売上トップの問題社員にパワハラ疑惑が出たとき、会社はどう対応するか|懲戒・降格・配置転換の判断

2026.10.04

売上トップの社員にパワハラ疑惑が出たら、会社はどうするべきか

問題社員への対応で難しいのは、その社員が会社にとって非常に重要な人物だった場合です。

例えば、営業成績トップ。

主要顧客を何社も抱えている。

長年会社を支えてきた。

一方で、部下からは、

「言い方がきつい」

「人前で人格を否定される」

「相談したら報復されそうで怖い」

という声が出ている。

この場合、経営者は非常に悩みます。

「処分したら売上が落ちる」

「何もしなければ社員が辞める」

私は、この問題を、単純に「残すか、切るか」の二択で考えない方がよいと思っています。

重要なのは、問題社員が残っても辞めても、会社が壊れない状態を先に作ることです。

相談事例|年間2億8,000万円を売る営業課長にパワハラ complaints

あるBtoB企業を想定します。

営業課長Bさんは45歳。

社歴16年。

年間売上約2億8,000万円を担当しています。

主要顧客7社のうち5社は、ほぼBさんしか関係を持っていません。

会社から見れば、かなり重要な営業社員です。

ところがこの半年で、部下から複数の相談が出始めました。

  • 会議中に強く叱責される
  • 人格を否定するような言葉を使われる
  • 深夜に業務指示が届く
  • 有給を取ろうとすると嫌味を言われる
  • 人事へ相談した人をけん制するような発言がある

