
競合に少数株が渡りそうになったら、私はどう考えるか
2026.08.20
中小企業の株主問題では、普段はほとんど意識されていなかった少数株が、ある日突然、大きな経営リスクになることがあります。
特に厄介なのが、退職した元役員や古参社員が持っていた株式が相続され、その相続人が会社とほとんど関係のない第三者へ売却しようとするケースです。
しかも、その相手が競合会社の関係者だったらどうするか。
経営者としては、
「多少高くてもいいから、絶対に競合には渡したくない」
と考えたくなる場面です。
私は、その感情自体は自然だと思います。
ただし、ここで恐怖だけを基準に株を高値で買い戻すと、別の問題を作る可能性があります。
私は、この問題の本質は、目の前の8%をどう買い戻すかではなく、
「今後動く可能性のある少数株を、会社としてどう整理していくのか」
という資本政策にあると考えます。
相談事例
ある業務用食品・冷凍惣菜メーカーを想定します。
年商は約22億円、従業員は94名。
会社は2代目社長が経営しており、株主構成は次のようになっています。
- 社長:51%
- 社長の母:12%
- 社長の弟:14%
- 社長の長男:10%
- 古参社員2名:合計5%
- 元専務の相続人3名:合計8%
問題になったのは、元専務が保有していた8%の株式です。
元専務は創業者の右腕として会社に長年貢献し、退職後も株を持ち続けていました。
創業者は生前、
「世話になった人だから、株くらい持っていてもらえばいい」
と考えていたようです。
しかし、その元専務が亡くなり、株式は妻と子2人に相続されました。
相続人は会社経営には関係していません。
しばらくすると相続人から、
「この株を現金化したい」
という話が出ます。
会社は3,000万円程度での買取りを打診しましたが、相続人側は拒否しました。
そしてその後、競合会社の元役員で、現在も競合会社と関係のある人物から、
「売却できるなら検討したい」
という話が出ていることが分かりました。
社長は一気に危機感を強めます。
「競合に株を持たれるくらいなら、多少高くても会社で買うしかない」
という判断に傾きました。
この問題の本質
私は、このケースで最も危険なのは、競合への恐怖によって株価判断まで狂わせてしまうことだと考えます。
もちろん、競合関係者が株主になることは避けたい。
しかし、
「競合に渡してはいけない」ことと、「相手の希望価格で買わなければならない」ことは別問題です。
さらに、この会社には今回の8%以外にも問題があります。
古参社員2名が合計5%を持っています。
2人とも60代で、1人は退職予定です。
また、社長の母も12%を保有しています。
今後、相続が起きれば、この12%も動く可能性があります。
つまり、今後動く可能性のある株式は、今回の8%だけではありません。
8%+5%+12%=25%
です。
ここを見ずに8%だけを高値で処理すると、次の株主問題で会社が苦しくなります。
よくある失敗
少数株主問題でよくあるのが、1件ずつ場当たり的に処理することです。
今回の株主には4,000万円。
次の株主には5,000万円。
その次にはまた別の条件。
こうしていると、会社としてのルールがありません。
さらに問題なのは、今回の買取価格が社内で知られる可能性があることです。
古参社員が、
「8%をこの金額で買ったなら、自分の5%も同じ計算ですよね」
と言い始めるかもしれません。
母親の株式を将来整理するときにも、同じ問題が出ます。
つまり、今回の買取価格は、8%だけの値段ではありません。
今後の株式買取交渉における事実上の基準価格になる可能性があるということです。
私ならどう考えるか
私なら、相続人との価格交渉を急ぐ前に、まず会社の立ち位置を整理します。
最初に確認するのは、
- 定款
- 株主名簿
- 株式譲渡制限の内容
- 譲渡承認の決定機関
- 相続によって取得した株式についての定款規定
- 相続人から正式な譲渡承認請求が出ているか
です。
譲渡制限会社だからといって、
「競合には売らせない。以上」
で終わるとは限りません。
会社が譲渡を承認しない場合、その後の買取手続や価格決定の問題に進む可能性があります。
だからこそ、感情的な拒否ではなく、会社がどの選択肢を持っているのかを先に確認する必要があります。
最善策
私は、今回の8%だけを緊急処理するのではなく、同時に今後の株主構成を整理します。
例えば、現在の株主構成の横に、5年後、10年後の理想的な株主構成を書きます。
そのうえで、
- 相続人8%をどうするか
- 古参社員5%を退職時にどうするか
- 母12%を将来誰が持つのか
- 社長51%を次世代へどう移すのか
を一体として考えます。
さらに重要なのは、株式整理に使える総予算を決めることです。
