「筋肉修復が期待できる」は薬機法違反?プロテイン広告への行政指導から学ぶ、企業の広告規制とマーケティング法務

2026.10.15

「効果が期待できる」と書けば、広告規制に違反しないと思っていませんか。

2026年10月14日、朝日新聞は、神奈川県逗子市と民間企業が協力して開発したプロテインの広告について、薬機法違反として行政指導が行われたと報じました。

問題となったのは、チラシに記載された「筋肉修復が期待できる」という表現です。

一見すると、効果を断定しているわけではなく、特段問題のない広告表現にも思えます。

しかし、薬機法では、**「期待できる」「サポートする」といった柔らかい表現であっても、消費者に医薬品的な効能効果を認識させる場合には、規制対象となる可能性があります。**

本記事では、今回のニュースを題材に、薬機法の広告規制、景品表示法との違い、企業が取り組むべき広告審査について、マーケティング法務の観点から解説します。

1.逗子市のプロテイン広告で何が問題になったのか

報道によると、逗子市は、市内の健康食品製造販売会社と協力してオリジナルパッケージのプロテインを開発しました。

商品は、ふるさと納税の返礼品として取り扱われたほか、市観光協会などでも一般販売されていました。

販売促進用のチラシには、次のような内容が掲載されていたとされています。

– 吸収が速いこと
– 筋肉修復が期待できること
– 健康維持などが期待できること

これに対して、鎌倉保健福祉事務所は、承認前の医薬品の広告禁止に抵触するとの指摘を行いました。

逗子市は、チラシの撤去やSNS広告の削除などの対応を取ったと報じられています。

今回の事例で注目すべきなのは、プロテインという一般的な食品であっても、広告表現によって薬機法上の問題が生じるという点です。

なお、行政指導が行われたことと、裁判所によって違法性が確定したことは同じではありません。本記事では、報道された行政の判断を前提に、広告規制の仕組みを解説します。

2.なぜ「筋肉修復が期待できる」という表現が問題になるのか

(1)食品でも薬機法の規制対象になる

「薬機法は医薬品や医療機器を規制する法律だから、食品の広告には関係ない」

このように考えている企業も少なくありません。

しかし、これは正確ではありません。

医薬品医療機器等法(薬機法)第2条では、医薬品の定義が定められています。

そして、厚生労働省の「医薬品の範囲に関する基準」では、商品の成分だけでなく、効能効果の表示、形状、用法用量、販売方法などを総合的に判断することとされています。

食品として販売していても、医薬品的な効能効果を標ぼうすることによって、医薬品としての規制が問題になる場合があります。

今回のようなケースでは、特に薬機法第68条の「承認前の医薬品等の広告の禁止」が重要になります。

(2)「筋肉修復」は身体の機能に対する作用を示す表現

厚生労働省の基準では、医薬品的な効能効果として、疾病の治療・予防に関する表現のほか、身体の組織機能の増強・増進を目的とする表現などが挙げられています。

一方で、一般的な栄養補給や健康維持に関する表現は、通常、これらと区別されます。

例えば、

「運動後のたんぱく質補給に」

という表現と、

「傷んだ筋肉を修復する」

という表現では、消費者が受け取る商品の効能に関する印象が異なります。

後者は、単に栄養素を補給することを超えて、商品そのものが身体の組織に具体的な作用を及ぼすという印象を与えかねません。

今回の「筋肉修復が期待できる」という表現も、このような観点から問題になったと考えられます。

(3)「期待できる」と書けば適法になるわけではない

マーケティング実務で特に注意したいのは、断定を避ければ広告規制を回避できるわけではないという点です。

例えば、次のような表現があります。

– 「疲労回復が期待できます」
– 「身体機能の改善をサポートします」
– 「症状の改善につながる可能性があります」

これらは、いずれも表現を柔らかくしています。

しかし、商品区分や表示全体の内容によっては、医薬品的な効能効果をうたっていると判断される可能性があります。

広告規制で重要なのは、言葉を断定形から推測形に変えることではなく、その広告によって消費者がどのような効能効果を認識するかという点です。

3.科学的な根拠があれば広告に使ってよいのか

企業から、次のような相談を受けることがあります。