さらに、1名は適応障害で休職。

別の社員は、正式に書面で申告しました。

一方、Bさん自身は、

「営業として当然の指導をしているだけ」

「今の若手はすぐパワハラと言う」

「自分を外すなら顧客も動くと思う」

と主張しています。

この問題の本質は「パワハラ認定できるか」だけではない

もちろん、Bさんの言動がパワハラに当たるかどうかは重要です。

しかし私は、それだけではないと考えます。

今回の会社には、少なくとも4つの問題があります。

  • Bさんの言動そのもの
  • 部下が安心して働けない状態
  • 主要顧客がBさん個人に依存している状態
  • 売上を理由に対応を先送りしている経営判断

つまり、これは問題社員対策であると同時に、

顧客属人化と組織依存の問題

でもあります。

最初にやるべきなのは「即解雇」ではない

正式な申告があり、休職者まで出ている。

だからといって、いきなり懲戒解雇へ進むのは危険です。

なぜなら、

  • 録音がない
  • 発言内容に争いがある
  • Bさんを評価する社員もいる
  • 厳しい指導とパワハラの境界を確認する必要がある

からです。

会社としては、具体的な言動、頻度、場所、対象者、周囲の証言、過去の相談記録などを整理する必要があります。

申告があったことと、事実認定が終わったことは別です。

ただし「調査が終わるまで今までどおり」も危険

一方で、

「まだ事実が確定していないから、調査が終わるまで通常どおり働いてもらう」

という対応も危険です。

今回、すでに部下から、

「Bさんの下には戻りたくない」

「会社がBさんを守るなら辞める」

という声が出ています。

この状態では、調査中でも一定の職場保全措置が必要です。

私なら、Bさんと申告者の指揮命令関係を一時的に分離します。

例えば、

  • 部下の評価権限を一時的に外す
  • 直接指導を別管理職へ移す
  • 復職者を別チームへ配置する
  • 人事面談を定期化する

といった方法です。

これは処分ではありません。

調査中の二次被害を防ぐための暫定措置です。

問題社員対策で忘れてはいけない「顧客依存」

今回、Bさんが処分しづらい最大の理由は、営業成績です。

年間2億8,000万円を担当し、そのうち約2億1,000万円が上位7社。

しかも5社は、他の営業社員がほとんど接点を持っていません。

私は、この状態自体が大きな経営リスクだと考えます。

仮にBさんが完全に適法・適切な社員だったとしても、

一人辞めたら主要顧客がまとめて動く会社は危険です。

だから、問題社員対策と並行して、主要顧客を複数担当制へ変える必要があります。

顧客移管が終わるまで処分を待つのも危険

営業部からは、

「まず3か月かけて顧客を引き継いで、その後に処分を考えればいい」

という意見が出るかもしれません。

経営的には理解できます。

しかし、その3か月の間、申告者がBさんの指揮下に置かれ続けるなら問題です。

社員から見れば、

「売上を守るために自分たちが我慢させられている」

と感じます。

だから私は、

顧客移管と職場保全を同時に進める

と考えます。

Bさんを「プレイヤー」に戻すという選択肢

事実調査の結果によっては、Bさんを管理職から外し、営業プレイヤーとして残す方法もあります。

営業能力が高いことと、管理職として適性があることは別だからです。

例えば、

  • 部下を持たせない
  • 人事評価権限を外す
  • 主要顧客への営業力は活かす
  • 給与体系を管理職手当から営業成果型へ見直す

という設計も可能です。

ただし、これは調査をしなくてよいという意味ではありません。

過去の行為が重大であれば、管理職解任とは別に懲戒等を検討する必要があります。

「成果を出しているから許される」という文化を作らない

この問題で最も怖いのは、社内に、

「数字を出せば多少何を言っても許される」

という空気が定着することです。

もしそうなれば、若手社員は、

「自分たちより売上トップの方が会社にとって価値がある」

と感じます。

すると、相談しなくなる。

我慢する。

ある日突然辞める。

という流れになります。

私は、営業成績とマネジメント行動を分けて評価すべきだと考えます。

売上2億8,000万円は高く評価する。

しかし部下への言動に問題があれば、それは別に評価する。

この線引きが必要です。

よくある失敗① 売上を恐れて何もしない

問題社員が高業績者だと、経営者は対応を先延ばししがちです。

しかし、その間に、

  • 若手社員の退職
  • 採用コスト増加
  • 休職者増加
  • 口コミ悪化
  • 採用力低下

が起きれば、売上トップ1人を守った結果、組織全体を弱くすることになります。

比較すべきなのは、

「Bさんを失った場合の損失」

だけではありません。

Bさんを守り続けた場合の損失

も見る必要があります。

よくある失敗② 会社の姿勢を示すために即解雇する

反対に、

「ハラスメントを許さない会社だと示すために即解雇する」

という対応も慎重です。

会社の姿勢を示すことと、十分な事実確認をせず処分することは別です。

重い懲戒処分ほど、事実関係、就業規則、処分の相当性を慎重に確認する必要があります。

私は、

「厳しい会社だと思われたい」

という感情で懲戒水準を決めない方がよいと考えます。

有給への嫌味も別問題として見る

今回、部下が有給休暇を申請した際、Bさんは、

「数字が足りないのに休める人はいいね」

と発言したとされています。

その社員は有給取得を取り下げました。

この点も、単純にパワハラの一要素としてまとめるだけでは足りません。

会社として、年次有給休暇を実際に取得しづらい運用になっていなかったかも確認すべきです。

問題社員対策では、一つの問題に全部まとめず、行為ごとに整理することが重要です。

私ならこう進めます


申告者の安全を確保する
↓
Bさんとの指揮命令関係を一時的に分離する
↓
チャット・相談記録・評価履歴を保全する
↓
関係社員から個別にヒアリングする
↓
Bさん本人から反論を聞く
↓
同時に上位顧客を複数担当制へ変える
↓
具体的な行為ごとに事実認定する
↓
注意・懲戒・降格・管理職解任・配置転換を比較する
↓
Bさんが残っても辞めても会社が回る体制を作る
↓
管理職評価制度そのものを見直す

実務上のチェックポイント

  • 就業規則
  • ハラスメント規程
  • 懲戒規程
  • Bさんの管理職権限
  • 人事評価権限
  • 過去の相談記録
  • 退職者の退職面談
  • 休職者の診断書
  • 復職条件
  • チャット履歴
  • 深夜指示の実態
  • 有給申請と取消しの経緯
  • 正式申告書
  • 具体的発言の日時と場所
  • 同席者
  • Bさんの反論
  • 過去に会社が注意した内容
  • 注意後に改善したか
  • 相談者への報復的言動の有無
  • 主要顧客の担当状況
  • Bさん以外の顧客接点
  • 顧客情報の社内共有状況
  • Bさん退職時の売上影響
  • 若手社員の退職意向
  • 管理職を外した場合の処遇設計

初回面談で私が特に確認したい質問

私は最後に、社長へこう聞きます。

「Bさんの売上が2億8,000万円ではなく2,800万円でも、同じ対応をしますか?」

もし答えが変わるのであれば、

人事判断を売上額が歪めている可能性があります。

これは、Bさんが悪いかどうかとは別の経営課題です。

なぜ法律だけでは解決できないのか

問題社員対策では、パワハラ、防止措置、懲戒、配置転換、解雇など、法律上の検討は非常に重要です。

しかし法律だけでは、

主要顧客をどう守るのか。

若手社員をどう残すのか。

管理職を外した後にBさんの営業力を活かすのか。

Bさんが退職した場合に売上をどう守るのか。

までは決まりません。

法律上正しい対応でも、会社が壊れれば意味がありません。

反対に、売上を守るために問題を放置して組織を壊すのも違います。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

まとめ|問題社員を残すか切るかではなく「どちらでも耐えられる会社」にする

売上トップの社員にパワハラ疑惑が出たとき、私はすぐ解雇するとも、売上を理由に放置するとも考えません。

まず、申告内容を確認する。

被害申告者と本人を分ける。

追加被害を止める。

その一方で、主要顧客の複数担当化を始める。

そして事実認定後に、注意、懲戒、降格、管理職解任、配置転換などを判断します。

問題社員対策で最初に考えるべきなのは、その社員を残すか切るかではありません。

その社員が残っても辞めても、会社が壊れない状態を作れるかです。

私は、それが高業績の問題社員に対応するときの最初の一手だと考えます。


※本記事は、問題社員、パワーハラスメント、懲戒、降格、配置転換、顧客属人化等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、具体的な言動、証拠、就業規則、過去の指導歴、社員の健康状態、顧客関係その他の事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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