会社を畳むべきか迷ったとき、何を先に考えるか

2026.09.06

「廃業するか、続けるか」の二択にしない

会社を長く経営していると、いつか「このまま続けていいのか」と考える瞬間があります。

売上はまだある。

銀行も融資を完全に断っているわけではない。

社員もいる。

顧客も残っている。

しかし赤字が続き、設備は古くなり、後継者はいない。

こういう会社ほど、廃業の判断は難しくなります。

私は、この場面で最初から、

「続けるか、会社を畳むか」

という二択で考えるべきではないと思います。

先に確認すべきなのは、

「この会社に、今まだ何が残っているのか」

です。

相談事例

ある地方の印刷会社を想定します。

創業58年。

従業員は約30名、年商は約3億4,000万円。

しかし直近は約1,200万円の営業赤字です。

社長は64歳。

子ども2人に後継意思はなく、61歳の弟である専務も社長を引き受けるつもりはありません。

さらに大型印刷機も老朽化。

更新するなら約1億3,000万円の投資が必要です。

社長は、

「設備を更新してあと5年、10年頑張るべきか」

それとも、

「社員へ退職金を払えるうちに会社を閉じるべきか」

で悩んでいます。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、廃業するかどうかだけではないと考えます。

本当に整理すべきなのは、

  • 残せる事業は何か
  • 他社へ譲れる顧客はどこか
  • 雇用を引き継げる社員は誰か
  • 縮小して残せる会社なのか
  • 今廃業した場合にいくら残るのか
  • 3年続けた場合に価値が増えるのか減るのか