この会社には約4億8,000万円の現預金があります。
一見すると余裕があります。
しかし翌年度には約2億円の設備更新が予定されています。
さらに追加投資の可能性もあります。
だから見るべきなのは、
「8%を買えるか」
ではありません。
「今後5年から10年で、少数株整理に会社として総額いくらまで使えるか」
です。
その総額を決めてから、今回の8%にどこまでプレミアムを払えるかを考えます。
競合に渡る怖さを価格にそのまま乗せない
今回、経営者の心理として一番危ないのが、
「競合だけは絶対に嫌だ」
という気持ちを相手に見せすぎることです。
相続人側から見れば、会社が競合への売却を極端に恐れていると分かれば、交渉上は当然有利になります。
「会社は高くても買うはずだ」
という期待を持たれるからです。
だから私は、
競合への流出を止めるための法的・経営的対応と、株式の買取価格交渉を切り離して考える
ことが重要だと考えます。
流出は防ぐ。
しかし、価格は価格として合理的に判断する。
この二つを分けるだけでも、交渉はかなり変わります。
相続人を敵にしないことも重要
もう一つ注意したいのは、相続人を最初から敵扱いしないことです。
相続人からすれば、自分たちは会社を乗っ取ろうとしているわけではないかもしれません。
親から相続した財産を、できるだけ適正な価格で現金化したい。
それだけの可能性もあります。
会社が、
「競合に売るなんて許さない」
「3,000万円で売れ」
という態度を取れば、価格の問題が感情の問題に変わります。
すると、
「会社には絶対売りたくない」
という対立になりかねません。
この問題は、感情的に動くと損失が拡大します。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
もちろん、この問題では会社法上の譲渡制限、譲渡承認、不承認時の買取り、価格決定などの確認が必要です。
しかし法律上の対応だけで終わらせると、本当の問題は残ります。
今回8%を処理しても、来年には古参社員5%の問題が出るかもしれません。
その後には母12%の相続問題があります。
法律上は今回の株を処理できても、資本政策が整理されていなければ、同じ問題を何度も繰り返します。
私は、このようなケースでは、
法律問題として処理するだけではなく、資本構成そのものを作り直す必要がある
と考えます。
実務上のチェックポイント
私なら、少なくとも次の事項を確認します。
- 最新の定款
- 株式譲渡制限の具体的内容
- 譲渡承認を決める機関
- 相続人等に対する売渡請求に関する規定の有無
- 相続人3名それぞれの保有株式数
- 正式な譲渡承認請求が出ているか
- 売却予定先の正確な人物・法人
- 競合会社との具体的な関係
- すでに売買契約が締結されていないか
- 3,000万円という提示価格の根拠
- 相続人側が考えている価格
- 複数の方法による株価試算
- 会社で買う場合の資金負担
- 社長や長男が個人取得する場合の可能性
- 古参社員5%の取得経緯と退職予定
- 過去に株式買取りを約束していないか
- 母12%の将来の承継方法
- 今後の設備投資額
- 株式整理に使える総予算
- 5年後、10年後の理想的な株主構成
最初に守るべきものは何か
このケースで私なら、次の順番で考えます。
競合への株式流出をコントロールする
↓
会社の法的ポジションを確認する
↓
設備投資資金を守る
↓
将来の少数株整理余力を守る
↓
今回の8%の価格交渉をする
つまり、最初から、
「いくらなら買えるか」
ではありません。
「会社として、今後どこまで株式整理に資金を使えるのか」
から考えます。
まとめ
競合会社の関係者が少数株を取得しようとしていると聞けば、経営者が不安になるのは当然です。
「多少高くても買ってしまいたい」
と思うでしょう。
ただ、私はそこで8%だけを見ません。
今回の8%。
古参社員の5%。
母の12%。
今後動く可能性のある株式を全部並べます。
そして、会社として10年先までに少数株をどう整理するのかを考えます。
少数株主対策の本当の目的は、目の前の株主を排除することではありません。
会社の株主構成を、将来にわたって管理できる状態に戻すことです。
今回の問題を一言で言えば、
「8%を守るためにいくら払うか」ではなく、「今後動く25%をどう整理するか」を考える。
私は、それが最初の一手だと考えます。
※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・税務その他の判断を示すものではありません。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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