を受けた場合、速やかに上司または相談窓口に報告すること。 会社は、被害を受けた従業員のプライバシーを保護し、相談・報告を理由とした不利益取扱いを行わない。

【義務②】相談体制の整備
必要な体制:
● 相談窓口の設置(社内・社外)
● 相談担当者の明示と研修
● 相談しやすい環境づくり(匿名相談可等)
● 記録の作成と保管

⚠️ 実務ポイント: • 窓口は人事部門または総務部門が担当 • 外部の弁護士・社労士と連携できる体制を構築 • 相談記録は5年間保管(証拠として重要)

【義務③】事後の迅速かつ適切な対応
対応フロー:
7. 事実確認:いつ・どこで・誰が・何をされたか、目撃者の有無
8. 被害者保護:配置転換、休業、カウンセリング手配
9. 行為者への対応:警告、出入禁止、法的措置の検討
10. 再発防止策:マニュアル見直し、研修実施

法的対応の選択肢:
✓ 警察への被害届・告訴(暴行罪、脅迫罪、威力業務妨害罪等)
✓ 民事訴訟(損害賠償請求、接近禁止の仮処分)
✓ 弁護士名義の警告書送付

【義務④】プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
● 相談者・被害者の個人情報を厳重管理
● 相談したことを理由に降格・減給等の不利益取扱いを禁止
● 加害者への情報開示は最小限に

第3章 業種別の実務対応ポイント
3-1 小売業・飲食業
よくあるカスハラ事例
● レジや接客時の暴言、長時間クレーム
● 理不尽な返品・返金要求
● 従業員個人のSNSアカウント特定と誹謗中傷

対策
✓ レジ・接客カウンターに録画カメラ・録音機設置
✓ エスカレーション基準の明確化(店長→本部→弁護士)
✓ 「当店では、従業員への暴言・威圧的言動はお断りします」の掲示

3-2 IT・システム開発業
よくあるカスハラ事例
● 顧客からの深夜・休日の過度な連絡
● 契約外の追加作業の強要
● 成果物への不当なクレームと代金不払い

対策
✓ 契約書に業務範囲・対応時間・追加料金を明記
✓ 顧客とのやりとりは全てメール・チャット記録を保管
✓ 過度な要求には顧問弁護士から書面で回答

3-3 建設業・製造業
よくあるカスハラ事例
● 発注者からの理不尽な工期短縮要求
● 契約内容にない追加作業の無償要求
● 代金支払いの一方的な先延ばし

対策
✓ 基本契約書・個別発注書の整備
✓ 工事写真・作業日報による証拠化
✓ 支払条件違反には内容証明郵便で催告

第4章 カスハラ対応マニュアルの作り方
4-1 対応マニュアルに盛り込むべき項目
11. カスハラの定義と具体例
12. 初動対応の手順(誰に報告するか、記録の取り方)
13. エスカレーション基準(現場→上司→経営層→弁護士)
14. 顧客への対応トーク例
15. 警察・弁護士への連絡基準
16. 事後のフォロー体制

4-2 実践的な対応トーク例
NG 「申し訳ございません、すぐに対応いたします」
→ 何でも受け入れる姿勢はNG

✓ OK 「お客様のご要望は承りました。ただし、当社の規定により○○はお受けできかねます。代替案として△△をご提案させていただけますでしょうか」

毅然 「恐れ入りますが、お客様の言動は当社の業務に支障をきたすものと判断いたします。これ以上続く場合は、警察への相談も含めて対応させていただきます」

4-3 記録の取り方と証拠保全
カスハラ被害は「証拠」が最重要です。以下を記録・保管してください。
✓ 日時・場所・相手の氏名(わかる範囲で)
✓ 発言内容(できる限り正確に)
✓ 目撃者の氏名
✓ 録音・録画データ
✓ メール・LINE・SNSのスクリーンショット
✓ 医師の診断書(精神的苦痛がある場合)

第5章 カスハラ対策のアクションプラン
短期(1~3か月)
✓ 就業規則へのカスハラ条項追加
✓ 相談窓口の設置と従業員への周知
✓ 店舗・事務所への掲示物作成
✓ 管理職向け研修の実施

中期(3~6か月)
✓ 対応マニュアルの作成と全従業員への配布
✓ 録音・録画機器の設置
✓ 顧問弁護士との連携体制構築
✓ 契約書への「カスハラ条項」追加

長期(6か月~1年)
✓ 従業員向け定期研修の実施
✓ 対応事例のデータベース化
✓ 業界団体・商工会議所との情報共有
✓ 顧客向けの啓発活動(HPでの方針公表等)

第6章 違反時のペナルティと企業のリスク
6-1 法的リスク
カスハラ対策を怠った場合、以下のリスクが生じます:
● 厚生労働大臣による助言・指導・勧告
● 企業名の公表
● 従業員からの損害賠償請求(安全配慮義務違反)
● 労災認定による企業イメージの低下

6-2 実際の裁判例
事例:飲食店従業員のうつ病発症事件(令和5年東京地裁判決) 顧客からの執拗なクレームと暴言により従業員がうつ病を発症。企業が適切な対応を取らなかったとして、約800万円の損害賠償を命じられた。 裁判所は「企業には、従業員をカスハラから守る安全配慮義務がある」と明示。

第7章 顧問弁護士との連携が重要な理由
カスハラ対応は、法的判断が必要な場面が多く発生します。顧問弁護士がいると、以下のメリットがあります:
✓ 初動対応のアドバイス(記録の取り方、警察への届出判断)
✓ 顧客への警告書作成・送付
✓ 訴訟・仮処分の代理
✓ 就業規則・契約書のカスハラ条項整備
✓ 従業員研修の実施

第8章 まとめ ~「従業員を守る企業」が選ばれる時代へ
2026年10月のカスハラ対策義務化は、中小企業にとって大きな転換点です。
「お客様第一」から「従業員第一」へ
従業員が安心して働ける環境を整えることが、結果的に顧客満足度の向上と企業の持続的成長につながります。
今すぐできる3つのアクション
1 就業規則にカスハラ条項を追加する
2 相談窓口を設置し、従業員に周知する
3 顧問弁護士に相談し、対応マニュアルを整備する

カスハラ対策は、単なる「義務」ではなく、 「優秀な人材を守り、企業の未来を守る投資」です。 今から準備を始めましょう。

参考情報
● 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001292306.pdf
● SmartHR「2026年注目の人事・労務トピック10選」 https://mag.smarthr.jp/hr/procedure/2026-HRtrend/
● 政府広報オンライン「カスタマーハラスメント対策が企業の義務に」 https://www.gov-online.go.jp/article/202510/entry-9370.html
● 日本商工会議所「カスハラ対策ガイドライン」 https://www.jcci.or.jp/

※本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。法改正の詳細や最新情報は、厚生労働省HPおよび顧問弁護士にご確認ください。 ※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的な事案については、弁護士にご相談ください。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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