「論文で効果が認められているのだから、広告しても問題ないのではないでしょうか」

確かに、広告の裏付けとなる科学的根拠は重要です。

しかし、ここで区別しなければならないのは、次の2つです。

① その効果について科学的な裏付けが存在するか

② その効果を当該商品について広告することが法律上許されるか

この2つは別の問題です。

たとえ科学的な研究結果が存在していても、食品について医薬品的な効能効果を広告できるとは限りません。

例えば、たんぱく質が筋肉などの身体組織を構成する栄養素であることは広く知られています。

しかし、そのことから直ちに、特定のプロテイン商品について「筋肉を修復する」と広告できるわけではありません。

また、薬機法と景品表示法では、確認すべきポイントも異なります。

薬機法では、そもそもその商品について医薬品的な効能効果を広告することが認められるかが問題になります。

一方、景品表示法では、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示などが禁止されており、効果をうたう場合の合理的な根拠も重要です。

さらに、健康食品については、健康増進法の虚偽誇大表示規制も検討する必要があります。

つまり、企業が広告を制作する際には、**「エビデンスがあるか」だけでなく、「その商品について、その表現を使ってよいか」まで確認する必要があります。**

4.では、どのような広告表現にすればよかったのか

マーケティング法務において重要なのは、問題のある広告表現を単に削除することではありません。

商品の魅力を、法令に適合した方法で伝えることです。

例えば、一般的なプロテインの広告であれば、以下のような方向性が考えられます。

| リスクのある表現例 | 代替表現の方向性 |
| 筋肉を修復する | 運動後のたんぱく質補給に |
| 身体の機能を回復させる | 日々の栄養補給に |
| 筋肉の損傷を改善する | 毎日の食生活にたんぱく質をプラス |
| 疲労回復効果が期待できる | 運動後の栄養補給習慣に |

※代替表現は一般的な方向性を示したものであり、個別商品の適法性を保証するものではありません。

例えば、商品の栄養成分、味、飲みやすさ、開発の背景、利用シーンなどを具体的に紹介する方法もあります。

広告の訴求力を高める方法は、身体への効能効果を強調することだけではありません。

商品自体の特徴や購入するメリットを整理することで、法的なリスクを抑えながら、競合商品との差別化につなげることが可能です。

5.自治体や広告代理店との共同事業でも注意が必要

今回のニュースでもう一つ注目したいのは、自治体と民間企業が協力して開発した商品であるという点です。

企業が自治体や広告代理店などと協力して事業を進める場合、広告に関する責任分担が曖昧になることがあります。

例えば、次のような状況です。

– 商品の開発はメーカーが担当する
– チラシの制作は広告代理店が担当する
– 広告の掲載や配布は販売事業者が担当する
– 最終確認は担当者間のやり取りのみで行う

このような場合、誰が広告表現の適法性を確認するのか明確でないまま、広告が公開されてしまう可能性があります。

しかし、制作を外部委託したからといって、広告主や関係事業者が当然に責任を免れるわけではありません。

薬機法の広告規制は、一定の違反行為について広告主だけでなく広告制作・発信に関わる者も対象になり得ます。また、景品表示法上の表示主体については、表示内容の決定への関与などに応じた検討が必要です。

共同事業では、少なくとも広告表現の審査担当者、最終承認者、修正時の対応方法を事前に明確にすることが望まれます。

6.中小企業こそ、広告公開前の法務チェックが重要

近年、中小企業でもSNS広告やLP(ランディングページ)、動画広告などを活用するケースが増えています。

これらの広告は、比較的少ない予算で実施できる一方、問題のある表現が短期間で広く拡散する可能性があります。

また、チラシやホームページだけを修正しても、過去のSNS投稿、広告配信先、販売代理店のページなどに同じ表現が残っていることも考えられます。

こうしたリスクを減らすためには、広告の公開前にチェックする仕組みが重要です。

広告公開前の5つのチェックポイント

① 商品区分を確認する

医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性表示食品など、商品がどの区分に該当するのかを確認します。

