少数株主から「配当を増やすか、9,000万円で株を買ってほしい」と言われたら、私はどう考えるか

2026.08.21

中小企業の少数株主問題では、表面上は「お金の話」に見えても、実際にはそれだけではないことがあります。

たとえば、会社に勤務していない親族株主から、

「配当をもっと増やしてほしい」

あるいは、

「配当を増やさないなら、私の株を9,000万円で買い取ってほしい」

と言われたら、経営者はどう考えるべきでしょうか。

私は、この問題を単純な株価交渉として扱わないほうがいいと考えます。

なぜなら、本当に確認すべきなのは、

「その株主は、配当が欲しいのか、株を売りたいのか、それとも経営に対する不信を解消したいのか」

だからです。

この3つは、似ているようで解決策がまったく違います。

相談事例

ある住宅設備・リフォーム工事会社を想定します。

年商は約16億8,000万円、従業員は57名。

2代目社長が経営しており、株主構成は次のようになっています。

  • 社長:48%
  • 社長の妻:8%
  • 社長の長男:12%
  • 社長の妹:12%
  • 社長の弟:10%
  • 古参社員3名:合計10%

社長、妻、長男を合わせると68%なので、経営権そのものは比較的安定しています。

そのため社長は長年、

「少数株主がいても、経営には大きな問題はない」

と考えていました。

しかし、創業者である父が亡くなってから状況が変わります。

相続で12%を取得した妹が、会社の利益や配当を気にするようになりました。

さらに、妹の夫が退職して家計収入が減ったこともあり、妹から、

「会社は儲かっているのに、なぜ私は数十万円しか配当をもらえないの?」

という不満が出るようになります。

一方、会社では、

  • 社長:年2,400万円
  • 妻:年900万円
  • 長男:年1,100万円

の役員報酬が支払われています。

もちろん、全員が実際に会社で働いています。

しかし会社に勤務していない妹から見ると、

「兄一家だけが会社から大きな利益を得ている」

という見え方になっていました。

妹の要求は本当に「9,000万円」なのか

妹はその後、会社に対して、

  • 過去5年の決算内容を知りたい
  • 役員報酬の決め方を知りたい
  • 配当方針を説明してほしい
  • 社長一家だけが利益を得ていないか確認したい

と求めるようになりました。

そして最終的には、

「もっと配当を出してほしい。それが嫌なら12%の株を9,000万円で買ってほしい」

という話になります。

ここで社長が、

「9,000万円は高すぎる」

とだけ反応すると、問題の本質を見失います。

私はまず、妹の要求を分解します。

1つ目は、配当を増やしてほしいという要求

妹が株を持ち続けたいのであれば、配当政策の問題です。

2つ目は、株を現金化したいという要求

会社との関係を終わらせたいのであれば、株式買取の問題です。

3つ目は、経営への不信

「兄一家だけ得をしているのではないか」という気持ちが中心であれば、株価や配当だけでは解決できません。

つまり、9,000万円という数字だけ見ても、本当に解決したい問題は分からないのです。

この問題の本質

私は、このケースの本質は、少数株主への説明と出口設計を長年放置してきたことだと考えます。

創業者が生きている間は、

「家族だから分かってくれる」

「昔からの社員だから問題にならない」

という人間関係で株主問題を処理できることがあります。

しかし世代が変わると、その前提は崩れます。

株主から見れば、株式は財産です。

会社で働いていない株主にとっては、役員報酬ではなく、配当や売却価格が主な経済的利益になります。

それにもかかわらず、

「家族だから黙って持っていてほしい」

という考え方を続けると、不満が蓄積します。

今回だけ12%を買えば終わるのか

ここでさらに重要なのが、妹以外の少数株です。

この会社では、

  • 妹:12%
  • 弟:10%
  • 古参社員:10%

があります。

合計すると、32%です。

しかも、弟もすでに、

「自分も配当が少ないと思っていた」

と言い始めています。

古参社員からも、

「退職したら会社が株を買ってくれるんですよね?」

という声が出ています。

つまり、妹12%だけ9,000万円で処理しても、次の問題がすぐに出てくる可能性があります。

よくある失敗

このようなケースでよくあるのが、最初に強く要求してきた株主だけを高値で買い取ることです。

たしかに、それで目の前の対立は終わるかもしれません。

しかし、他の株主から見れば、

「強く言えば会社が株を買ってくれる」

というメッセージになります。

さらに、妹の12%を9,000万円で買えば、その価格が弟や古参社員との交渉でも意識されます。

つまり、今回の9,000万円は妹だけの問題ではありません。

今後の少数株整理全体の価格基準になり得るということです。

私ならどう考えるか

私なら、最初に妹へ価格を提示しません。

まず聞くのは、

「最終的にどうしたいのか」

です。

例えば、

  • 毎年ある程度の収入が欲しい
  • もう会社とは関係を持ちたくない
  • 自分の株の価値を知りたい
  • 社長一家だけが得をしているように見えることが不満
  • 経営状況をきちんと説明してほしい

