契約書の自動更新を見落とした…。赤字契約からどう抜けるべきか

2026.08.10

「解約期限を過ぎているので、契約はあと3年間自動更新です。」

取引先からそう言われたら、多くの経営者は頭を抱えると思います。

しかも、その契約がすでに赤字になっているとしたら、問題はさらに深刻です。

契約を守れば赤字が続く。

一方的にやめれば、損害賠償や他の取引まで失う可能性がある。

私は、このようなケースで最初に考えるべきなのは、

「契約から抜けられるか」ではなく、「どの条件なら続けられるのか。それが無理なら、どう安全に抜けるのか」

だと考えます。

相談事例

あるビルメンテナンス会社では、大手不動産管理会社から大型商業施設の設備管理・清掃業務を受託していました。

年間契約額は約1億4,000万円。

契約当初は年間約1,500万円の利益が出ていました。

しかしその後、最低賃金、人件費、採用費、夜間対応コストなどが上昇。

現在では年間約1,200万円の赤字になっています。

そこで会社は契約終了を検討しました。

ところが契約書を確認すると、

「契約満了日の6か月前までに書面による解約通知がない場合、さらに3年間更新する」

という自動更新条項がありました。

そして会社が確認した時点では、すでに解約通知期限を3週間過ぎていました。

この問題の本質

私は、このケースの本質は「解約期限を忘れたこと」だけではないと考えます。

本当に問題なのは、

  • 契約更新期限を営業担当者任せにしていた
  • 赤字になっても正式な価格改定交渉をしていなかった
  • 大口顧客との関係悪化を恐れて問題を先送りした
  • その負担を現場社員が背負っていた

