丸の内経営法律事務所

中小企業の少数株主問題は、単なる「株を買うか、買わないか」という話ではありません。

2026.08.18

特に家族経営や同族会社では、創業者、兄弟、配偶者、後継者、古参社員などが少しずつ株式を持っていることがあります。

関係が良好なうちは問題になりません。しかし、いったん関係が悪化すると、

  • 株を買い取ってほしい
  • もっと配当を出してほしい
  • 会社の資料を見せてほしい
  • 役員報酬の決め方を説明してほしい

といった要求が一気に出てくることがあります。

私は、この問題の本質は「少数株主をどう排除するか」ではないと考えます。

本当に考えるべきなのは、

「この会社の株を、5年後、10年後、誰にどれだけ持たせるのか」

という資本政策です。

相談事例

ある地方の産業用部品の専門商社を想定します。

年商は約12億円、従業員は40名ほど。創業者である父親が会長を務め、長男が2代目社長をしています。

株主構成は次のような状態です。

  • 社長:45%
  • 会長:22%
  • 社長の母:10%
  • 会長の弟である叔父:18%
  • 古参幹部2名:合計5%

叔父は十数年前に会社を退職しています。

ところが最近になって、叔父が「会社は利益を出しているのに配当が少ない」「役員報酬が高いのではないか」「会社の資料を確認したい」と言い始めました。

そして最終的に、

「自分の18%の株を1億2,000万円で買い取ってほしい。応じなければ株主として権利を行使する」

という要求が出てきました。

社長は怒っています。

「会社が苦しい時期には何も言わなかったのに、利益が出たら金を要求するのか」

という感情です。

一方、創業者である会長は、

「弟とはもう争いたくない。1億2,000万円で終わるなら払えばいい」

と考えています。

しかし会社には、約8,000万円の設備投資計画があります。

さらに叔父の話を聞いた社長の母親が、

「叔父さんの株をその価格で買うなら、私の10%も同じように買ってほしい」

と言い始めました。

古参幹部も「自分たちの株は退職時にどうなるのか」と気にし始めています。

ここで1億2,000万円を払えば、本当に問題は終わるのでしょうか。

私は、むしろそこから次の問題が始まる可能性があると考えます。

この問題の本質

私は、この問題の本質は叔父との対立そのものではなく、会社の資本政策が整理されていないことだと考えます。

叔父の18%だけを見れば、「買い取れば終わる」と考えたくなります。

しかし会社全体を見ると話は違います。

叔父に1億2,000万円を支払えば、母親も古参幹部も当然こう考えます。

「では、自分の株はいくらで買ってもらえるのか」

さらに半年後には、会長が経営の第一線から退く予定です。

そうなれば会長の22%についても、将来的に誰が持つのかという問題が出てきます。

つまり、今回の1億2,000万円は叔父一人だけの問題ではありません。

会社として「株主の出口価格」を事実上作ってしまう可能性があるということです。

よくある失敗

このような場面で起こりやすい失敗は、感情を止めるために会社のお金を使ってしまうことです。

社長からすれば、「叔父とこれ以上揉めたくない」という気持ちは当然あります。

会長にも「兄弟げんかを終わらせたい」という思いがあります。

ただ、この問題は感情的に動くと損失が拡大します。

叔父に高額な買取価格を提示したあと、母親も古参幹部も売却を希望すれば、必要資金は一気に膨らみます。

その結果、設備投資、採用、新規事業、事業承継など、本来会社の将来のために使うべき資金が失われる可能性があります。

法律上できることと、経営上やるべきことは同じではありません。

私ならどう考えるか

私なら、最初に叔父との価格交渉には入りません。

まず確認するのは、

「この会社の株主構成を最終的にどうしたいのか」

です。

現在の株主構成を書き出し、さらに5年後の理想的な株主構成を書きます。

そのうえで、

  • 叔父の18%
  • 母親の10%
  • 古参幹部の5%
  • 会長の22%

を今後どう扱うのか、一体として考えます。

短期・中期・長期を分けて考える必要があります。

短期

叔父が実際にどのような株主としての権利を持ち、何を要求してくる可能性があるのかを確認します。

同時に、株主総会、役員報酬、配当、議事録、会社資料などについて、会社側に手続上の弱点がないかを点検します。

中期

