
売掛金が未払いになったとき、最初にすべきこと|返品・品質不良・値引き要求への対応
2026.09.24
売掛金が未払いでも、すぐ「全部払え」と請求しない
取引先から、こんなことを言われることがあります。
「商品が売れなかった」
「在庫が残ったので返品したい」
「一部に品質不良があった」
「返品や値引きを認めてくれれば、残りは払う」
売掛金が2,000万円、3,000万円と積み上がっていれば、経営者としては、
「もう全部請求して取引を止めたい」
と思うのも自然です。
しかし私は、こういう場面ほど、最初に全額請求へ走らない方がよいと考えます。
まずやるべきなのは、未払いになっている売掛金を分解することです。
相談事例|売掛金2,430万円に対して「400万円しか払わない」
ある食品メーカーを想定します。
年商は約11億円。
15年間取引してきた食品卸会社B社が、売上の約21%を占める重要顧客です。
ところが半年ほど前から支払遅延が始まり、売掛金は約2,430万円まで増えました。
B社は、
「商品が想定ほど売れなかった」
「品質問題もあった」
として、
- 返品:約1,100万円
- 品質損害:約700万円
- 値引き調整:約230万円
を差し引き、
最終的に400万円だけ支払う
という精算案を出してきました。
一方、メーカー側の品質調査では、不良品そのものは確認されています。
ただし、不良率は限定的です。
さらにB社倉庫には、品質問題とは関係なく、単純に売れ残った商品も大量に残っています。
この問題の本質は「返品を認めるか」ではない
私は、この問題の本質は、
「返品を受けるか、受けないか」ではない
と考えます。
まず分けるべきなのは、
- 通常どおり納品され、争いのない売掛金
- 本当に品質不良がある商品
- 単に売れ残った商品
- 値引き要求されている商品
です。
これらを全部まとめて、
「品質問題があるから2,430万円は払わない」
とされると、販売不振のリスクまでメーカー側が負担することになりかねません。
「売れなかった」と「悪い商品を納めた」は別の話
ここは非常に重要です。
品質不良によって売れなかった商品。
品質には問題がないが、需要予測を外して売れなかった商品。
これは同じではありません。
私は、まずB社へ、
「返品したい商品を全部一覧にしてください」
と求めます。
そのうえで、
- 商品名
- ロット
- 数量
- 納品日
- 残存賞味期限
- 品質クレームの有無
- 返品理由
を確認します。
返品という一つの言葉の中に、品質問題と販売不振を混ぜない。
これが最初の整理です。
品質不良まで全部否定しない
逆に、会社側が、
「うちの商品に問題はない」
と全部否定するのも危険です。
今回、品質管理部は一定数の不良を確認しています。
それなら、そこは認めた方がよい。
例えば、
「このロットのこの数量については、当社負担で交換する」
「実際に発生した合理的な再配送費は確認する」
といった対応です。
私は、認めるべき品質問題を認めることは、債権回収上もプラスになると考えます。
なぜなら、
「品質不良分は対応する。しかし、売れ残りまで返品扱いするのは違う」
という主張がしやすくなるからです。
700万円の損害と言われても、そのまま差し引かない
B社は品質問題による損害として約700万円を主張しています。
しかし、会社側の試算では150万~250万円程度。
これだけ差があります。
私なら、
- 実際の返品数量
- 廃棄数量
- 再配送費
- 値引き実績
- 店舗別の処理記録
- 不良との因果関係
を確認します。
「品質問題があった」ことと、「700万円負担する」は同じではありません。
売れ残り返品を一度認めると、次も同じことが起きる
今回の返品要求は約1,100万円です。
問題は今回だけではありません。
ここで、
「長い付き合いだから仕方ない」
と売れ残り返品を受け入れると、次から、
「売れなかったらメーカーへ戻せばいい」
という取引になります。
つまりメーカー側だけが、
- 製造リスク
- 在庫リスク
- 販売リスク
を負う構造になります。
私は、返品条件は今回の損得だけでなく、
今後の取引ルールになるかどうか
で判断します。
よくある失敗① 過去の売掛金を回収するために新しい商品を出荷する
今回、B社から新たに約3,500万円の春商品を発注したいという話が出ています。
B社は、
「春商品が売れれば、過去分も払える」
と説明しています。
私は、この話には慎重になります。
なぜなら、
過去の未回収債権を回収するために、新しい未回収債権を作る
可能性があるからです。
現在2,430万円。
そこへ3,500万円を通常の後払いで出荷すれば、売掛金が5,000万円を超える可能性があります。
債権回収のつもりが、実際には信用供与を増やしている。
この状態は避けるべきです。