② 広告表現の裏付けを確認する

効果や実績について客観的な根拠があるか、根拠が当該商品に対応しているかを確認します。

③ 広告全体の印象を確認する

文章だけでなく、画像、図表、体験談、動画、注釈などを含めて消費者に与える印象を確認します。

④ 複数の法律を横断的に確認する

薬機法だけでなく、景品表示法、健康増進法、食品表示法など、必要な法規制を確認します。

⑤ 広告審査の責任者を明確にする

社内担当者、広告代理店、外部専門家の役割を定め、公開前の確認・承認手続を整備します。

広告表現に問題が発覚した場合、広告の修正費用だけではなく、配信停止、行政対応、顧客対応、企業の信用低下といった影響が生じる可能性があります。

事後対応よりも、事前に予防する仕組みを整えることが重要です。

7.弁護士としての見解――マーケティング法務は売上を伸ばすための法務でもある

今回のニュースを通じて、企業経営者の皆様にお伝えしたいことがあります。

それは、**マーケティング法務は、単に広告を規制するためのものではない**ということです。

企業が商品やサービスを販売するためには、その魅力を顧客に伝える必要があります。

広告表現を必要以上に制限してしまえば、商品の特徴が伝わらず、販売機会を失うことにもつながります。

一方で、売上を優先するあまり、法的な問題のある表現を使用すれば、行政指導や広告停止、信用低下などのリスクを抱えることになります。

私は、マーケティング法務の役割とは、こうした両者のバランスを考え、企業の事業活動を支援することにあると考えています。

具体的には、次のような支援です。

– 法律上問題のある広告表現を発見する
– 広告規制に抵触する理由を明確にする
– 商品の魅力を維持した代替表現を提案する
– 広告審査の社内体制を整備する
– 法的リスクを踏まえた販売戦略の実現を支援する

重要なのは、広告が完成した段階で「この表現は使えません」と指摘するだけではなく、企画段階から法的な視点を取り入れることです。

「法律を守るために売上を犠牲にする」のではなく、「法律を理解し、適法な方法で売上を伸ばす」。

これこそが、マーケティング法務が企業経営に提供できる価値ではないでしょうか。

8.まとめ|広告規制を経営リスクではなく、競争力向上の機会に

今回のプロテイン広告への行政指導は、一見問題がなさそうな表現であっても、法令上のリスクが存在することを示す事例です。

特に、「期待できる」といった断定を避ける表現や、科学的な根拠を示す方法だけでは、広告の適法性を確保できない場合があることに注意が必要です。

企業の広告活動は、単なる宣伝活動ではなく、企業の信用やブランド価値を形成する重要な経営活動です。

だからこそ、マーケティングと法務を切り離さず、売上とコンプライアンスを両立させる仕組みを構築することが求められます。

### 広告・マーケティングに関する法律相談は丸の内経営法律事務所へ

丸の内経営法律事務所では、企業のマーケティング活動に関する法的課題について、事業活動や販売戦略を踏まえた支援を行います。

LP・ホームページ・SNS広告・チラシなどの広告表現について、薬機法、景品表示法、健康増進法などの観点から法的リスクを検討し、必要に応じて修正案や広告審査体制の構築をご提案します。

広告の適法性に不安がある場合や、新たな商品・サービスの販売促進を検討されている企業様は、お気軽にご相談ください。

広告を止めるための法務ではなく、企業の成長を支えるマーケティング法務を。

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参考資料

– 朝日新聞(2026年10月14日)「プロテインのチラシに『筋肉修復に期待』 薬機法違反で逗子市に指導」
https://www.asahi.com/articles/ASVBF34VVVBFULOB014M.html
– 厚生労働省「無承認無許可医薬品の指導取締りについて(医薬品の範囲に関する基準)」
– 厚生労働省「医薬品等の広告規制について」
– 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」

※本記事は2026年10月14日時点で確認できる報道内容および公表資料を前提とした一般的な法的解説です。個別の広告の適法性については、商品区分、具体的な表現、広告全体の内容などを踏まえた検討が必要です。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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