株式の評価額を確認し、会社が買う場合、社長個人が買う場合、分割して取得する場合などを比較します。

さらに、買い取りによって設備投資や借入余力がどこまで影響を受けるかを確認します。

長期

会長退任後、さらに3代目への事業承継まで含めて、誰が株を持つべきなのかを決めます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

最善策

私は、叔父の18%だけを個別に処理するのではなく、会社全体の資本政策を整理してから交渉するのが最善だと考えます。

もちろん、叔父からの要求を放置するわけではありません。

「要求は受け取った。会社として検討し、期限までに回答する」

と伝え、回答までの時間を確保します。

その間に確認するのは、例えば次のような事項です。

  • 現在の株主名簿
  • 定款
  • 過去の株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 役員報酬の決定経緯
  • 過去の配当実績
  • 各株主が株式を取得した経緯
  • 叔父が提示する1億2,000万円の根拠

少数株主だからといって、「経営権がないから無視してよい」ということにはなりません。

一方で、「権利を行使されると困るから要求額を払う」という判断も危険です。

会社側の状況を把握し、将来の株主構成を決め、その後に交渉条件を設計する。

私は、この順番が重要だと考えます。

なぜ法律だけでは解決できないのか

法律面では、株主がどのような権利を持っているのか、会社が自己株式を取得する場合にどのような手続が必要なのか、といった論点があります。

しかし、経営判断はそれだけでは終わりません。

仮に法的に株式を取得できたとしても、その結果として会社の現預金が大幅に減り、必要な設備投資ができなくなれば、会社にとって良い判断とは言えません。

また、叔父一人を処理しても、その次に母親、古参幹部、会長の株式問題が残ります。

法律上は可能でも、経営判断として合理的とは限らない。

これが少数株主問題の難しいところです。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の事項を確認します。

  • 現在の正確な株主構成
  • 各株主が株式を取得した時期と経緯
  • 株式の譲渡制限の内容
  • 叔父が実際に行使できる株主権
  • 過去の株主総会・取締役会の手続
  • 役員報酬の決定方法
  • 過去の配当方針
  • 1億2,000万円という要求額の根拠
  • 株式の客観的な評価額
  • 会社が取得する場合の資金負担
  • 社長個人が取得する場合との違い
  • 母親の株式に対する意向
  • 古参幹部との間に過去の買取約束がないか
  • 会長の22%を将来どうするのか
  • 5年後の理想的な株主構成

ここまで整理して初めて、

「叔父の株を買うのか」

「誰が買うのか」

「いくらなら合理的なのか」

という話に進めます。

まとめ

少数株主対策というと、つい「株を買い取って問題を終わらせる」という発想になりがちです。

しかし私は、少数株対策の本当の目的は、

会社の資本構造を、将来にわたって管理できる状態にすること

だと考えます。

叔父との対立を終わらせることは大切です。

ただ、そのために会社の資金、設備投資、事業承継まで犠牲にしてはいけません。

私なら、まず現在の株主構成を整理します。

次に5年後の理想的な株主構成を決めます。

そのうえで、叔父の18%をどう扱うかを考えます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

少数株主問題は「株の問題」に見えますが、実際には経営、財務、事業承継、家族関係、感情がすべて絡んでいます。

だからこそ、買う・買わないを最初に決めるのではありません。

「どんな会社の形を残したいのか」から逆算して考える。

私は、それが最初の一手だと考えます。


※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・税務その他の判断を示すものではありません。実際の株式取得、株主権、税務上の取扱い等は、会社の定款、株式の取得経緯、機関設計、財務状況その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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