という会社全体の契約管理と経営判断です。

つまり、今回の赤字契約は突然生まれたわけではありません。

採算悪化を把握しながら、契約と交渉を放置してきた結果です。

「自動更新されたから3年間我慢する」は正しいのか

契約書に自動更新条項があれば、その内容を無視することはできません。

しかし、自動更新されたからといって、

「あと3年間、まったく同じ条件で赤字を受け入れるしかない」

と直結するとは限りません。

今回の契約には、

「人件費その他の経済事情に著しい変動が生じた場合、双方誠実に委託料の変更について協議する」

という条項もありました。

つまり、自動更新条項だけを見るのではなく、価格改定、中途解約、業務範囲、再委託、損害賠償など、契約全体を見る必要があります。

よくある失敗① 赤字でも契約を守り続ける

「契約した以上、最後までやり切るべきだ。」

この考え方には責任感があります。

しかし、年間1,200万円の赤字が3年間続けば、単純計算で3,600万円です。

さらに問題なのは、金額だけではありません。

人手不足の現場で休日出勤が増え、社員が辞め始めているなら、会社全体のサービス提供能力まで低下します。

契約を守るために会社そのものが弱くなっては意味がありません。

よくある失敗② 一方的に契約を終了する

反対に、

「たった3週間遅れただけで3年間拘束されるのはおかしい。」

として、一方的に撤退するのも危険です。

契約上の責任が生じる可能性がありますし、今回の取引先は会社全体の売上の約26%を占める最大顧客です。

問題の1施設だけでなく、他の6施設まで失えば、経営への影響はさらに大きくなります。

赤字案件だけを見て結論を出すのではなく、顧客全体の採算を確認する必要があります。

よくある失敗③ 現場に我慢させる

このケースで私が特に危険だと思うのは、

「A社との交渉が終わるまで、もう少し現場に頑張ってもらおう」

という判断です。

契約交渉には時間があります。

しかし、疲弊した社員は待ってくれません。

すでに退職者が出ているのであれば、現場対応は契約問題と分けて先に進めるべきです。

契約書を調べてから社員を守るのではなく、社員を守りながら契約を整理する。

私は、この順番が重要だと考えます。

私ならどう考えるか

私なら、まず契約書と過去の交渉経緯を確認します。

  • 自動更新条項
  • 中途解約条項
  • 価格改定協議条項
  • 損害賠償条項
  • 再委託条項
  • 過去の更新時の運用

そのうえで、問題施設だけでなく、A社から受託している全7施設の採算を出します。

次に、交渉案を複数作ります。

例えば、

  • 値上げして現在の業務を継続する
  • 価格上昇を抑える代わりに業務範囲を縮小する
  • 夜間緊急対応だけ別契約にする
  • 一定期間後に合意解約する

といった方法です。

重要なのは、

「20%値上げしてください。無理なら辞めます」

という一択の交渉にしないことです。

契約交渉は「価格」だけで考えない

不採算契約では、どうしても値上げ率ばかりに目が行きます。

しかし、採算を改善する方法は価格だけではありません。

  • 夜間対応の回数を減らす
  • 作業頻度を見直す
  • 対応時間帯を変更する
  • 一部業務を切り分ける
  • 仕様そのものを変更する

業務範囲を調整することで、取引関係を維持しながら採算を改善できる可能性があります。

最善策

私なら、次の順番で進めます。

  1. 現場の人員逼迫へ緊急対応する
  2. 契約書と過去の更新実務を精査する
  3. 問題施設と他6施設の採算を確認する
  4. 適正価格と業務範囲を算定する
  5. 複数の交渉案を用意する
  6. A社と条件変更または合意解約を協議する
  7. 全社の契約管理体制を見直す

重要なのは、自動更新された契約から無理に逃げることではありません。

会社が持続できる条件へ契約を戻せるかを交渉することです。

なぜ契約書だけでは解決できないのか

契約書は非常に重要です。

しかし、契約書を読んだだけでは「その契約を続けるべきか」という経営判断までは決まりません。

今回であれば、

  • 年間1,200万円の赤字
  • A社への売上依存26%
  • 他6施設への波及
  • 現場社員の退職
  • 銀行からの評価

まで考える必要があります。

法律上できることと、経営上やるべきことは必ずしも同じではありません。

契約管理は営業担当者の仕事ではない

今回、会社が見直すべきもう一つの問題があります。

それは契約期限の管理です。

大型契約の解約通知期限を営業担当者個人が覚えているだけでは、同じ事故は再発します。

私は、少なくとも重要契約については、

  • 契約開始日
  • 契約満了日
  • 自動更新の有無
  • 解約通知期限
  • 価格改定時期
  • 現在の採算

を一元管理すべきだと考えます。

そして、契約満了の6か月から1年前には、自動的に経営陣へアラートが上がる状態を作ります。

実務上のチェックポイント

  • 自動更新条項を正確に把握しているか
  • 解約通知期限を一元管理しているか
  • 価格改定条項を確認しているか
  • 中途解約条件を確認しているか
  • 顧客別の利益率を確認しているか
  • 案件ごとの人員負荷を把握しているか
  • 赤字案件を放置していないか
  • 営業担当者だけで価格交渉を判断していないか
  • 業務範囲の見直しを交渉材料にしているか
  • 契約更新前に経営判断する仕組みがあるか
  • 現場からの離職サインを把握しているか
  • 契約終了時の代替売上を検討しているか

まとめ

契約書の自動更新期限を見落とした場合、経営者は焦ります。

「あと3年間この赤字を抱えるしかないのか」

そう考えてしまうのも無理はありません。

しかし私は、そこで思考停止してはいけないと考えます。

自動更新されたとしても、価格、業務範囲、対応方法、合意解約など、交渉できる余地が残っている可能性があります。

一方で、契約を無視して一方的に撤退すれば、他の取引まで失うリスクがあります。

だからこそ、短期・中期・長期を分けて考える必要があります。

短期では現場を守る。

中期では契約条件を再交渉する。

長期では契約管理の仕組みそのものを変える。

重要なのは、「契約から抜けられるか」だけを考えることではありません。

「どの条件なら続けられるのか。それが無理なら、どう安全に抜けるのか」を先に決めることです。

私は、それが不採算契約から会社と社員を守るための現実的な経営判断だと考えます。


※本記事は、経営判断を考えるための架空の事例をもとに作成しています。実際の契約関係では、契約書の具体的な内容、更新手続、過去の取引経緯、個別の事実関係等によって判断が異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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