
社員が競合会社で副業していたら、私はどう考えるか
2026.09.04
副業を認める会社でも、何でも自由とは限らない
副業を認める中小企業は増えています。
会社の外で経験を積む。
専門知識を広げる。
収入源を増やす。
本人にとっても会社にとっても、副業にはメリットがあります。
しかし、もし社員が会社に届け出ず、しかも競合会社の営業活動まで手伝っていたらどうでしょうか。
私は、この問題を、
「副業をしていたから処分する」
という単純な話にはしません。
重要なのは、
その副業によって、会社の顧客、情報、競争力、本業への勤務に何が起きていたのか
を分けて確認することです。
相談事例
ある産業用センサー・制御機器の専門商社を想定します。
従業員は約100名。
その会社に、36歳の技術営業Aさんがいます。
Aさんは営業力だけでなく技術知識も高く、年間約2億6,000万円の売上を担当しています。
顧客から直接、
「Aさんに相談したい」
と言われるほどの重要人材です。
会社は副業を禁止していません。
むしろ社長自身、
「会社に迷惑をかけないなら、副業で勉強するのもいい」
と話していました。
ところがAさんは会社へ届け出ず、工場IoT導入のコンサルティングを始めます。
さらに、一部競合するFA機器販売会社B社から依頼を受け、若手営業への研修だけでなく、具体的な営業案件についても助言するようになっていました。
問題は「副業したこと」ではない
私は、この問題の本質は副業そのものではないと考えます。
整理すべきなのは、少なくとも次の6つです。
- 会社への届出をしなかったこと
- 競合企業を支援していたこと
- 会社の秘密情報を使った可能性
- 自社顧客に関する情報を使った可能性
- 本業に支障が出ていたこと
- 副業と本業を合わせた負荷
これらは同じ問題ではありません。
例えば、届出を忘れて週末に資格学校の講師をしていた社員と、競合会社の営業戦略を継続的に支援していた社員を、同じ「無届副業」として扱うのは不自然です。
よくある失敗① 「競合だから即アウト」と決める
競合企業で副業していたと分かれば、経営者が怒るのは自然です。
特に今回の社長は、Aさんを重要人材として信頼していました。
「裏切られた」
と感じるでしょう。
しかし、この感情のまま最終処分まで決めてしまうのは危険です。
本当に確認すべきなのは、
- 競合会社で何をしていたのか
- どの案件に関与したのか
- 会社の情報を使ったのか
- 自社顧客と競合案件が重なっていたのか
- 会社に具体的損害が発生していたのか
です。
「競合会社と関係があった」という見出しだけで処分を決めないことが重要です。
よくある失敗② 情報漏えいの証拠がないから問題なしとする
逆に、
「顧客名簿も見積書も持ち出していない」
という理由で問題なしとするのも危険です。
営業情報は、ファイルになっているものだけではありません。
例えば、
- どの部署へアプローチすれば話が進みやすいか
- 誰が実質的な意思決定者なのか
- 設備更新の時期
- 顧客が重視する条件
- 過去に失敗した提案
- 価格交渉の特徴
こうした情報も、会社が長年蓄積してきた営業資産です。
今回Aさんは、B社に対して自社の既存顧客C社について、
「設備保全部門より生産技術部門から入った方が話が早い」
と助言しています。
この情報が一般的な業界知識なのか、それとも自社の営業活動を通じて得た情報なのか。
私は、ここを丁寧に確認します。
私なら、まず副業を6つの論点に分解する
私なら最初に、Aさんへ競合会社B社への新しい助言を一旦止めてもらいます。
ただし、その段階で懲戒解雇などの最終処分は決めません。
そして、
届出違反
競業
秘密情報
顧客接触
本業への支障
労働時間・健康
の6つに分けて確認します。
論点を分けることで、感情的な「裏切った・裏切っていない」という話から、具体的な事実確認へ移せます。
C社だけでなく、主要顧客E社も確認する
さらに今回、B社は自社の主要顧客E社へも営業しています。
E社との年間取引額は約9,000万円。
これは見過ごせません。
ただし、
「AさんがE社情報を渡したに違いない」
と決めつけるのも危険です。
私なら、B社とのやり取りの中でE社が出てきたのか、具体的に確認します。
疑うことと、決めつけることは違います。
本業への支障も別に見る
Aさんは最近、本業で月45〜55時間程度の残業が続いていました。
さらに休日にも副業しています。
その後、重要顧客への提案書提出を2日遅らせています。
これが副業だけの原因とは断定できません。
しかし、
「副業のせいで本業に支障が出始めていないか」
は確認すべきです。
副業制度を考えるとき、会社は競業や情報だけでなく、本人が継続的に働ける状態かという視点も必要です。
Aさんを失いたくないから許す、も危険
Aさんは年間2億6,000万円を担当する重要人材です。
社長が、
「Aさんを辞めさせたくない」
と考えるのは当然です。
