第二会社方式を使うとき、私は何を先に決めるか

2026.09.09

第二会社方式は「借金を切る方法」ではありません

本業は黒字。

商品も売れている。

社員も技術も残っている。

それなのに、過去の設備投資や遊休資産、過剰債務が重く、会社全体では資金余力がほとんどない。

こうした会社で検討されることがあるのが、いわゆる第二会社方式です。

収益力のある事業を別会社へ承継し、旧会社側に過剰債務や処分すべき資産などを残して整理していく考え方です。

一見すると、

「良い事業だけ新会社に移せばいい」

ように見えるかもしれません。

しかし私は、第二会社方式をそのように考えるのは危険だと思います。

第二会社方式の目的は、借金を切ることではありません。

利益を生み出している事業を、次の日も正常に動かせる状態で残すことです。

相談事例

ある業務用食品・冷凍惣菜メーカーを想定します。

年商は約11億8,000万円。

正社員とパートを合わせて84名が働いています。

食品製造事業そのものは黒字です。

大手スーパーや外食チェーンからの受注もあり、新工場の稼働も安定してきました。

ところが、過去の大型設備投資による借入が重く残っています。

さらに旧工場跡地から環境対応上の問題が見つかり、今後も多額の支出が発生する可能性があります。

会社としては、

「今の食品事業は利益を出しているのに、過去の問題で会社全体が沈みかねない」

という状態です。

そこで金融機関などから、第二会社方式を検討してはどうかという話が出ました。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「第二会社方式を使うかどうか」ではない

と考えます。

先に確認すべきなのは、

「何を新会社へ移せば、食品事業が本当に生き残れるのか」

です。

例えば新工場だけ移しても、大口顧客との契約が移らなければ売上はなくなります。

社員を移しても、品質保証体制や許認可の移行に失敗すれば製造できません。

借金が減っても、主要顧客が離れれば再生ではありません。

重要なのは、

「何を旧会社に残すか」より先に、「何を一体で次へ残さなければ事業が成立しないか」を確認すること

です。

よくある失敗① 先に新会社を作る

第二会社方式という名前を聞くと、まず新会社を設立したくなります。

しかし私は、先に法人を作る必要はないと考えます。

その前に、

  • どの事業を移すのか
  • どの設備を移すのか
  • どの契約を移すのか
  • どの社員が必要なのか
  • 事業価値はいくらなのか
  • 誰が新会社へ出資するのか
  • 誰が新会社を経営するのか

を決める必要があります。

設計図がないのに新会社だけ作っても、会社再生にはなりません。

むしろ金融機関や取引先から、

「なぜ先に会社を作ったのか」

と不信感を持たれる可能性があります。

よくある失敗② 銀行にいくら借金を切ってもらえるかから考える

第二会社方式では、どうしても、

「銀行はいくら債権放棄してくれるのか」

が気になります。

しかし私は、これも順番が逆だと考えます。

先に確認すべきなのは、

  • 正常な事業利益はいくらか
  • 営業キャッシュフローはいくらか
  • 新会社はいくらまで債務を負担できるか
  • 事業そのものの価値はいくらか
  • スポンサーはいくら出資できるか

です。

これが分からなければ、本当に必要な金融支援額も決まりません。

銀行にいくら負担してもらうかではなく、再生後の会社がいくら負担できるかを先に見る。

私は、この順番が重要だと考えます。

私は会社を「法人」ではなく「機能」で分けます

第二会社方式というと、

「新会社と旧会社に分ける」

という発想になります。

しかし私なら最初に、会社を機能で分けます。

例えば新会社に必要なのは、

  • 新工場
  • 製造設備
  • 大口顧客との取引
  • 営業機能
  • 商品開発
  • 品質保証
  • レシピ・製法
  • 商標・ブランド
  • キーパーソン
  • 製造に必要な従業員

