会社をやめたいのに仕事が残るとき、私は何を先に止めるか

2026.09.08

「廃業したいのに、仕事があるからやめられない」会社があります

会社をやめたい。

でも受注がある。

社員の給料も払わなければならない。

元請との関係も切りたくない。

だから次の仕事も受ける。

すると、また工事が残る。

私は、この状態が廃業判断では非常に危険だと考えます。

「仕事があるからやめられない」のではなく、「やめる期限を決めずに仕事を取り続けているから、やめられない」

というケースがあるからです。

相談事例

ある地方の電気設備工事会社を想定します。

創業36年。

従業員は約30名、年商約6億2,000万円。

営業利益も約3,600万円あり、会社は黒字です。

さらに受注残は約4億円。

一見すると、廃業を考える会社には見えません。

しかし社長は69歳。

前年には軽い脳梗塞で入院しています。

家族からも、そろそろ経営から離れてほしいと言われています。

子どもには承継意思がありません。

No.2の工事部長も、

「現場責任者なら続ける。でも借金まで背負って社長になるのは無理です」

という考えです。

社長自身は1年半後には会社を終わらせたいと思っています。

ところが現在の工事を全部終えるだけでも、最長約22か月かかることが分かりました。

さらに、2年後完成予定の大型案件まで新たに相談されています。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「廃業するか、続けるか」ではない

と考えます。

本当に整理すべきなのは、

「社長が経営を終える期限より先に、仕事を伸ばさない仕組みをどう作るか」

です。

この会社では、受注があること自体が強みである一方、出口を遠ざける原因にもなっています。

よくある失敗① 今ある仕事を全部自社で終えてから廃業する

社長は、

「受けた仕事は最後までやる」

という強い責任感を持っています。

これは経営者として立派な姿勢です。

しかし私は、

「最後までやる=必ず今の会社、今の社長がすべて完成させる」ではない

と考えます。

事業承継先が工事を引き継ぐ。

買収後も同じ工事部長や技術者が担当する。

元請と合意したうえで体制を変える。

こうした方法もあります。

社長個人が最後の一件まで抱え込むことだけが、責任の取り方ではありません。

よくある失敗② 売上を落としたくないから新規受注を続ける

会社を売る場合にも、社長は売上を維持したくなります。

「仕事を断ったら会社の価値が下がる」

という不安があるからです。

しかし出口が決まっていない状態で、2年後、3年後まで続く仕事を受ければ、その案件自体が会社を縛ります。

私は、廃業や承継を本気で考え始めたら、

売上最大化から、出口に合わせた受注管理へ経営目的を切り替える必要がある

と思います。

私なら、まず新規長期案件に上限を設ける

今回、私なら最初に新規受注を全部止めるわけではありません。

ただし、

社長の退任予定日を超える大型案件は原則として即決しません。

そのうえで受注残を一件ずつ整理します。

  • 自社で最後まで完成させる工事
  • 承継先へ引き継げる可能性がある工事
  • 工期や受注条件を調整する工事
  • 今後は受けない工事
  • 完成済みだが補修責任が残り得る工事

