業務委託のつもりが実態は社員だったら、私はどう考えるか

2026.09.02

「業務委託契約書があるから大丈夫」とは限らない

人手不足が続く中小企業では、正社員だけでなく業務委託やフリーランスを活用する場面が増えています。

特に介護、IT、配送、営業、制作、コンサルティングなどでは、

「必要なときだけ仕事を依頼できる」

「本人も自由な働き方を希望している」

という理由から、業務委託を活用する会社も少なくありません。

しかし私は、ここで一つ注意すべきことがあると考えます。

契約書に「業務委託」と書いてあることと、実際に業務委託として働いていることは別問題です。

会社がシフトを決める。

仕事を断りにくい。

休みも自由に決められない。

他社の仕事まで制限される。

こうした状態が積み重なれば、契約書とは別に、実際の働き方を確認する必要があります。

相談事例

ある訪問介護・生活支援会社を想定します。

従業員は約80名。

さらに28名の業務委託スタッフが働いています。

会社は3年前から、人手不足への対応として業務委託制度を積極的に導入していました。

当初は、スタッフ本人が好きな案件を選び、好きな時間に働ける仕組みでした。

ところが利用者が増えるにつれて、会社側の運用が少しずつ変わっていきます。

各拠点の管理者がシフトを作る。

担当利用者を固定する。

休むときには代替調整を求める。

最低週4日は稼働してほしいと求める。

案件を断ると、今後の仕事量へ影響する可能性を伝える。

他社でも働きたいと言うと、

「当社の案件を優先してください」

と言う。

さらに勤怠アプリで訪問開始、終了、移動時間、事務所待機時間まで入力させていました。

そんな中、3年間働いてきたAさんから、

「私は実質的に社員と同じ働き方をしていたのではないでしょうか」

という書面が社長へ届きます。

未払い残業代、有給休暇、社会保険などについても説明を求められました。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「Aさんにいくら払えば終わるのか」ではない

と考えます。

本当に怖いのは、Aさんと同じ働き方をしている人が他にもいることです。

実際に28名を確認すると、大きく3種類に分かれていました。

  • 週4〜5日働き、会社がシフトをほぼ決めている人
  • 週1〜3日で、ある程度自由に案件を選んでいる人
  • 本業が別にあり、月数件だけ好きな案件を受けている人

同じ「業務委託」という契約でも、実態は全く違います。

ここを一括して処理することが危険です。

よくある失敗① 契約書だけを見る

経営者としては、

「本人も業務委託契約に署名している」

と言いたくなります。

その気持ちは分かります。

しかし私は、そこで議論を止めるべきではないと考えます。

重要なのは、

実際に誰が仕事の時間、場所、量、方法を決めていたのか

です。

契約当初は自由だったとしても、事業拡大によって運用が変わっていることもあります。

今回も最初は案件を自由に選べたのに、徐々に固定担当制、シフト制、稼働要請へ変わっています。

つまり、3年前の契約書だけではなく、現在までの運用を見る必要があります。

よくある失敗② 申し出たAさんだけ処理する

もう一つありがちなのが、

「Aさんとだけ金銭解決して終わらせる」

という対応です。

短期的には問題を小さくできるように見えます。

しかし他の27名にも同じ実態があれば、何も解決していません。

Aさんの次にBさん、その次にCさんと続く可能性があります。

私は、ここで個人トラブルから制度問題へ視点を切り替える必要があると考えます。

私なら、まず28名全員を分類する

私なら、最初に28名について一覧を作ります。

確認するのは、例えば次のような項目です。

  • 仕事を自由に断れるか
  • シフトは誰が決めているか
  • 勤務時間や場所を誰が指定するか
  • 担当利用者が固定されているか
  • 休むときに会社の許可が必要か
  • 他社でも自由に働けるか
  • 業務方法をどこまで会社が指示するか
  • 本人以外の人へ代わってもらえるか
  • 稼働日数や件数に最低ラインがあるか
  • 案件を断った場合に不利益があるか

