
中古車販売でエンジン不調クレームとSNS投稿が起きたときの初動対応
2026.07.14
導入
中古車販売では、販売後の不具合クレームが避けられない場面があります。
中古車は新車ではありません。
年式、走行距離、使用状況、前所有者の管理状態によって、一定のリスクがあります。
しかし、だからといって、販売後すぐの故障をすべて「中古車だから仕方ない」で片づけてよいわけではありません。
特に、会社が「整備工場併設で安心」「保証付き」「状態良好」と打ち出して販売していた場合、顧客はその説明を信じて購入します。
その後、納車から短期間でエンジン警告灯が点灯し、高額な修理費が必要になれば、顧客が強い不信感を持つのは自然です。
私は、この問題の本質は「保証対象か対象外か」だけではないと考えます。
本質は、販売時の説明、広告表示、納車前点検、整備士の警告、保証範囲、顧客の期待、営業と整備の連携が一致していたかどうかです。
相談事例
ある地域密着型の中古車販売・整備会社の事例です。
この会社は、地域で30年以上続く中古車販売店でした。
中古車販売だけでなく、車検、一般整備、保証付き販売、下取り、オートローン取次も行っていました。
ネット掲載では、次のような言葉を打ち出していました。
「地域密着」
「整備工場併設で安心」
「保証付き中古車」
「購入後も面倒を見ます」
売上は伸びていました。
しかし、その裏で販売後の不具合クレームが増えていました。
特に問題になったのは、納車から約40日後にエンジン警告灯が点灯したミニバンでした。
その車は、走行距離9.8万km、年式は9年前。
子どもが3人いる30代夫婦が購入した車でした。
顧客は来店時に、次のように話していました。
「子どもの送迎に使いたい」
「高速道路もたまに使う」
「予算は抑えたいが、すぐ壊れる車は困る」
「ローンを組むので、長く乗りたい」
「保証があるなら安心」
営業担当者は、営業部長の指示を受けて、次のように説明しました。
「この車は人気車種です」
「整備工場併設なので安心です」
「納車前点検もします」
「保証もあります」
「この価格帯ではかなり良い車です」
顧客はオートローンを組み、総額148万円で購入しました。
ところが納車から約40日後、高速道路走行中にエンジン警告灯が点灯しました。
顧客は強い不安を感じ、すぐに店舗へ連絡しました。
整備工場で確認すると、エンジン内部の不具合が疑われ、修理費は少なくとも25万円、場合によっては50万円以上になる可能性がありました。
納車前点検で見つかっていた不安
整備工場長が納車前点検記録を確認すると、いくつか気になる点がありました。
- エンジン異音について、整備士が「要注意」とメモしていた
- オイルににじみがあったが、清掃のみで納車されていた
- 試運転距離が短かった
- チェックランプ履歴の確認記録が曖昧だった
- オークション仕入れ時の評価表に「機関要確認」と書かれていた
- 営業側が納期優先で整備完了を急がせていた
- 保証書には細かい免責が多く、顧客が理解していたか不明だった
整備士は、納車前に営業担当者へ不安を伝えていました。
「この車は少し怖い」
「保証付きで売るなら、説明を丁寧にした方がいい」
「エンジン周りは後で揉めるかもしれない」
しかし、営業部長はこう返していました。
「中古車は新車じゃない」
「全部直していたら利益が出ない」
「多少のリスクを説明しすぎると売れない」
「保証で全部見ますと言ったわけではない」
ここに、この会社の大きな問題がありました。
整備部門は不安を感じていた。
しかし、販売判断では営業部門の都合が優先された。
その結果、販売後の不具合が顧客との大きなトラブルになったのです。
顧客の怒りとSNS投稿
顧客は強く怒りました。
「整備工場併設で安心と言われた」
「保証付きと言われたから買った」
「子どもを乗せて高速で警告灯が出た。怖かった」
「そんな状態なら最初から買わなかった」
「ローンだけ残って修理代も払えというのは納得できない」
営業部長は、顧客に対して次のように説明しました。
「中古車なので一定の不具合はあります」
「保証対象外の可能性が高いです」
「購入時に保証範囲は説明しています」
「修理するなら部品代を一部負担してもらう必要があります」
しかし、顧客はさらに不信感を強めました。
その後、顧客の妻がSNSに投稿しました。
「整備工場併設で安心と言われて中古車を買ったら、1か月少しでエンジン警告灯」
「小さい子どもを乗せて高速で止まりそうになった」
「保証付きと言われたのに、修理費を負担しろと言われた」