では、対応方法が違います。

この確認をせずに、

「9,000万円は払えない」

という話から始めると、妹との関係はさらに悪化します。

配当を増やせば解決するのか

では、配当を増やせばいいのでしょうか。

私は、それも単純には決めません。

会社には、

  • 採用
  • 設備投資
  • 営業所開設
  • 景気悪化への備え

など、内部留保を持つ合理的な理由があります。

株主から不満が出たからという理由だけで配当を増やすと、会社の中長期的な財務戦略が崩れる可能性があります。

大切なのは、

「なぜ今、この配当水準なのか」を説明できること

です。

配当を低くするのであれば、低くする経営上の理由が必要です。

逆に、利益が積み上がり続けているのに、株主への還元方針がまったくないのであれば、その点は見直す余地があります。

役員報酬と配当を分けて考える

このケースでは、役員報酬の見え方も重要です。

社長一家は会社で働いているため、役員報酬を受け取っています。

一方、妹や弟は会社で働いていないため、役員報酬はありません。

ここで重要なのは、

役員報酬は労働や経営責任への対価、配当は株主への利益還元

という整理です。

この二つを混ぜると、議論が感情的になります。

会社として、

「役員報酬は何を基準に決めているのか」

「配当は何を基準に決めているのか」

を説明できる状態にしておく必要があります。

法的な防御も同時に必要

妹との関係改善が重要だからといって、会社側の手続確認を後回しにしてよいわけではありません。

今回、会社には、

  • 株主総会議事録
  • 役員報酬の決議
  • 配当決議
  • 計算書類
  • 株主名簿

などについて、「家族会社だから」という理由で簡略に扱ってきた部分があります。

私は、このような場合、妹との話し合いと並行して、会社側の手続上の弱点を点検します。

感情的には家族問題でも、株主として正式な権利行使が始まれば、会社として対応しなければなりません。

最善策

私なら、今回を妹12%だけの問題として処理しません。

妹12%、弟10%、古参社員10%の合計32%について、今後の出口ルールを設計します。

例えば、

  • 株式を持ち続けてもらう場合の配当方針
  • 株を売りたい場合の基本的な考え方
  • 一括で取得するのか、段階的に取得するのか
  • 誰が買うのか
  • 会社資金をどこまで使うのか
  • 価格をどう考えるのか
  • 将来の事業承継で誰に株を集約するのか

を整理します。

ここまで決めて初めて、妹の9,000万円という要求に向き合います。

株式整理には「総予算」という考え方が必要

私は、少数株対策では、1件ごとの買取価格だけではなく、

「今後10年間で株式整理に総額いくらまで使えるのか」

を考えることが重要だと思います。

妹12%だけなら買える。

しかし、その後に弟10%、古参社員10%が続けばどうなるのか。

さらに将来、社長自身の株式を長男へ承継する問題もあります。

会社資金は株主整理のためだけにあるわけではありません。

本業の投資、採用、設備更新、運転資金も必要です。

だからこそ、

「買えるか」ではなく、「どこまで使ってよいか」

を先に決める必要があります。

相手を敵にしない

親族株主の問題では、感情が非常に強くなります。

社長は、

「身内なのに会社を疑うのか」

と思います。

妹は、

「兄一家だけ会社の利益を享受している」

と感じています。

弟も、

「兄だけが父の会社を自由にしているのではないか」

と思い始めています。

ここで誰が正しいかを争っても、会社は良くなりません。

私は、この問題では、

「相手が何を怖がり、何に不公平感を持っているのか」を先に確認する

ことが大切だと考えます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の事項を確認します。

  • 現在の正確な株主構成
  • 妹・弟が株式を取得した経緯
  • 古参社員株の取得経緯
  • 定款の内容
  • 株式譲渡制限の内容
  • 過去の株主総会議事録
  • 役員報酬の決定手続
  • 過去の配当実績
  • 内部留保の具体的な使途
  • 今後の設備投資・採用計画
  • 妹が本当に株を売りたいのか
  • 9,000万円の算定根拠
  • 複数の方法による株価試算
  • 弟も売却を希望しているのか
  • 古参社員に買取りを約束していないか
  • 会社が株式整理に使える総額
  • 社長や長男による個人取得の可能性
  • 将来の事業承継計画
  • 5年後の理想的な株主構成
  • 10年後に会社に残してよい株主は誰か

最初に守るべきものは何か

私なら、このケースでは次の順番で考えます。

会社側の手続を整える

妹が本当に求めているものを確認する

配当方針を整理する

32%の少数株全体の出口を設計する

株式整理の総予算を決める

妹との価格交渉に入る

最初から、

「配当を増やすか」

「9,000万円で買うか」

という二択に乗る必要はありません。

経営側には、もっと多くの選択肢があります。

まとめ

少数株主から、

「配当を増やしてほしい」

「それが嫌なら株を買い取ってほしい」

と言われると、どうしても金額の話に意識が向きます。

しかし私は、その前に確認します。

その人は本当に何を求めているのか。

配当なのか。

現金化なのか。

経営への不信の解消なのか。

そして、目の前の12%だけではなく、弟10%、古参社員10%まで並べます。

今回の問題は、妹12%の問題ではありません。

将来動く可能性のある32%の株式を、どう整理していくかという問題です。

だから私は、

「妹にいくら払うか」ではなく、「なぜ妹が売りたいのかを分解し、これから動く32%の出口をどう作るか」を先に考える。

それが、このケースにおける最初の一手だと考えます。


※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・税務その他の判断を示すものではありません。実際の株主権、配当、自己株式取得、株価評価、税務上の取扱い等は、会社の定款、株主構成、株式取得の経緯、財務状況その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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