そのうえで、

労働者性が高いグループ、判断が分かれるグループ、独立事業者性が高いグループ

に分けます。

全員を社員にすればよいわけでもない

逆に、問題が発覚したからといって、

「28名全員を明日から社員にしよう」

とするのも乱暴です。

本業が別にあり、月に数件だけ、自分の都合で案件を選んでいる人まで一律に社員化する必要があるとは限りません。

私は、

会社が安定的に人を確保したい仕事と、本当に外部へ委託できる仕事を分ける

必要があると考えます。

会社がシフトを支配したいなら、雇用の方が自然なこともある

今回、管理者は、

「委託スタッフまで自由に休まれたらシフトが組めない」

と話しています。

私は、この発言は非常に重要だと思います。

会社が本当に必要としているのが、

  • 決められた曜日に来てほしい
  • 固定利用者を担当してほしい
  • 欠勤を自由にしてほしくない
  • 会社の細かな指示に従ってほしい
  • 一定数の案件を必ず担当してほしい

という働き方なら、そもそも雇用契約の方が実態に合っている可能性があります。

「人件費を固定化したくない」という会社側の事情だけで契約形態を決めると、実態とのズレが大きくなります。

法律だけでは解決できない理由

この問題では、労働者性、労働時間、割増賃金、有給休暇、社会保険、雇用保険など、法律面の確認が必要です。

しかし私は、法律上の結論だけ出しても会社は立て直せないと考えます。

例えば9名を雇用化すれば、人件費は上がるかもしれません。

だからといって、現在の仕組みをそのまま維持すればよいとは限りません。

比較すべきなのは、

「委託なら安い、社員なら高い」

ではありません。

適切な契約形態で、安定して利用者へサービスを提供した場合に、事業として採算が合うか

です。

必要であれば利用者単価、1日あたり訪問件数、移動時間、管理者人数まで含めて事業モデルを再計算する必要があります。

AさんのSNS投稿を先に止めようとしない

社長からすれば、SNS投稿も気になるでしょう。

しかし私は、最初に、

「投稿を削除してください」

「他のスタッフに話さないでください」

と求めることは避けます。

それより先に会社がやるべきなのは、Aさんの主張について事実確認を始めることです。

もちろん、利用者情報や会社の機密情報が投稿されているのであれば、それは別の問題として整理します。

重要なのは、

働き方の問題とSNS問題を一緒にしないこと

です。

最善策

私なら、次の順番で進めます。


現在の強制性が高い運用を止める

28名全員の働き方を一覧化する

労働者性が高い・中間・低いに分類する

利用者サービスを維持できる人員配置を作る

Aさんの過去3年間を個別に精査する

雇用化する層と業務委託で残す層を分ける

新しい人件費構造で採算を計算する

という流れです。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • 契約書の内容
  • 募集時に自由な働き方をどう説明したか
  • シフトを誰が作成しているか
  • 案件を断れるか
  • 拒否した後に仕事量が減った事例があるか
  • 休暇や欠勤時の運用
  • 固定担当利用者の有無
  • 他社勤務を認めていたか
  • 最低稼働日数の要求
  • 訪問開始・終了時間の管理方法
  • 移動・待機・報告時間の扱い
  • 業務手順への指示の程度
  • 本人以外への代替が可能か
  • スタッフ自身が事業上のリスクを負っているか
  • 28名それぞれの月間稼働日数
  • 雇用化した場合の人件費
  • 真の業務委託として残せる業務範囲
  • 利用者サービスを止めずに移行できるか

まとめ

私は、この問題の本質は、

「業務委託契約書を守れるか」ではなく、「会社の実態に契約を合わせられるか」

だと考えます。

最初は本当に自由な業務委託だったとしても、会社が成長し、人手不足が深刻になる中で、運用が社員に近づいていくことがあります。

問題が起きたときに、契約書だけを見て、

「本人も署名した」

と反論して終わらせてはいけません。

一方で、全員を一律に社員化すればよいわけでもありません。

重要なのは、

安定的に働いてもらう必要がある仕事は雇用へ。

本当に本人の裁量で受けられる仕事は業務委託へ。

その線引きを、実際の働き方に合わせてやり直すことです。

そして、Aさん一人との争いに勝つことより、同じ問題が28人分積み上がらない仕組みを作る。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

私は、これがこのケースの最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における労働者性、賃金、社会保険、雇用保険その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は契約内容だけでなく、指揮監督、勤務時間・場所、受託拒否の自由、報酬、専属性など具体的な働き方によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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