ここまで分けると、「受注残4億円」という数字の見え方が変わります。

受注残4億円は、4億円の資産とは限らない

建設会社では、受注残が多いと安心材料のように見えます。

しかし、そこにはこれから発生する、

  • 材料費
  • 外注費
  • 人件費
  • 現場管理コスト
  • 追加変更リスク
  • 工期遅延リスク
  • 補修対応

があります。

つまり受注残は、売上予定であると同時に、

「これから履行しなければならない責任」

でもあります。

私は、案件ごとに予想粗利と必要期間を確認し、どの仕事が会社の価値で、どの仕事が出口を難しくする負担なのかを分けます。

第三者承継と社内承継を二択にしない

この会社には、同業の中堅企業から買収の打診があります。

一方、社内の工事部長は、会社を買うことには消極的ですが、

「買収後も責任者として働くなら考える」

と言っています。

私は、この発言を非常に重要だと考えます。

つまり、

「外部企業が資本と経営基盤を引き継ぎ、現場は今のNo.2が率いる」

という形が考えられるからです。

社内承継か第三者承継か。

どちらか一つを選ぶ必要はありません。

両方を組み合わせることで、社員、顧客、施工体制を残せる場合があります。

「社員全員を同条件で守る」にこだわりすぎない

社長は、買収候補から、

「全社員を同条件では雇えないかもしれない」

と言われ、反発しています。

その気持ちは理解できます。

しかし私は、ここでも優先順位が必要だと思います。

仮に30人全員を今の条件で守れないとしても、25人の雇用を残せる承継かもしれません。

それを断り、2年後に会社全体を廃業すれば、結果として全員が職場を失う可能性があります。

全部を守ろうとして、何も守れなくなる。

これは避けなければなりません。

過去の工事も忘れてはいけない

建設業の廃業では、未完成工事だけ見ていても不十分です。

今回も、3年前に完成した工場から不具合対応が出ています。

会社を閉じるとしても、

  • 過去の施工案件
  • 補修履歴
  • 保証期間
  • 契約上の責任
  • 未精算の追加工事

を一覧化する必要があります。

私は、これを「過去工事の負債台帳」として別に管理します。

会社を閉じる日だけ決めても、過去の責任まで自動的に消えるわけではありません。

社長しかできない仕事を減らす

この会社では、社長が入院しただけで、

  • 元請との価格交渉
  • 重大クレーム
  • 銀行対応
  • 大型案件の最終判断

が止まりました。

これは後継者問題以前に、社長依存の問題です。

私なら、廃業・承継交渉と並行して、

「社長しかできない仕事」を一つずつなくします。

そうしなければ、会社を売れても引継ぎができません。

また、廃業する場合でも、最後まで社長本人が全判断を続けることになります。

重要なのは「最後の工事が終わる日」ではない

私は、社長に最初に決めてもらいたい日があります。

それは、

「会社の最後の日」ではなく、「社長が現場経営から離れる日」

です。

例えば1年後には現場判断から外れる。

その日を超える仕事は、承継前提でしか受けない。

こう決めれば、受注判断の基準が変わります。

逆に、

「今ある仕事が全部終わったら辞める」

では、仕事を取る限りその日は来ません。

法律だけでは解決できない理由

建設業許可、技術者配置、工事請負契約、補修責任、従業員の雇用、事業譲渡、個人保証など、確認すべき法律問題は多くあります。

しかし、法律上可能かどうかだけでは、経営判断は決まりません。

例えば、会社を売却できるとしても、社員が大量退職すれば企業価値は落ちます。

逆に、最後まで自社完工することが契約上可能でも、社長の健康が持たなければ実行できません。

重要なのは、法律上できることと、現実に安全に実行できることを分けて考えることです。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の項目を確認します。

  • 全受注残と完成予定日
  • 案件別の予想粗利
  • 追加変更未精算額
  • 工事ごとの責任者
  • 元請ごとの契約条件
  • 承継可能な工事
  • 完成済工事の補修履歴
  • 有資格者の配置状況
  • 有資格者の退職意向
  • No.2の承継後の役割
  • 若手社員の退職リスク
  • 買収候補の雇用条件
  • 主要元請が承継後も取引するか
  • 借入残高
  • 個人保証
  • 退職金総額
  • 倉庫・車両の時価
  • 自主廃業した場合の清算価値
  • 会社を譲渡した場合の価値
  • 社長が現場経営から離れる最終日

最善策

私なら、次の順番で進めます。

新規の長期大型案件に上限を設ける

受注残を案件別に棚卸しする

自社完工・承継・調整案件に分類する

過去工事の補修責任を一覧化する

有資格者・若手・No.2の残留可能性を確認する

第三者承継の条件を具体化する

元請との関係をどう引き継ぐか設計する

個人保証・借入・退職金を整理する

12か月以内に承継か計画廃業かを確定する

まとめ

私は、このケースで最初に止めるべきなのは、

「出口より先まで続く仕事を増やすこと」

だと考えます。

受注がある。

黒字である。

元請との関係もある。

だから廃業を先送りしたくなる。

しかし、仕事を取り続ければ、社長は永遠に辞められません。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そして会社を守るというのは、必ずしも法人を最後まで残すことではありません。

工事を安全に完成させること。

社員の雇用をできるだけ残すこと。

元請との信用を次へ引き継ぐこと。

社長が経営から離れられる状態を作ること。

私は、この4つを同時に実現する出口を設計することが、この会社にとって最も重要な経営判断だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における建設業許可、工事請負契約、事業譲渡、会社清算、雇用、個人保証、契約不適合その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、許可状況、契約内容、工事進捗、資産・負債、雇用状況その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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