大口顧客から「御社の機械が止まって3,000万円損した」と言われたら|BtoBクレーム対応・製品不具合・損害賠償の考え方

2026.10.20

「御社の機械が止まって3,000万円損した」と言われたら、最初に何をすべきか

BtoBの顧客クレームでは、金額が大きくなるほど経営判断が難しくなります。

特に、製造機械や業務システムの不具合で相手企業の生産や営業が止まった場合、単なる修理では終わりません。

相手からは、

「外注費がかかった」

「納品が遅れた」

「人件費が増えた」

「売上機会を失った」

として、高額な損害賠償を求められることがあります。

このとき、経営者は、

「払って取引を守るか」

「契約書の免責条項を使って拒否するか」

の二択で考えがちです。

私は、この二択に入る前に、やるべきことがあると考えます。

まず確認すべきなのは、「会社はいつ問題を認識し、その後何をしたのか」です。

相談事例|包装機が止まり、大口顧客から3,000万円の補償要求

食品工場向けの包装機械メーカーを想定します。

年商約18億6,000万円。

最大顧客である食品メーカーB社との年間取引は約3億1,000万円。

売上の約17%を占める大口顧客です。

B社では、メーカーから導入した包装機が複数回停止していました。

最初は数時間の停止でした。

その都度サービス担当者が現地で調整し、復旧していました。

しかし、ある繁忙期に主力ラインが約11時間停止。

B社は外注生産、緊急輸送、人員追加、納品遅延対応などを余儀なくされます。

そして、

「損害約3,000万円を補償してほしい」

という正式な要求が来ます。

ところが本当の問題は「故障」ではなかった

会社が内部調査を始めると、さらに厳しい事実が見つかりました。

サービス担当者間のチャットに、

「また例の症状」

「全台対策になると大変だから現場で処理」

といった記録が残っていたのです。

別の顧客でも似た停止が起きていました。

品質保証部の若手社員から、

「類似故障を集計すべきではないか」

という問題提起もありました。

しかし、正式な品質問題として扱われていませんでした。

この瞬間、クレームの性質が変わります。

顧客の不満は、

「機械が壊れた」

から、

「前から知っていたのではないか」

へ変わります。

BtoBクレームで本当に怖いのは「隠していた」という評価

製品は壊れることがあります。

不具合がゼロのメーカーはありません。

顧客側も、故障自体はある程度理解します。

しかし、

「以前から似た症状を把握していた」

「根本原因の調査を求められていた」

「それでも正式な対策をしなかった」

となると、話は変わります。

品質問題から信頼問題へ変わるからです。

私は、BtoBクレーム対応ではこの変化を非常に重く見ます。

3,000万円を払うかどうかを最初に決めない

大口顧客から高額な損害賠償請求が来ると、社内ではすぐ、

「いくら払うのか」

という議論が始まります。

しかし私は、補償額を最初には決めません。

なぜなら、その時点では、

  • 故障原因
  • 会社側の認識時期
  • 顧客側の実損
  • 故障との因果関係
  • 契約上の責任範囲

が確定していないからです。

先に3,000万円を払えば、過大な補償になる可能性があります。

逆に、先に、

「契約書では免責です」

と拒否すれば、後から社内記録が出たときに説明が崩れます。

まず事実を固めることが先です。

私なら最初に3つを同時に動かす

私は、このようなクレームでは次の3つを同時に進めます。

1.再発防止

まず次の事故を止めます。

  • 同型機の故障履歴を収集
  • 高リスク機を抽出
  • 必要なら新規出荷・提案を一時見直す
  • 代替機を確保
  • 緊急部品を確保
  • 応援要員を準備

