
事業承継成功の鍵は「20代からの後継者育成」│ベンチャー型事業承継とは?
2026.01.26
弁護士が解説する「突然の承継」に備える3つの壁と対策
はじめに:事業承継は「いつか」ではなく「今」の経営課題
2026年1月、東洋経済オンラインが掲載した記事が、多くの中小企業経営者の心に刺さっています。タイトルは「次世代リーダーが『突然の事業承継』で慌てない秘訣」。
この記事が示す統計は衝撃的です。2025年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業経営者は約245万人。そのうち約半数が後継者未定という深刻な状況にあります。
事業承継はもはや「将来考えること」ではありません。企業の存続と成長に直結する現在進行形の経営課題であり、しかも多くの場合、準備が整う前に突然訪れるのです。
本記事では、弁護士の視点から事業承継における「3つの壁」とその対策、そして経営者が今すぐ始めるべき準備について詳しく解説します。
事業承継で直面する「3つの壁」とは?
東洋経済の記事では、次世代リーダーが直面しやすい「資金・スキル・組織」という3つの壁が紹介されています。これらは事業承継の現場で実際に頻繁に見られる課題であり、事前の理解と対策が成功の鍵となります。
1. 資金の壁:事業承継にかかるコストと税務
事業承継には想像以上のコストがかかります。株式買取資金、相続税・贈与税、事業承継税制の活用など、専門的な知識が必要です。
主なコスト項目:
- 株式評価と買取資金
- 相続税・贈与税の負担
- デューデリジェンス費用
- 専門家への報酬
- 運転資金の確保
特に、非上場株式の評価は専門家でも意見が分かれることがあり、適切な評価と税務対策が不可欠です。事業承継税制などの優遇措置を活用することで、税負担を大幅に軽減できる可能性もあります。
2. スキルの壁:経営者に必要な能力と経験
記事で紹介されている高橋健太氏は、営業一筋20年以上のキャリアを持つ優秀な事業部長でした。しかし、「自分自身が経営者になることはまったく想定していなかった」という状況は、多くの後継者候補に共通しています。
経営者に求められるスキル:
- 戦略的意思決定能力
- 財務・会計の知識
- リーダーシップとビジョン構築
- リスクマネジメント
- ステークホルダーマネジメント
現場のプロフェッショナルと経営者では、求められるスキルセットが大きく異なります。計画的な育成プログラムと実務経験の積み重ねが重要です。
3. 組織の壁:社内の理解と協力体制
事業承継は経営者個人の問題ではなく、組織全体に影響する大きな変革です。
組織面での主な課題:
- 既存幹部との関係構築
- 従業員の不安解消とモチベーション維持
- 取引先との信頼関係の継承
- 企業文化の継承と革新のバランス
- 創業者の影響力からの脱却
特に、創業社長の存在感が大きい企業では、新社長がリーダーシップを確立するまでに時間がかかることがあります。段階的な権限移譲と明確なコミュニケーションが成功の鍵となります。
「突然の事業承継」が多い理由と背景
なぜ多くの事業承継が「突然」訪れるのでしょうか?
経営者の心理的バリア
多くの経営者が事業承継を先延ばしにする理由には、次のような心理的要因があります。
- 自分はまだ元気だという過信
- 引退後の生きがいへの不安
- 適切な後継者が見つからないという焦り
- 承継プロセスの複雑さへの抵抗感
- 創業者としての執着
健康問題や突然の事態
実際には、経営者の健康問題や不測の事態により、準備不足のまま承継を余儀なくされるケースが少なくありません。このような「突然の承継」は、企業価値の毀損や従業員の不安を招く原因となります。
後継者候補の準備不足
後継者候補自身も、経営者になる覚悟や準備が不十分なケースが多いのです。記事の高橋氏のように、優秀な管理職であっても、経営者としての準備は別問題なのです。
事業承継を成功させるための5つのステップ
弁護士として多くの事業承継をサポートしてきた経験から、成功するための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:早期の意思決定と計画策定(承継の5〜10年前)
事業承継は最低でも5年、理想的には10年前から準備を始めるべきです。
このステージでやるべきこと:
- 承継方針の決定(親族内承継/社内承継/M&A)
- 後継者候補の選定
- 中長期経営計画の策定
- 株式評価と財務状況の把握
ステップ2:後継者の育成プログラム(承継の3〜5年前)
計画的な育成が、スキルの壁を乗り越える鍵です。
効果的な育成方法:
- 段階的な権限委譲
- 各部門のローテーション経験
- 外部研修や経営者コミュニティへの参加
- 重要会議への参加と意思決定の経験
- メンター制度の活用
ステップ3:法務・税務対策の実施(承継の2〜3年前)
専門家チームを組成し、包括的な対策を講じます。
主な対策項目:
- 事業承継税制の適用検討
- 株式の段階的な移転計画
- 相続税・贈与税のシミュレーション
- 遺言書の作成
- 種類株式の活用検討
- 持株会社の設立検討
ステップ4:組織体制の整備(承継の1〜2年前)
組織の壁を乗り越えるため、社内外のステークホルダーとの関係を整備します。
具体的な取り組み:
- 幹部社員への説明と協力要請
- 従業員への段階的な情報開示
- 取引先・金融機関への挨拶
- 経営会議体制の見直し
- ガバナンス体制の強化
ステップ5:実行とフォローアップ(承継実行時)
