優秀なNo.2から「社長になるなら株を15%ほしい」と言われたら、私はどう考えるか

2026.08.19

中小企業の事業承継では、「誰を次の社長にするか」と同じくらい難しいのが、誰に株を持たせるかという問題です。

特に、創業家以外の優秀な幹部を次期社長にしようとすると、こんな話が出てくることがあります。

「社長として責任を負うなら、株も持たせてほしい」

経営者からすれば、非常に悩ましい要求です。

株を渡さなければ優秀な幹部が辞めてしまうかもしれない。

しかし、一度株を渡せば、その人が社長を辞めても株主として残る可能性があります。

私は、この問題の本質は「15%を渡してよいか」ではないと考えます。

本当に考えるべきなのは、

「その人を何年間、どのような経営者として扱い、最後に株をどうするのか」

という入口から出口までの設計です。

相談事例

ある産業機械の保守・メンテナンス会社を想定します。

年商は約14億5,000万円、従業員は68名。

創業社長は68歳で、2年以内の引退を考えています。

株主構成は、

  • 創業社長:72%
  • 社長の妻:8%
  • 長女:20%

という、創業家100%の状態です。

後継者候補は38歳の長女です。

長女は財務、人事、DXには強いものの、営業や現場からの支持はまだ十分ではありません。

一方、45歳の常務は営業・現場をまとめる実質的なNo.2です。

主要顧客との関係も強く、社員からの信頼も厚い。

そこで創業社長は、まず常務を社長にし、その間に長女を育て、数年後に長女へ承継する「中継ぎ社長案」を考えました。

すると常務から、こう言われました。

「社長を引き受けるなら、会社の株式を15%持たせてほしい。株を持たずに責任だけ負うのは嫌です」

さらに競合会社から常務への引き抜きの話まで出ています。

営業部長からは、

「常務が辞めれば、何人か一緒に辞めるかもしれない」

と言われています。

創業社長としては、焦ります。

「15%くらいなら渡しても経営権は取られない。それより常務が辞めるほうが怖い」

という考えです。

ところが長女は反対します。

「5年後に常務と揉めたら、その15%を誰が回収するの?」

この長女の不安も、私は非常に重要だと思います。

この問題の本質

私は、この問題の本質は株式15%の多い・少ないではないと考えます。

問題は、経営者としての役割には期限がある可能性があるのに、株主という立場はその後も残る可能性があることです。

社長という役職は、交代できます。

しかし株式は、

「社長を辞めたので返してください」

だけでは済みません。

ここを曖昧にしたまま株を渡すと、数年後に大きな問題になります。

しかも今回の常務は、単なる15%株主ではありません。

主要顧客との関係が強く、営業部門や現場社員から信頼され、元社長という肩書まで持つ可能性があります。

将来、長女と常務が対立すれば、

「元社長で、社員や顧客に影響力を持つ15%株主」

が会社に残ることになります。

これは議決権割合だけでは測れない経営リスクです。

よくある失敗

こうしたケースでよくあるのが、優秀な幹部を失いたくないあまり、先に株式割合を約束してしまうことです。

「15%なら過半数ではないから大丈夫」

「今は関係が良いから問題ない」

「辞めるときは話し合えばいい」

この考え方は危険です。

私は、株式の問題では、関係が良いときほど関係が悪くなった場合を決めておくべきだと考えます。

退任したらどうするのか。

競合会社へ転職したらどうするのか。

死亡して相続が発生したらどうするのか。

会社の価値が大幅に上がったら、将来の株式取得資金をどうするのか。

ここを決めずに株を渡すのは、入口だけ作って出口を作らない状態です。

私ならどう考えるか

私なら、まず常務に「15%は多い、少ない」という話をしません。

最初に確認するのは、

「なぜ15%の株が欲しいのか」

です。

常務が求めているものは、本当に株そのものなのでしょうか。

例えば、

  • 経営者として認めてもらいたい
  • 創業家の都合だけで解任されたくない
  • 会社を成長させた成果を自分にも還元してほしい
  • 雇われ社長ではなく、当事者として経営したい

という思いかもしれません。

もしそうなら、普通株式15%だけが唯一の答えではありません。

報酬制度、業績連動報酬、段階的な株式取得、新株予約権など、目的によって複数の方法を比較できます。

大切なのは制度名ではありません。

常務が求めるものと、会社が守るべきものを分けて考えることです。

最善策

私なら、株式を渡すかどうかを即決せず、先に5年から10年の経営体制を書き出します。

例えば、

  • 2年後:創業社長が退任
  • 2~7年後:常務が代表取締役社長
  • その間:長女が現場・営業・経営経験を積む
  • 5年後前後:長女への承継を改めて判断
  • 常務退任時:保有株式の扱いを実行