です。

逆に旧会社へ残す候補としては、

  • 旧工場
  • 遊休設備
  • 環境対応問題
  • 過剰債務
  • 最終処理に必要な資産・契約

があります。

この整理をしてから、事業譲渡なのか、会社分割なのか、スポンサー型なのかを考えます。

スキームは最初に決めるものではなく、必要な機能を整理した後に選ぶものです。

事業を安く新会社へ移せばいいわけではない

第二会社方式には、どうしても、

「良い事業だけ別会社へ逃がすのではないか」

という見方がつきまといます。

だからこそ私は、事業価値の評価を非常に重視します。

黒字の食品事業に価値があるのであれば、その価値に見合う対価を考える必要があります。

社長が100%所有する新会社へ、価値のある事業を極端に安く移す。

その一方で、旧会社側には借金だけ残す。

これでは債権者が納得しないのは当然です。

第二会社方式は、旧会社を空っぽにする仕組みではありません。

適正な事業価値を新会社側が負担し、その対価を旧会社側の債権者調整に使うことが重要です。

「会社を残す」と「社長の支配権を残す」は別です

今回、社長は、

「新会社でも自分が100%株主で社長を続けたい」

と考えています。

その気持ちは理解できます。

43年間続けてきた会社です。

金融機関や他社に経営権を渡すことは、自分の会社を失うように感じるでしょう。

しかし私は、

事業を残すことと、経営者の支配権を残すことを分けて考える必要がある

と思います。

守りたいものを並べると、

  • 事業
  • 雇用
  • 主要顧客
  • 技術・品質
  • ブランド
  • 経営者の持株比率

があります。

このすべてを100%守れるとは限りません。

経営者の所有権を最優先した結果、銀行やスポンサーとの協議が壊れ、事業そのものを失うのであれば意味がありません。

スポンサーが入ることを、会社を奪われることと考えない

この会社には、新会社への出資に関心を持つ食品会社があります。

スポンサーが入ることで、

  • 自己資本
  • 金融機関からの信用
  • 原材料調達力
  • 販売力
  • 設備投資余力
  • 品質管理力

が強くなる可能性があります。

私はスポンサーについて、

「経営権を取りに来る相手」ではなく、「再生後の会社に不足している経営資源を持っている相手か」

という視点で見ます。

もちろん条件交渉は必要です。

しかし、社長100%所有にこだわることだけが会社を守る方法ではありません。

第二会社方式で最も怖いのは、大口顧客がついてこないこと

今回、最大顧客だけで売上の約24%。

上位2社で40%を超えています。

この2社が新会社との取引を拒めば、第二会社方式は成立しても、事業再生は成立しません。

私は金融機関との交渉と同じくらい、主要顧客との契約承継を重要視します。

確認するのは、

  • 契約主体を変更できるか
  • 相手方の承諾が必要か
  • 再度の与信審査があるか
  • 顧客監査をやり直すか
  • 製造者変更をどう扱うか

です。

銀行が納得しても、顧客がついてこなければ会社は再生しません。

食品会社では品質保証を最後にしてはいけない

食品製造会社では、会社名を変えるだけでも現場には多くの影響があります。

例えば、

  • 食品営業に関する許認可
  • HACCPに沿った衛生管理
  • 商品表示
  • 製造者表示
  • 顧客監査
  • 品質保証責任
  • トレーサビリティ

などです。

金融機関の都合で、

「この日に新会社へ移します」

と決めても、翌日から当然に同じ状態で出荷できるとは限りません。

私は、金融スケジュールと製造・品質の移行スケジュールを同じ工程表で管理します。

社員についても「全員移す」で終わらない

社長としては、社員全員を新会社へ移したいでしょう。

しかし新会社には、新会社として負担できる人件費があります。

一方で、人を減らしすぎれば工場が回りません。

だから私は、

「誰を守りたいか」だけではなく、「事業継続に誰が必要なのか」

を確認します。

もちろん、社員本人の意思や承継方法に応じた手続もあります。

経営側だけで、

「あなたは新会社、あなたは旧会社」

と簡単に決めればいい問題ではありません。

社員への説明は「確定したプロセス」を伝える

社員の間では、

「会社が潰れる」

「新会社へ行けない人が出る」

と噂が広がっています。

こういう時に一番危険なのは、必要な若手や技術者から辞めていくことです。

一方で、まだ決まっていない段階で、

「全員守ります」

と約束するのも危険です。

私なら、

  • 事業継続を最優先に再生案を検討している
  • 個別の雇用条件はまだ確定していない
  • 決定時期を設定している

という、現在確定しているプロセスを説明します。

不確定な結論を約束するのではなく、判断の道筋を示すことが重要です。

法律だけでは第二会社方式は成功しない

第二会社方式では、事業譲渡、会社分割、債権者調整、労働契約、税務、許認可など、多くの法律問題があります。

しかし法律上できるスキームが見つかっただけでは、再生成功とは言えません。

法的に事業を移せても、顧客が離れれば失敗です。

銀行が同意しても、キーパーソンが退職すれば失敗です。

新会社を作れても、品質保証が維持できなければ失敗です。

法律上成立する第二会社と、経営上生き残れる第二会社は別です。

私は、この二つが同時に成立するかを確認します。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • 本業単体の正常利益
  • 営業キャッシュフロー
  • 今後必要な設備投資
  • 主要顧客別売上
  • 顧客契約の譲渡・変更条項
  • 新会社との取引継続可能性
  • 必要な許認可
  • 品質保証体制
  • 顧客監査の再実施要否
  • 新会社に必要な従業員
  • キーパーソンの残留意向
  • 商標・レシピ・ノウハウの帰属
  • 移す設備
  • 事業価値
  • 旧工場の処分価値
  • 環境対応費
  • 金融機関別借入
  • 個人保証
  • スポンサーの出資条件
  • 新会社の株主構成
  • 旧会社の最終処理

最善策

私なら、次の順番で考えます。


正常収益事業を特定する

事業継続に必要な顧客・設備・人材・知財を洗い出す

旧会社に残る資産・債務・環境問題を整理する

主要顧客の取引継続条件を確認する

許認可・品質保証の移行工程を作る

事業価値を算定する

スポンサー条件を比較する

社員承継を設計する

必要な金融支援額を算定する

最後に第二会社の具体的スキームを決める

まとめ

私は、第二会社方式を検討するとき、最初に、

「新会社を作るか」

とは考えません。

最初に考えるのは、

「何を一緒に移せば、この事業は明日も売上を作れるのか」

です。

顧客。

社員。

設備。

品質。

技術。

許認可。

資本。

これらが揃って初めて、第二会社は生きた会社になります。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そして第二会社方式で本当に守るべきなのは、経営者の支配権でも、古い法人格でもありません。

利益を生む事業と、その事業を支える人・顧客・技術・信用です。

私は、そこを明確にしてからスキームを決めることが、第二会社方式における最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における第二会社方式、事業再生、事業譲渡、会社分割、債権者調整、会社清算、雇用、許認可、税務その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、事業価値、債権者構成、契約内容、許認可、資産・負債、雇用状況その他の具体的事情によって異なります。