丸の内経営法律事務所

試用期間中の社員を本採用しないとき、私は何を先に確認するか

2026.09.03

「試用期間だから辞めてもらえばいい」は危険です

中途採用した社員が、期待していた働き方をしてくれない。

営業成績は悪くない。

しかし社内ルールを守らない。

上司と衝突する。

他部署からも不満が出ている。

そして雇用契約を見ると、まだ試用期間中。

こうなると経営者としては、

「本採用しなければいいのではないか」

と考えたくなります。

私は、この場面で最初に本採用拒否の結論を出すのは危険だと考えます。

まず確認すべきなのは、

「会社はその社員に、何を満たせば本採用するのかを具体的に示していたか」

という点です。

相談事例

あるWeb制作・デジタルマーケティング会社を想定します。

従業員は約70名。

4か月前、営業の即戦力として34歳のAさんを採用しました。

Aさんは前職でも法人営業の経験があり、年収620万円。

試用期間は6か月です。

会社は大きな期待をかけていました。

実際、Aさんは入社4か月で新規3社、約2,100万円を受注。

新規商談獲得数は営業部トップです。

一方で、問題も起きています。

  • 承認を取らず20%値引きを提示した
  • 制作部へ確認せず短い納期を顧客へ約束した
  • 追加外注費が発生した
  • 営業部長の方針を会議で強く批判した
  • 若手社員への言い方が強いという声が出ている

営業部長は、

「試用期間だから本採用しない方がいい」

と社長へ進言しました。

ところがAさんは、

「数字を求められて入社したのに、結果を出したら会社に合わせろと言われる」

「何を評価されているのか分からない」

と反論します。

さらに採用面接の記録を確認すると、会社側はAさんへ、

「これまで当社にない営業手法を期待している」

と伝えていました。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「Aさんに能力があるか、ないか」ではない