という時間軸です。

これを決めたうえで、初めて株式の割合を考えます。

さらに、株を渡すのであれば、

  • 最初から15%なのか
  • 段階的に取得するのか
  • 業績や在任期間と連動させるのか
  • 退任した場合はどうするのか
  • 死亡した場合はどうするのか
  • 競合へ移った場合はどうするのか
  • 将来の株価をどう評価するのか

まで考えます。

「株を渡すなら、渡す前に戻し方を考える」

私はこれが非常に重要だと考えます。

なぜ法律だけでは解決できないのか

株式を扱う以上、会社法上の手続、譲渡制限、税務、株価評価などの確認は必要です。

しかし、それだけでこの問題は解決しません。

例えば法律上適切に15%を取得させることができたとしても、5年後に長女と常務が対立すれば、会社経営は不安定になる可能性があります。

逆に「外部の人間には絶対に株を渡さない」と決めれば、常務が退職し、社員や顧客が流出するかもしれません。

法律上は可能でも、経営判断として合理的とは限りません。

このケースでは、

人材を守ること、後継者を守ること、創業家の支配権を守ること

を同時に考える必要があります。

長女の感情も無視してはいけない

このケースでもう一つ重要なのが、長女の感情です。

創業社長からすれば、常務の退職が最大のリスクに見えています。

しかし長女から見ると、

「父は自分より常務を信用している」

と感じる可能性があります。

実際に長女が、

「そこまで常務が必要なら、私は会社を継がなくてもいい」

と考え始めたら、常務を守った代わりに後継者を失うことになります。

重要なのは、誰が正しいかではありません。

それぞれが何を怖がっているのかを見ることです。

社長は常務の退職が怖い。

長女は将来コントロールできない株主が残ることが怖い。

常務は責任だけ負わされ、創業家の都合で外されることが怖い。

この3つの不安を制度に落とし込むことが、本当の承継設計だと思います。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の事項を整理します。

  • 常務はなぜ15%を希望しているのか
  • 常務は何年間社長を務めるつもりなのか
  • 将来の長女への承継をどう考えているのか
  • 長女自身は本当に社長を希望しているのか
  • 現在の定款と株式譲渡制限
  • 15%を移転した後の株主構成
  • 現在の株式評価額
  • 株式取得資金を常務がどう準備するのか
  • 低額で譲渡した場合の税務上の影響
  • 普通株式以外の方法を利用できないか
  • 退任時の株式処理をどう考えるか
  • 常務死亡時の株式相続をどう考えるか
  • 競合会社へ転職した場合をどう考えるか
  • 常務に依存している顧客はどこか
  • 常務に依存している社員は誰か
  • 常務社長時代の長女の役割
  • 常務から長女へ何を引き継いでもらうのか
  • 5年後・10年後の理想的な株主構成

最初に守るべきものは何か

私は、このケースでは次の順番で考えます。

会社の継続

常務という経営資源

長女という後継者

創業家の支配権

具体的な株式割合

15%という数字から考え始めると、議論が株式だけに狭まります。

しかし本来の目的は、15%を渡すことでも、創業家100%を守ることでもありません。

会社が次の世代でも安定して経営できる状態を作ることです。

まとめ

優秀なNo.2から、

「社長になるなら株を持たせてほしい」

と言われれば、経営者が悩むのは当然です。

しかも競合から引き抜きの話まであれば、早く結論を出したくなります。

しかし私は、そこで株式割合を即決しません。

まず確認するのは、常務を何年間、どんな経営者として扱うのか。

次に、長女へいつ、どう承継するのか。

そして最後に、常務が会社を離れるとき株をどうするのか。

この順番です。

株式は、人を引き留めるためだけの道具ではありません。

一度渡せば、会社の支配構造そのものが変わります。

だからこそ私は、

「株を渡すかどうか」ではなく、「株を持たせた後の5年間と、辞める日のことまで考える」

ことが重要だと考えます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

中継ぎ社長を置くなら、その人の役割は会社を運営することだけではありません。

自分がいなくても回る会社を作り、次の経営者へ渡すところまで設計する。

私は、それが今回の最初の一手だと考えます。


※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・税務その他の判断を示すものではありません。実際の株式移転、株価評価、税務上の取扱い、株式の設計等は、会社の定款、株主構成、株式の評価額、取引条件その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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