「中古車だから仕方ないで済むの?」
会社名は書かれていませんでした。
しかし、地域名、店舗外観、車両の特徴から、かなり特定されやすい内容でした。
Google口コミにも低評価が入り始めました。
営業部長は、SNSに過剰反応する必要はないと主張しました。
「SNSに過剰反応すると負ける」
「1件のクレームに全部応じたら、他の客も言い出す」
「中古車で完璧を求められても困る」
「保証書に書いてある以上、会社は守られている」
しかし、整備工場長は強く反発しました。
「保証書の前に、販売時の説明と車両状態の問題がある」
「整備士が不安を伝えたのに、営業が売り急いだ」
「納車前点検の意味がなくなる」
「このままでは整備士が責任だけ負わされる」
この問題の本質
私は、この問題の本質は「保証対象か保証対象外か」ではないと考えます。
もちろん、保証書の内容確認は必要です。
しかし、今回のような事案では、保証書だけで判断すると危険です。
なぜなら、顧客は単に安い中古車を買ったのではなく、「整備工場併設で安心」「保証付き」「状態良好」という説明を信じて購入しているからです。
さらに、整備士が事前に不安を伝えていたにもかかわらず、営業側が売り急いでいた可能性があります。
この場合、会社として確認すべきなのは、次の点です。
- 仕入れ時点で車両状態をどう把握していたか
- 納車前点検で何を確認したか
- 整備士のメモや警告が販売判断に反映されたか
- 販売時に顧客へどこまで説明したか
- 広告表示が実態より安心感を強めていなかったか
- 保証範囲を顧客が理解できる形で説明したか
- 故障原因が販売前から予見できるものだったか
- ローン契約との関係をどう整理するか
つまり、これは中古車の故障対応ではなく、販売体制全体の問題です。
よくある失敗
この場面でよくある失敗は、まず「保証対象外です」と押し切ることです。
保証書に細かい免責が書いてあるからといって、顧客が納得するとは限りません。
むしろ、広告で「安心」「保証付き」と打ち出していた会社が、トラブル時だけ細かい免責を持ち出すと、強い反発を招きます。
次に、全額返金や車両交換を急ぐことも慎重に考える必要があります。
顧客感情を鎮める意味では有効な場合があります。
しかし、事実確認をせずに全面対応すると、他のクレームにも波及します。
どのような基準で返金するのか、修理費をどこまで負担するのか、ローン契約をどう扱うのかが曖昧になります。
もう一つの失敗は、SNSで強く牽制することです。
「事実と異なる投稿には厳正に対応します」と発信したくなる気持ちはわかります。
しかし、顧客は小さな子どもを乗せて高速道路で警告灯が出た恐怖を感じています。
その段階で会社が牽制すれば、「責任逃れ」「脅し」と受け取られる可能性があります。
私ならどう考えるか
私なら、まず当該車両に関する情報をすべて棚卸しします。
最初に確認するのは、仕入れ評価表です。
オークション評価表に「機関要確認」と書かれていたなら、その意味を確認します。
営業側がその記載を把握していたのか。
整備側に共有されていたのか。
販売時に顧客へ説明されたのか。
次に、納車前点検記録を確認します。
エンジン異音、オイルにじみ、チェックランプ履歴、試運転距離、整備士メモを確認します。
特に重要なのは、整備士が「要注意」と書いていたことが、販売判断にどう扱われたかです。
さらに、販売時説明を確認します。
営業担当者が、顧客に何を説明したのか。
「保証付き」と言ったとき、どの範囲まで保証されると説明したのか。
「整備工場併設で安心」と言ったことで、顧客がどのような期待を持ったのか。
広告表示も確認します。
「状態良好」「ファミリーカーに最適」「購入後も安心」という表現が、車両状態や保証内容と整合していたかを見ます。
そして、故障原因を確認します。
今回のエンジン不調が、販売前から予見できたものなのか。
納車後の使用によるものなのか。
この判断がなければ、顧客対応方針は決められません。
最善策
私が最初に優先すべきだと考えるのは、次の対応です。
仕入れ評価表、納車前点検記録、整備士メモ、販売時説明、広告表示、保証書、顧客の使用状況、故障原因、ローン契約、SNS投稿、類似クレーム、在庫・保証費用を棚卸しする。
同時に、当該顧客への個別対応方針、危険車両販売基準、営業部長の単独判断制限、整備承認フロー、広告・保証表示の見直しを進める。
これが最善です。
この対応のポイントは、棚卸しだけで終わらせないことです。
事実確認をしながら、すぐに止めるべきリスクは止める。
営業部長の単独販売判断は制限する。
