
売上の65%を作る人気講師に問題が起きたとき、会社はどう対応すべきか|高額セミナー・返金・講師依存の考え方
2026.10.11
人気講師に依存したセミナービジネスは、どこで危険になるのか
セミナービジネスでは、人気講師が生まれると一気に売上が伸びることがあります。
講師のSNSから申込みが入り、説明会の成約率が上がり、紹介者も増える。
会社にとっては非常に強い成長エンジンです。
一方で、その講師に売上も顧客も営業力も集中しすぎると、別の問題が起きます。
広告表現に問題が出る。
返金要求が増える。
講師が会社を通さず顧客へ直接営業する。
顧客リストを講師側が持つ。
そして最後には、
「私が辞めたら顧客も社員もついてくる」
と言われる。
私は、この状態になったときに考えるべきなのは、
「その講師を切るか残すか」ではない
と思っています。
本当に見るべきなのは、
その講師が明日いなくなっても、会社に顧客と利益が残るか
です。
相談事例|高額講座の売上が会社全体の65%
あるセミナー会社を想定します。
年商は約7億4,000万円。
経営者・個人事業主向けにセミナーやオンライン講座を提供しています。
その会社で最も売れているのが、人気講師B氏の高額講座です。
受講料は66万円。
関連商品まで含めると、B氏関連の売上は会社全体の約65%。
つまり、B氏を失えば会社の売上が一気に落ちる可能性があります。
ところが、そのB氏をめぐって問題が増え始めます。
- 「3か月で元が取れる」などのアフィリエイト広告
- 成果が出なかった受講生からの返金要求
- 高額講座へのSNS批判
- B氏本人による受講生への直接営業
- 顧客リストの持ち出し疑惑
- B氏の独立発言
- 営業社員がB氏についていく可能性
会社の中でも意見が割れます。
営業部は、
「B氏を失ったら会社が終わる」
と言います。
管理部は、
「このまま売る方が危険だ」
と反論します。
カスタマーサポートは返金対応で疲弊。
社長は、売上を失う恐怖から判断できなくなっています。
この問題の本質は「広告表現」だけではない
今回、最初に目につくのは広告問題です。
「必ず元が取れる」
「成功率90%」
「今月だけ特別」
こうした表現が紹介者から出ているなら、当然確認が必要です。
問題のあるアフィリエイターを止める。
広告表現を修正する。
これは必要です。
ただし私は、これだけで問題が解決したと考えるのは危険だと思います。
なぜなら今回、すでに問題が、
- 広告
- 営業
- 返金
- 講師発言
- 顧客データ
- 社員
- 売上構造
まで広がっているからです。
広告トラブルに見えて、実際は会社の権力構造の問題です。
人気講師が強くなりすぎると、会社との力関係が逆転する
最初は、会社が講師を起用します。
しかし売上が伸びると、少しずつ関係が変わります。
講師のSNSから顧客が来る。
講師の名前で商品が売れる。
営業社員も講師に依存する。
受講生も会社より講師を信頼する。
こうなると、会社側は、
「辞められたら困る」
という心理になります。
そして本来止めるべきことまで止められなくなる。
私は、ここが最も危険だと考えます。
問題社員でも問題役員でもなく、「問題講師を切れない会社」になってしまうからです。
私なら、まず「新しい被害」を止めます
私なら、いきなりB氏を契約解除することはしません。
しかし、従来どおりの販売を続けることもしません。
まずやるのは、
これ以上クレームと返金を増やさないこと
です。
例えば、
- 問題広告の配信停止
- アフィリエイト投稿の確認
- 説明会録画の保存
- 営業トークの確認
- 返金理由の分類
- B氏の問題発言の記録
を行います。
ここで重要なのは、
「全部止める」
でも、
「何も止めない」
でもないことです。
危険な販売だけを先に止める
という考え方です。
売上65%でも、本当に利益65%とは限らない
経営者がB氏を切れない最大の理由は、売上です。
会社売上の65%。
この数字を見れば怖くなるのは当然です。
ただし、私はここで売上だけを見ません。
確認するのは、
実質利益
です。
例えば、
- 広告費
- アフィリエイト報酬
- 講師報酬
- 営業歩合
- 返金
- 会場費
- クレーム対応人件費
- 採用・退職コスト
まで引いてみます。
売上4億8,000万円でも、実際に会社へ残る利益は想像より少ないかもしれません。
ここを数字で見ずに、
「65%を失う」
とだけ考えると、判断を誤ります。
顧客リストは講師のものか、会社のものか
今回、B氏側が受講生リストをCSVで取得していました。
B氏は、
「私の受講生だから私のリストだ」
と主張しています。
しかし経営上重要なのは、感覚ではありません。
誰が取得したのか。
誰が管理しているのか。
何の目的で使えるのか。
契約終了後どうするのか。
ここを明確にする必要があります。
顧客情報を講師個人が自由に持てる状態では、独立時に会社の顧客基盤まで一緒に流出する可能性があります。