取引を続けるなら、売上ではなく与信条件を変える
私は、B社との取引を必ず止めるべきだとは考えません。
15年の取引関係があり、今後も利益が見込めるのであれば、継続には意味があります。
ただし、これまでと同じ条件では続けません。
例えば、
- 全額前払い
- 50%前金、残額出荷前
- 過去債権を一定額支払ってから新規出荷
- 与信限度額を設定する
- 返品条件を事前に文書化する
といった方法です。
「取引を続けるか」ではなく、「どこまで信用を供与するか」を決める。
この考え方が重要です。
よくある失敗② 商品を勝手に引き上げる
売掛金が払われないと、
「まだ倉庫に商品があるなら取り戻せばいい」
と考えることがあります。
しかし、すでに引き渡した商品の所有権が相手へ移っている場合、勝手に持ち帰れるとは限りません。
さらに食品では、返品されたとしても、
賞味期限。
保管状態。
専用パッケージ。
再販可能性。
を考える必要があります。
1,100万円の商品を返品してもらったから、1,100万円回収したことになるわけではありません。
分割払いを認めるなら「いつか払う」で終わらせない
B社が一括では払えない場合、分割払いという選択肢もあります。
しかし、
「毎月できるだけ払います」
では管理できません。
私なら、
- 確定債務額
- 支払日
- 毎月の金額
- 遅れた場合の扱い
- 新規取引条件
を明確にします。
特に重要なのは、
B社がいくらの債務を認めているのかを明確にすること
です。
この問題は、B社だけの問題ではない
今回、売掛金が2,430万円まで膨らんだ背景には、A社側にも原因があります。
支払サイトを延ばした。
未払い中でも追加出荷した。
重点顧客だから与信限度を設けなかった。
営業部が、
「ここで止めたら棚を競合に取られる」
と判断した。
つまり、
未回収債権は突然発生したわけではありません。
「大口顧客だから今回だけ」という例外が積み重なった結果です。
私ならこう進めます
通常条件での追加出荷を止める
↓
2,430万円を商品・請求書単位に分解する
↓
品質不良商品を特定する
↓
販売不振による返品と分ける
↓
返品合意・過去慣行を確認する
↓
B社の損害資料を確認する
↓
争いのない売掛金を先に回収する
↓
合理的な品質負担だけ精算する
↓
分割なら債務額と返済条件を明確にする
↓
今後の取引は前払い・与信限度額など条件を変更する
実務上のチェックポイント
- 売掛金の請求書別内訳
- 各請求の支払期日
- 基本契約書
- 返品条件
- 値引き条件
- 品質保証条項
- 所有権の移転時期
- 不良ロットと数量
- 実際の返品数量
- 廃棄数量
- 再配送費
- 値引き実績
- 売れ残り在庫の数量
- 残存賞味期限
- 過去の返品慣行
- 分割払いの履行状況
- 取引先の資金繰り
- 与信限度額
- 新規出荷条件
- 自社の今後3か月の資金繰り
なぜ法律だけでは解決できないのか
売掛金未払いでは、売買契約、返品、契約不適合、損害賠償、相殺などの法的整理は重要です。
しかし経営判断としては、それだけでは足りません。
大口顧客を失う。
売上21%が減る。
在庫が余る。
営業部が反発する。
一方で、未回収を放置すれば自社の資金繰りが悪化する。
重要なのは、
取引先との関係を守ることと、自社のキャッシュを守ることの順番を間違えないこと
です。
まとめ|売掛金未払いで最初に守るもの
私は、取引先から、
「品質に問題がある」
「売れなかったから返品したい」
「値引きしてくれれば払う」
と言われたとき、すぐ全面対決には進みません。
まず、
何が確実な売掛金なのか。
本当に品質不良なのはいくらか。
単なる売れ残りはいくらか。
返品を認める契約だったのか。
取引を続けるなら、これ以上信用を供与してよいのか。
これを分けます。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
「売れなかった責任」と「悪い商品を納めた責任」を混ぜない。
そして、
過去の売掛金を回収するために、新しい売掛金を作らない。
私は、それが売掛金未払い・債権回収で最初に考えるべきことだと思います。
※本記事は、売掛金未払い、返品要求、品質不良、値引き、債権回収に関する一般的な経営上の考え方を整理したものです。個別案件における売買代金請求、契約不適合、損害賠償、返品、相殺その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、契約内容、返品条件、品質状況、取引慣行、支払経緯その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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