と考えます。

Aさんには営業力があります。

しかし、営業力だけで会社に利益を残せるとは限りません。

売上を作っても、値引きで粗利を減らす。

受注しても、無理な納期を約束して制作部の残業と外注費を増やす。

これでは、営業個人の数字と会社全体の利益が一致しません。

つまり見るべきなのは、

「売れたか」ではなく、「会社として利益を残しながら売れたか」

です。

よくある失敗① 試用期間を「自由に辞めさせられる期間」と考える

試用期間という言葉から、

「合わなければ正式採用しなければいい」

と考える会社があります。

しかし、試用期間中でもすでに労働契約は始まっています。

そのため、単に、

「社風に合わなかった」

「上司と相性が悪かった」

という抽象的な理由だけで判断するのは危険です。

私は、本採用しない可能性を考えるのであれば、

会社が問題点を具体的に伝え、改善の機会を与え、その結果を記録する

ことが重要だと考えます。

よくある失敗② 売上だけで評価する

Aさんの新規受注額は会社平均より高い。

だから、

「売れているのだから残せばいい」

という考え方もあります。

しかし、今回の会社では、Aさんの営業によって、

  • 値引きによる粗利低下
  • 追加外注費
  • 制作部の残業増加
  • 社内対立

が起きています。

営業社員の評価を売上だけにすると、

「受注した人が勝ち、後工程が全部負担する会社」

になってしまいます。

これは組織として長続きしません。

私なら、残り2か月を「最後の評価期間」にする

私なら、Aさんを残すか辞めてもらうかを今すぐ決めません。

残り約2か月について、評価項目を明確にします。

例えば、

  • 新規受注額
  • 粗利率
  • 値引き承認ルールの遵守
  • 納期確約前の制作部確認
  • 他部署との連携
  • 社内での言動

です。

そしてAさん本人へ、

「数字については評価しています。ただし、この3点は改善が必要です」

と具体的に伝えます。

「もっと協調性を持ってください」

では足りません。

例えば、

「10%を超える値引きは営業部長の承認を取る」

「制作部確認前に納期を確約しない」

「他部署の社員の前で個人攻撃をしない」

というように、行動まで落とし込みます。

改善機会を与えることは、甘やかすことではない

会社が評価基準を示すと、

「そこまでして残す必要があるのか」

と思うかもしれません。

私は、これはAさんを救済するためだけではないと考えます。

会社自身が、後から説明できる人事判断をするため

です。

何を期待したのか。

何が問題だったのか。

どう直してほしいと伝えたのか。

実際に改善したのか。

この経過が明確なら、本採用する場合も、本採用しない場合も判断しやすくなります。

F社案件はAさん一人に持たせない

Aさんは現在、将来数千万円規模になる可能性のあるF社案件を担当しています。

ここも重要です。

本採用するか分からない社員に、重要顧客との関係を一人で持たせたままにするのは危険です。

私なら、

Aさん+別の営業担当者

という複数担当にします。

これはAさんから顧客を奪うためではありません。

会社として顧客関係を持つためです。

人事問題が、そのまま顧客喪失へつながらない状態を作ります。

営業部長Bさんの評価も鵜呑みにしない

今回、B部長は、

「Aさんはチームで働けない」

と評価しています。

一方Aさんは、

「B部長は自分のやり方に従わない人を嫌っている」

と主張しています。

ここで経営者がどちらか一方の感情に乗ると、判断を誤ります。

私は、評価を事実に分解します。

例えば、

  • 無断値引きしたか
  • 納期を独断で確約したか
  • 制作部へ確認したか
  • 指導後に同じ問題を繰り返したか

これは比較的客観的に確認できます。

一方、

  • 生意気
  • 協調性がない
  • 上司を立てない

という評価は主観が入りやすい。

私は、後者だけで重大な人事判断をしないようにします。

法律だけでは解決できない理由

試用期間、本採用拒否、解雇などには法律上のルールがあります。

もちろん、それを確認することは重要です。

しかし私は、この問題は法律だけでは解決しないと考えます。

仮に本採用拒否が法的に可能だったとしても、優秀な営業人材を失い、F社案件まで失えば経営上は大きな損失です。

逆に、本採用拒否のリスクを恐れてAさんを無条件に残せば、制作部や営業部長が疲弊します。

だから必要なのは、

法律上可能かどうかと、会社として残す価値があるかを分けて考えること

です。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • 雇用契約書の試用期間条項
  • 就業規則の本採用拒否・解雇事由
  • 採用面接で何を期待すると伝えたか
  • 求人票に記載した役割
  • 試用期間中の評価基準を伝えていたか
  • 値引きルールを本人が知っていたか
  • 納期確約ルールを本人が知っていたか
  • 過去にどのような注意をしたか
  • 注意内容の記録があるか
  • 注意後に改善したか
  • 売上だけでなく粗利を評価しているか
  • 追加外注費や残業への影響
  • 他部署からの具体的な苦情内容
  • 営業部長以外の評価
  • 本人が改善意思を持っているか
  • 重要顧客を複数担当化できるか
  • 残した場合の最大リスク
  • 失った場合の最大リスク

最善策

私なら、次の順番で進めます。


試用期間・採用時説明を確認する

問題行動を事実で整理する

売上・粗利・ルール・連携を評価項目にする

本人へ明示する

残り2か月を改善・評価期間にする

毎週記録を残す

重要顧客を複数担当化する

営業部長側のマネジメントも確認する

最終的に本採用の可否を判断する

まとめ

私は、このケースで重要なのは、

「試用期間だから切れるか」ではなく、「会社が合理的に判断できる状態を作ったか」

だと考えます。

Aさんには問題があります。

しかし会社にも、評価基準を示さず、成果が出たときには称賛し、問題が出たら突然「合わない」と判断しようとしている部分があります。

だから、一度きちんと線を引きます。

何を評価するのか。

何を改善してほしいのか。

どの行為を繰り返したら本採用が難しいのか。

そこまで明確にしたうえで、それでも改善しないのであれば、次の判断に進む。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

「試用期間だから切る」のではなく、「試用期間を、本当に適性を判断する期間として使い切る」。

私は、これがこのケースの最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における本採用拒否、解雇その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、雇用契約、就業規則、採用時の説明、勤務実績、指導内容、改善状況その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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