承継実行後も、前経営者のサポート体制を維持することが重要です。
承継後の注意点:
- 段階的な権限移譲の完了
- 定期的な相談体制の維持
- 取引先との関係強化
- 新体制の浸透確認
- 必要に応じた軌道修正
親族内承継、社内承継、M&A それぞれの特徴と選択基準
事業承継には大きく3つのパターンがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社に最適な方法を選択することが重要です。
親族内承継のメリットとデメリット
メリット:
- 早期からの準備が可能
- 社内外の理解が得やすい
- 株式移転がスムーズ
- 企業文化の継承が容易
デメリット:
- 適性のある後継者がいるとは限らない
- 相続税・贈与税の負担
- 親族間のトラブルリスク
社内承継(従業員承継)の特徴
記事で紹介された高橋氏のケースがこれに該当します。
メリット:
- 企業文化への理解が深い
- 従業員からの信頼がある
- 取引先との関係継承が容易
デメリット:
- 株式買取資金の確保が課題
- 経営者としての覚悟と準備が必要
- 親族との調整が必要な場合も
M&Aによる第三者承継
近年急増しているのがこのパターンです。記事でも触れられている「脱ファミリー化」の流れです。
メリット:
- 後継者不在問題の解決
- 創業者利益の確保
- 経営資源の補完による成長
- 従業員の雇用維持
デメリット:
- 企業文化の変化リスク
- 従業員の不安
- 適切な買い手探しの難しさ
- デューデリジェンスの負担
事業承継における弁護士の役割と重要性
事業承継は法務、税務、財務など多岐にわたる専門知識が必要な複雑なプロジェクトです。弁護士は、法的スキームの設計からリスクマネジメント、ステークホルダーとの調整まで、幅広い支援を提供します。
弁護士が支援できる主な領域
1. 法的スキームの設計
- 最適な承継方法の提案
- 株式移転スキームの設計
- 契約書の作成とレビュー
2. リスクマネジメント
- 潜在的法的リスクの洗い出し
- コンプライアンス体制の整備
- 紛争予防策の提案
3. ステークホルダーとの調整
- 親族間の利害調整
- 取引先との契約見直し
- 従業員との労務調整
4. M&A支援
- デューデリジェンスの実施
- 契約交渉のサポート
- クロージング実務
税理士、会計士との連携の重要性
事業承継は弁護士単独では完結しません。税理士による税務対策、会計士による財務分析など、専門家チームでのサポートが理想的です。各専門家が連携することで、包括的で最適な承継プランを実現できます。
事業承継税制の活用ポイント
事業承継税制は、資金の壁を乗り越えるための強力なツールです。この制度を適切に活用することで、相続税・贈与税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
事業承継税制の概要
事業承継税制は、相続税・贈与税の納税を猶予(実質免除)する制度で、中小企業の事業承継を支援します。
主な要件:
- 中小企業であること
- 雇用維持(5年間平均80%以上)
- 事業継続
- 特例承継計画の提出
活用のメリットと注意点
メリット:
- 相続税・贈与税の大幅軽減
- 資金繰りの改善
- 計画的な承継の促進
注意点:
- 要件を満たせない場合は猶予取消
- 継続的な報告義務
- 専門家による事前検討が不可欠
「悪質M&A」から会社を守るために
M&Aによる第三者承継を選択する場合、悪質なM&A案件に注意が必要です。企業と従業員を守るため、適切な判断基準を持つことが重要です。
悪質M&Aの手口
- 資産だけを狙った買収
- 従業員の大量解雇
- 取引先との関係破壊
- 不当に安い価格での買収
見極めるポイント
注意すべきサイン:
- 過度に短期間での契約を求める
- デューデリジェンスが不十分
- 買収後のビジョンが不明確
- 仲介業者の報酬体系が不透明
信頼できるパートナーの選び方
- 実績と評判の確認
- 複数の専門家からの意見聴取
- 買い手企業の経営理念の確認
- 従業員や取引先への配慮の確認
まとめ:事業承継は「今」始めるべき経営の最重要課題
東洋経済の記事が示すように、事業承継は多くの経営者にとって「突然」訪れます。しかし、適切な準備と専門家のサポートがあれば、それは企業を次のステージへと飛躍させる絶好の機会となります。
今日から始められること:
- 現状の棚卸し(財務状況、後継者候補、課題の洗い出し)
- 専門家への相談(弁護士、税理士、会計士)
- 後継者候補との対話開始
- 中長期計画の策定
- 社内体制の整備
事業承継は経営者の最後にして最大の仕事です。そして、それは単なる世代交代ではなく、企業の未来を創造する戦略的プロジェクトなのです。
「まだ早い」と思っているなら、それが準備を始める最適なタイミングです。
事業承継でお悩みの経営者の皆様、まずは一度ご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。
参考記事
次世代リーダーが「突然の事業承継」で慌てない秘訣(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/909302
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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