顧客との接点を会社側に残すことは、セミナービジネスでは最重要の経営資産管理です。
大型セミナーを中止すれば解決するのか
一方で、炎上したから大型セミナーを即中止し、B氏との契約も解除するという考え方もあります。
私はこれも慎重に考えます。
なぜなら、一気に切ると、
- 売上消失
- 参加者対応
- 返金増加
- 社員離職
- B氏の独立
- 顧客流出
が同時に起こる可能性があるからです。
法律上、契約解除できることと、
経営上、今解除することが最善かは別です。
私は「代替策を作ってから交渉する」
今回、最も重要なのはここです。
私はB氏と交渉する前に、
B氏なしでも動く選択肢を作ります。
例えば、
- 代替講師の準備
- 会社ブランドの商品開発
- 既存顧客への会社からの直接連絡
- 営業社員の専属状態を解消
- 顧客データを会社CRMへ統合
- 大型セミナーの代替運営案
です。
選択肢がなければ、交渉ではありません。
相手の条件を飲むしかなくなります。
交渉力は契約書より、相手がいなくても運営できるかで決まります。
よくある失敗① 広告だけ直して終わる
アフィリエイト広告を修正すれば、一時的に炎上は弱まるかもしれません。
しかし、
講師の直接営業。
顧客データ。
返金増加。
講師独立。
売上依存。
は残ります。
表面だけ消火しても、火元は残ります。
よくある失敗② 講師を引き留めるため報酬を上げる
B氏が辞めそうだから報酬を増やす。
短期的には合理的に見えます。
ただし、講師依存が問題なのに、その講師への依存をさらに強めることになります。
私は、報酬交渉をするなら、先に依存度を下げます。
よくある失敗③ 講師を悪者にして即切る
B氏にも会社を成長させた実績があります。
成果を出した受講生もいるでしょう。
だから、
「問題講師だから悪い」
で終わらせても本質は変わりません。
仮にB氏を切っても、次の人気講師へ同じ構造を作れば再発します。
セミナービジネスで本当に作るべき資産
私は、セミナービジネスでは講師個人の人気より、次の5つを会社に残すことが重要だと考えます。
- 顧客データ
- 商品設計
- 販売プロセス
- ブランド
- 複数講師の供給体制
人気講師は強力な資産です。
しかし、講師個人しか持っていない資産は、会社の資産ではありません。
実務上のチェックポイント
- 講師との業務委託契約
- 契約解除条件
- 講座コンテンツの権利
- 顧客情報の帰属
- データ返却・削除条件
- 受講生への直接営業
- 競業条件
- 講師報酬
- 商品別売上
- 商品別実質利益
- 広告費
- アフィリエイト報酬
- 返金額
- 返金理由
- 営業トーク
- 説明会録画
- 広告表現
- アフィリエイター管理
- 顧客データのアクセス履歴
- 大型セミナーの代替運営案
経営者に確認したい一つの質問
私は、このようなケースでは最後にこう聞きます。
「明日その人気講師が辞めたら、この会社は誰に何を売れますか?」
答えが、
「何も売れない」
なのであれば、その会社は講師を雇っているのではありません。
講師の上に会社が乗っているだけです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
この問題には、広告、個人情報、業務委託契約、顧客勧誘、コンテンツ権利など多くの論点があります。
しかし法律上問題があるかどうかだけでは、
売上をどう守るか。
顧客をどう残すか。
社員流出をどう防ぐか。
代替講師をどう育てるか。
までは決まりません。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
まとめ|人気講師を守るか切るかではなく、依存しない会社を作る
高額セミナーで広告・返金トラブルが増え、人気講師の独立リスクまで出てきた場合、私は広告だけ直して営業を続けることもしませんし、感情的に即契約解除することもしません。
まず、新しいクレームを止めます。
事実を確認します。
顧客データを守ります。
実質利益を確認します。
代替講師を準備します。
会社から顧客へ直接連絡できる状態を作ります。
その上で、B氏との契約や処遇を判断します。
このケースの本当の問いは、「人気講師を残すか切るか」ではありません。
人気講師がいなくても、会社に顧客と利益が残るかです。
私は、それがセミナービジネスで最初に考えるべき経営判断だと思います。
※本記事は、セミナービジネス、高額講座、アフィリエイト広告、返金対応、講師依存、顧客データ管理等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、契約内容、広告表示、販売方法、個人情報の取扱い、顧客構成その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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