です。

会社という法人を残すことと、会社が築いた価値を残すことは同じではありません。

よくある失敗① 設備を先に更新する

社長としては、設備が古いと言われれば、

「新しい設備さえ入れれば立て直せるのではないか」

と考えたくなります。

しかし今回、印刷市場自体が縮小しています。

大口顧客も紙媒体を減らしています。

後継者もいません。

若手社員も流出しています。

この状態で1億3,000万円を投資すると、今度は、

「せっかく設備を入れたのだから、あと何年か続けなければならない」

という新しい撤退障壁が生まれます。

私は、設備投資は事業継続を決めてから行うものだと考えます。

設備投資によって、事業継続を正当化してはいけません。

よくある失敗② 社員のために、とりあえず続ける

社長は、

「社員23人の生活を考えれば簡単にはやめられない」

と考えています。

その責任感は大切です。

しかし私は、

会社を続けることが、そのまま社員を守ることになるとは限らない

と思います。

今なら現金があります。

顧客も残っています。

社員にもまだ市場価値があります。

事業を引き受けたいという会社もあります。

ところが3年赤字を続け、設備が壊れ、顧客が減り、若手が辞めればどうでしょうか。

その時には退職金原資も減り、雇用を引き受けてくれる会社もなくなっているかもしれません。

社員を守るために、早く出口を作るという判断もあります。

私なら、会社を4つに分ける

私なら最初に、会社を一つの塊として見ません。

次の4つに分けます。

①残す事業
②譲渡できる事業・顧客・人材
③縮小・撤退する事業
④処分する資産・整理する債務

例えば今回なら、制作部門にはWeb制作会社から関心が寄せられています。

一部の顧客や社員については、近隣の同業他社が引き受ける可能性があります。

一方、大型印刷設備は更新せず、印刷自体を外注化する方法もあります。

つまり、

「印刷会社として今の姿をそのまま続ける」

以外にも、

「制作・営業中心の会社へ縮小する」

という選択肢があります。

「会社全体が売れない」=「何も売れない」ではない

M&Aの相談をしたところ、会社全体を高く売るのは難しいと言われた。

経営者にとって、これはかなりショックだと思います。

58年経営してきた会社です。

自分の人生を低く評価されたように感じるかもしれません。

しかし私は、ここで話を止めるべきではないと考えます。

会社全体では買い手がつきにくくても、

  • 制作部門
  • 特定顧客
  • 営業人材
  • 技術者
  • 長年蓄積したデータ

には価値があるかもしれません。

会社の値段と、会社の中にある価値は別です。

廃業判断では「今いくらあるか」より「3年後に何が残るか」を見る

今回の会社には、現預金が約7,400万円あります。

しかし退職金だけでも概算約6,200万円。

さらに、

  • 借入返済
  • 設備撤去費
  • 工場の原状回復費
  • リース解約
  • 仕入債務

があります。

だから私は、

「今すぐ廃業すればいくら残るか」

だけでなく、

「今廃業した場合」と「3年続けた場合」の両方を同じ条件で比較

します。

3年間営業すれば利益が積み上がるのか。

それとも赤字で現金が減るのか。

設備投資が必要になるのか。

顧客や社員が減るのか。

ここまで見ないと判断できません。

一番怖いのは「廃業できなくなること」

私は、このケースで最も怖いのは、廃業することではありません。

判断を先送りした結果、きれいに廃業できなくなること

です。

今なら、

  • 現金がある
  • 顧客がいる
  • 社員がいる
  • 譲渡候補がいる
  • 銀行とも話ができる

という状態です。

だから今は、まだ選択肢があります。

数年後にこれらが失われれば、「続ける」しか選べなかった会社が、最後には「何も残せず閉じる」会社になる可能性があります。

感情と経営判断を分ける

今回、社長には、

「父から継いだ会社を自分の代で終わらせたくない」

という強い思いがあります。

これは当然です。

しかし私は、ここで一つ問いを置きます。

「この会社を今、第三者としてゼロから買うとしたら、1億3,000万円を追加投資して続けたいか」

という問いです。

過去にいくら投資したか。

父親から何を引き継いだか。

58年続いたか。

これらは大切な歴史です。

しかし未来の投資判断とは分ける必要があります。

会社を残さなくても、会社が築いたものは残せる

私は、廃業を必ずしも失敗だとは考えません。

例えば、

  • 制作部門は他社で継続する
  • 印刷社員の一部も同業他社へ移る
  • 顧客には新しい供給先を紹介する
  • 社員へ退職金を払う
  • 借入を整理する
  • 社長個人の保証も整理する

ことができたなら、法人格はなくなっても、多くの価値は次へ残ります。

「会社を終わらせること」と「全部を失うこと」は同じではありません。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • 事業別の売上・粗利
  • 顧客別採算
  • 大型印刷機の残存寿命
  • 故障時の外注可能性
  • 設備更新後の必要売上
  • 現預金
  • 借入残高
  • 社長個人保証
  • 設備売却価格
  • 撤去・原状回復費
  • 社員別退職金
  • 社員の年齢・スキル
  • 雇用を引き継げる会社
  • 譲渡可能な顧客
  • 制作部門の譲渡可能性
  • 印刷外注化後の採算
  • 取引契約の終了条件
  • 顧客データの引継ぎ
  • 今廃業した場合の清算価値
  • 3年継続した場合の企業価値

最善策

私なら次の順番で進めます。


大型設備投資を一旦止める

事業別・顧客別の採算を出す

会社の中身を「残す・譲る・外注する・終了する」に分ける

現在清算価値と3年継続価値を比較する

事業譲渡・M&A候補と具体的に話す

社員の雇用承継可能性を確認する

借入・個人保証・退職金を整理する

最も価値を残せる出口を決める

まとめ

私は、このケースで最初に考えるべきなのは、

「会社を畳むかどうか」ではなく、「今なら何を残せるか」

だと考えます。

まだ現金がある。

まだ顧客がいる。

まだ社員がいる。

まだ買い手候補がいる。

だから、今は選べます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そして時には、

会社そのものを残すことより、社員・顧客・技術・信用を次へ残す方が、経営者として価値のある判断になることがあります。

廃業を決める前に、何を残せる会社なのかを調べる。

私は、これがこのケースの最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における会社清算、事業譲渡、M&A、雇用終了、退職金、個人保証、税務その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、会社の財務状態、契約関係、資産・負債、雇用状況その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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