
「あとで変更契約を出すから」が会社を苦しめる。建設業の追加工事で経営者が最初に守るべきもの
2026.07.26
建設現場では、こんな言葉を聞くことがあります。
「先に工事を進めてください。」
「変更契約はあとで出します。」
「元請との付き合いだから、今回は協力してほしい。」
現場では珍しい話ではありません。
しかし私は、この一言が会社の利益を少しずつ削り、現場を疲弊させる原因になっていると考えます。
今回のテーマは、元請から契約にない追加工事を求められ、さらに品質不良の責任まで負担するよう要求されたケースです。
重要なのは、850万円を回収できるかどうかだけではありません。
会社が「言った・言わない」で利益を失い続ける体質を変えられるかどうか。
そこが、この問題の本質です。
相談事例
ある電気設備工事会社は、大手ゼネコンの物流センター新築工事を担当していました。
工事終盤になり、元請の現場監督から口頭で照明位置の変更を指示されます。
「設計変更はあとで出すから。」
そう言われたため、休日返上で工事を進めました。
追加で発生した人件費や材料費は約850万円。
ところが完成検査では設備の一部に不具合が見つかり、その原因は元請側が途中で変更した天井材との干渉である可能性が高いことが判明しました。
それにもかかわらず、元請は次のように要求してきます。
- 追加工事費850万円は支払わない
- 補修は無償で行うこと
- 遅延損害も負担すること
営業部は「ここで争えば来年の仕事がなくなる」と心配し、工事部は「このままでは毎回同じことが起きる」と反発しています。
この問題の本質
私は、この問題の本質は850万円ではないと考えます。
本当に危険なのは、契約変更や追加工事が曖昧なまま進むことが当たり前になっている組織です。
一度だけなら何とか利益で吸収できるかもしれません。
しかし、それが毎年、毎現場で繰り返されれば、利益率は確実に下がります。
さらに現場では、「頑張っても会社は守ってくれない」という不信感が生まれます。
優秀な現場監督ほど、責任だけが増える環境から離れていきます。
よくある失敗
「付き合いだから」と無償対応する
元請との関係は大切です。
しかし、関係を守ることと、すべてを受け入れることは違います。
一度前例を作ると、「今回も対応してくれるだろう」と期待され、同じことが繰り返される可能性があります。
感情的に対立してしまう
「もう取引をやめる」「裁判だ」と最初から対立姿勢を取るのも得策ではありません。
長年の取引がある相手であればなおさら、まずは事実を整理し、証拠をもとに冷静な協議を行うことが重要です。
現場の記録が残っていない
口頭指示だけで工事を進め、写真や日報、メール、工程会議の記録が残っていなければ、後から責任を整理することが難しくなります。
「現場は分かっている」は、紛争になった瞬間に通用しません。
私ならどう考えるか
私なら、まず現場の証拠を徹底的に整理します。
施工前後の写真、日報、メール、チャット、工程会議の議事録、材料発注履歴、追加工事にかかった人工や残業時間。
これらを時系列でまとめ、何がいつ、誰の指示で変更されたのかを明確にします。
そのうえで、設備不良の原因を「施工ミス」なのか、「設計変更」なのか、「天井材変更」なのかに分けて技術的に検証します。
そして元請とは、感情ではなく証拠をもとに責任分担と追加費用について協議します。
同時に、社内では「追加工事は必ず書面化する」という運用へ切り替えます。
現場任せではなく、会社として利益を守る仕組みを作ることが重要です。
最善策
私が最初に優先するのは、次の五つです。
- 現場記録・写真・メールなどの証拠を整理する
- 追加工事の指示経緯を時系列で確認する
- 技術的な原因を施工・設計・材料変更に分けて分析する
- 追加費用と補修費用を切り分けて協議する
- 今後は変更指示を書面で残す運用へ改める
重要なのは、「今回勝つこと」ではありません。
同じ問題が二度と起きない会社に変わることです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
建設業法や契約書の内容はもちろん重要です。
しかし、契約書だけでは現場は動きません。
現場では、工期、天候、他業者との調整など、予定どおりに進まないことが日常です。
だからこそ必要なのは、「変更が起きたら必ず記録する」という現場文化です。
法律は最後に会社を守るためのものですが、その前に会社を守るのは日々の運用です。
記録を残す文化があれば、元請との交渉も対立ではなく、事実に基づく話し合いになります。
実務上のチェックポイント
- 契約書・設計図書を確認しているか
- 追加工事の指示を誰が受けたか記録しているか
- メールやチャットを保存しているか
- 施工前後の写真を残しているか
- 工程会議の議事録を作成しているか
- 追加工事の人工・材料費を分けて管理しているか
- 現場監督が変更契約の重要性を理解しているか
- 元請との協議内容を書面化しているか
- 追加工事の承認フローが社内で統一されているか
- 特定の元請に依存し過ぎていないか
まとめ
建設業では、「付き合いだから」という言葉で多くの判断が行われます。
その気持ちは大切です。
しかし、会社を守る経営者は、義理と利益を混同してはいけません。
私は、まず証拠を整理し、事実を確認し、冷静に協議します。
そして、今回の問題をきっかけに、変更管理と記録を会社の文化にします。
重要なのは、850万円を回収することだけではありません。
「あとで変更契約を出すから」で利益を失わない会社をつくることです。
私は、それが建設業が長く利益を残すための最初の一歩だと考えます。
※本記事は経営判断を考えるための架空の事例をもとに作成しています。実際の契約内容や法的責任は、契約書、設計変更の経緯、個別事情などによって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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