整備工場長の承認が必要な車両基準を暫定的に作る。
広告の「安心」「保証付き」「状態良好」といった表現を見直す。
顧客には、責任逃れではなく、事実確認を踏まえた個別対応方針を示す。
この順番が重要です。
なぜ法律だけでは解決できないのか
このケースでは、契約不適合責任、消費者契約、景品表示、保証表示、ローン契約などが問題になります。
法律や契約書の確認は重要です。
しかし、法律だけでは会社は守れません。
保証書に免責があっても、顧客が「保証付きだから安心」と理解していたなら、不信感は残ります。
広告表示が法的に直ちに違反とまではいえなくても、実態より安心感を強めていれば、口コミは悪化します。
契約上は修理費の一部負担を求められるとしても、整備士が事前に警告していた事実があれば、会社の説明責任は重くなります。
つまり必要なのは、法的な線引きだけではありません。
顧客に対して説明できる販売プロセスです。
整備士の警告が反映される仕組みです。
広告と実態が一致している状態です。
重要なのは、保証書で勝てるかどうかではありません。
会社として、安心を売るだけの実態があったかどうかです。
実務上のチェックポイント
このようなケースでは、私は次の点を確認します。
1. 仕入れ評価表
オークション評価表、修復歴、機関要確認、走行距離、外装・内装評価を確認します。
2. 納車前点検記録
エンジン異音、オイルにじみ、チェックランプ履歴、試運転距離、整備内容を確認します。
3. 整備士メモ
整備士が不安を指摘していたか、それが営業側に共有されていたかを確認します。
4. 販売時説明
顧客が何を重視していたか、営業担当者が何を説明したか、保証範囲をどう説明したかを確認します。
5. 広告表示
「整備工場併設で安心」「保証付き」「状態良好」「ファミリーカーに最適」といった表現の根拠を確認します。
6. 保証書
保証範囲、免責条項、有償修理の条件、顧客への説明方法を確認します。
7. 故障原因
販売前から予見できた不具合か、納車後の使用による不具合かを確認します。
8. ローン契約
顧客がローンを組んでいる場合、修理中の代車、支払い負担、契約解除希望への対応を整理します。
9. 類似クレーム
同じような販売後不具合や保証トラブルが他にもないか確認します。
10. 営業と整備の承認フロー
整備工場長に販売停止提案権限があるか、営業部長が単独で販売判断していないかを確認します。
まとめ
中古車販売で、納車後すぐにエンジン不調が発生した。
顧客は「保証付き」「整備工場併設で安心」と言われて購入していた。
しかし、会社は保証対象外の可能性を説明し、顧客はSNS投稿や消費生活センター相談を示唆している。
このような場面で、社長が悩むのは当然です。
「全額返金すると他の顧客にも波及する」
「保証対象外として押し切ると炎上する」
「営業部長を責めると売上が落ちる」
「整備士を軽く扱うと現場が離れる」
「銀行にも説明しづらい」
その感覚は自然です。
しかし私は、このケースで最初にやるべきことは、保証書を盾にすることでも、SNSで牽制することでも、いきなり全額返金することでもないと考えます。
まず、仕入れ評価表、納車前点検記録、整備士メモ、販売時説明、広告表示、保証書、顧客の使用状況、故障原因、ローン契約、SNS投稿、類似クレーム、在庫・保証費用を棚卸しする。
同時に、当該顧客への個別対応方針、危険車両販売基準、営業部長の単独判断制限、整備承認フロー、広告・保証表示の見直しを進める。
この順番です。
中古車販売会社が守るべきものは、目先の在庫回転だけではありません。
顧客が納得して購入できる説明。
整備士の警告が販売判断に反映される仕組み。
広告と実態が一致している状態。
保証付きと書くなら、その意味を顧客が理解できる説明。
私は、それが中古車販売会社が最初に守るべきものだと考えます。
免責文
本記事は、中小企業における中古車販売、エンジン不調クレーム、保証対応、SNS投稿、広告表示、整備記録、営業と整備の対立に関する経営判断を考えるための一般的なケーススタディです。
実際の事案では、契約書、保証書、広告表示、車両状態、点検記録、販売時説明、故障原因、ローン契約、顧客対応の経緯などによって判断が異なります。
個別案件では、事実関係を丁寧に確認したうえで対応方針を検討する必要があります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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