しかし私は、ここにも経営上の問題があると考えます。
一人の社員を処分できないほど、その人に依存している会社
になっているからです。
Aさんを残すにしても、辞めてもらうにしても、この状態は解消しなければなりません。
だから、調査と同時に属人化を減らす
私ならAさんの顧客を突然取り上げません。
その代わり、重要顧客について、
- Aさん+別の技術営業
- Aさん+営業部長
- Aさん+若手社員
という複数担当にします。
さらに、
- キーパーソン
- 設備情報
- 過去の商談
- 将来案件
- 技術選定の理由
- 過去のトラブル
を会社に残します。
これはAさんを疑っているからではありません。
顧客関係を個人ではなく会社の資産にするためです。
副業制度の曖昧さは会社側にも責任がある
今回、会社は副業を認めていました。
しかし、
- 競合企業とはどこまでか
- 顧客企業から仕事を受けてよいのか
- 本業と同じ専門分野の副業はどうするか
- 営業ノウハウを使ってよいのか
- どの程度の副業時間なら許容するのか
を決めていませんでした。
つまりAさんに責任があるとしても、会社の制度が十分だったとは言えません。
ただし、
ルールが曖昧だったことと、競合企業の具体的な営業支援を自由にしてよいことは別問題
です。
ここを混同しないことが大切です。
副業を禁止するのではなく、境界線を決める
私は、この問題を受けて副業全面禁止にする必要はないと考えます。
むしろ今後は、3段階に分けます。
原則認める副業
- 本業と競合しない活動
- 講師や趣味に近い仕事
- 一般的な知識を使う活動
- 本業に支障のないもの
個別審査する副業
- 本業と近い業種
- 取引先企業からの依頼
- 本業の専門知識を直接使う仕事
- 勤務時間が長くなる副業
原則禁止・厳しく制限する副業
- 直接競合への営業支援
- 自社顧客への営業活動
- 顧客情報を利用する仕事
- 非公開価格や提案情報を利用する仕事
- 本業へ明確な支障を与える働き方
こうしておけば、社員も何が許されるのか判断しやすくなります。
法律だけでは解決できない理由
副業、競業、秘密保持、懲戒、長時間労働などには、それぞれ法律上の論点があります。
しかし、法律上処分できるかだけを考えても会社は守れません。
Aさんを厳しく処分しても、顧客と技術がAさん個人に依存したままなら、経営リスクは残ります。
逆に、処分リスクを恐れて何もしなければ、若手社員は、
「競合会社で副業しても、売上を作っていれば許される」
と受け取ります。
私は、
処分と組織改革を別々に考える必要がある
と思います。
実務上のチェックポイント
私なら、少なくとも次の点を確認します。
- 副業規程の内容
- 届出制度の過去の運用
- Aさんの副業開始時期
- 副業先一覧
- B社との契約内容
- B社で実際に行った業務
- B社へ助言した案件一覧
- 自社顧客との重複
- C社について伝えた情報
- E社について話した事実があるか
- CRM情報を利用したか
- 価格・原価情報を利用したか
- 会社資料や会社PCを使ったか
- 勤務時間中に副業したか
- 副業時間はどの程度か
- 本業への遅延・疲労が出ているか
- Aさんしか対応できない顧客はどこか
- Aさんしか持っていない技術は何か
- 若手へ引き継げるものは何か
- 今後全社員へ適用できる副業基準は何か
最善策
私なら、次の順番で進めます。
競合会社への新規助言を一旦止める
↓
副業内容と記録を確認する
↓
競業・秘密情報・顧客重複を調べる
↓
本業への支障と負荷を確認する
↓
重要顧客を複数担当化する
↓
事実に応じて処分を判断する
↓
全社員向け副業ルールを再設計する
まとめ
私は、この問題で最初に考えるべきなのは、
「副業を許すか禁止するか」ではない
と考えます。
見るべきなのは、競業によって会社の何が害されたのかです。
顧客情報なのか。
営業ノウハウなのか。
受注機会なのか。
本業への勤務なのか。
そこを具体的に確認してから処分を決めます。
そして同時に、Aさんが辞めたら困る会社の状態も変えていく。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
副業を裁くのではなく、競業によって会社の何が害されたのかを調べる。
私は、これがこのケースの最初の一手だと考えます。
※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における競業行為、秘密保持、懲戒処分、副業・兼業その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、就業規則、副業規程、業務内容、情報利用の有無、本業への影響その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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