です。

すでにクレームが発生している以上、次の1台が止まれば、

「また放置した」

という評価になります。

2.証拠保全

次に、過去の記録を保存します。

  • サービス報告書
  • 社内チャット
  • メール
  • 基板交換履歴
  • 顧客への説明履歴
  • 品質会議資料

この段階で誰かを処分すると、情報が出にくくなる可能性があります。

最初は、

「誰が悪いか」ではなく、「何が起きていたか」

を確認します。

3.顧客の事業継続支援

相手企業には、補償額より先に、

「また止まった場合どうするか」

を提示します。

例えば、

  • 代替機
  • 緊急部品
  • 常駐支援
  • 応援技術者
  • 休日対応

です。

顧客からすると、3,000万円の交渉も重要ですが、

「明日またラインが止まらないか」

の方が緊急です。

大口顧客だから全部払う、も危険

B社は年間3億1,000万円の大口顧客。

さらに1億2,000万円の新規商談も控えています。

そうすると、

「3,000万円払って関係を守ろう」

という意見が出ます。

経営判断として理解できます。

しかし、私はそれだけでは決めません。

もし同型機140台で同じ問題があるなら、B社だけ3,000万円を払っても終わらないからです。

他社からも、

「うちも止まっている」

と言われる可能性があります。

一件の和解だけを見るのではなく、

製品ライン全体の損失可能性を見る必要があります。

逆に、免責条項だけで押し切るのも危険

法人契約では、損害賠償責任の上限や間接損害の免責が定められていることがあります。

当然、契約書は確認すべきです。

ただし、顧客が、

「前から分かっていたのではないか」

と疑っている場面で、最初の回答が、

「契約上、責任はありません」

では、信頼回復は難しくなります。

法律論は重要です。

しかし、

法律論を使う順番も経営判断です。

損害3,000万円も中身を分けて見る

相手から、

「3,000万円損した」

と言われても、そのまま金額を受け入れる必要はありません。

例えば、

  • 緊急外注費
  • 緊急輸送費
  • 追加人件費
  • 廃棄費
  • 納品遅延対応費
  • 逸失利益

では、性質が違います。

それぞれについて、

「実際に発生したか」

「機械停止が原因か」

「回避できなかったか」

を確認します。

「払う・払わない」ではなく、損害を構造化することが重要です。

サービス部長をすぐ処分してはいけない理由

社内チャットに問題発言があれば、

「サービス部長を外して顧客へ示そう」

という案も出ます。

しかし、私は初動での処分を急ぎません。

なぜなら、

  • 会社はどこまで知っていたか
  • 営業は何を把握していたか
  • 社長への報告はあったか
  • 品質保証部の問題提起はどう扱われたか

まで確認しなければ、本当にサービス部だけの問題か分からないからです。

一人だけ処分すると、

「責任を押しつけた」

と社内に受け取られることもあります。

責任追及より先に、事実の時系列を作るべきです。

この会社の本当の問題は「現場で直れば終わり」という文化

今回のケースで、私は一番ここを問題視します。

サービス現場では、機械が止まれば直します。

直れば顧客は一度納得します。

しかし、同じ症状が複数回起きているなら、

「復旧したから終了」

ではいけません。

必要なのは、

個別修理から品質問題へのエスカレーション

です。

この基準がない会社では、同じトラブルが何度でも起きます。

大口顧客を怒らせない文化も見直す必要がある

社長は、

「大口顧客を怒らせるな」

と言っていました。

営業会社ではよくある考え方です。

しかし、この言葉が強すぎると、現場は、

「問題を大きくしない」

「報告すると面倒になる」

「とりあえずその場を収める」

方向へ動くことがあります。

その結果、顧客を怒らせないための文化が、最後には、

顧客を最も怒らせる原因になる

ことがあります。

よくある失敗① まず謝って全額補償する

顧客関係を守る姿勢としては理解できます。

しかし原因・責任・他社への波及を確認する前に補償を固定すると、その後の判断を難しくします。

よくある失敗② 契約書を先に出す

免責条項や責任制限条項は重要です。

しかし「隠していたのではないか」という不信がある状況では、最初に出すカードではありません。

よくある失敗③ 責任者を処分して終わる

人を替えても、

「現場で直れば報告しない」

という仕組みが残れば再発します。

私ならこう進める


新たな故障リスクを止める
↓
サービス記録・チャット・メールを保全する
↓
B社の事業継続策を先に提示する
↓
全国140台の故障履歴を確認する
↓
技術原因を特定する
↓
会社がいつ何を知っていたか時系列化する
↓
B社の損害3,000万円の中身を検証する
↓
契約・責任範囲を整理する
↓
全台改修・一部改修を判断する
↓
補償交渉を行う
↓
社内責任と再発防止を決める

実務上のチェックポイント

  • 売買契約書
  • 保守契約書
  • 免責条項
  • 損害賠償上限
  • 間接損害の定義
  • 製品仕様書
  • 提案書
  • 過去のサービス報告書
  • 故障履歴
  • 制御基板交換履歴
  • 同型機140台の不具合件数
  • 他顧客の類似故障
  • サービス部チャット
  • 社内メール
  • 品質保証部からの問題提起
  • 社長への報告内容
  • 顧客からの過去の要請
  • 再発防止回答
  • 11時間停止のタイムライン
  • 外注費
  • 緊急輸送費
  • 追加人件費
  • 納品遅延費用
  • 逸失利益の計算根拠
  • 顧客側の損害回避行動
  • 停止と損害の因果関係
  • 全台改修費
  • 代替機台数
  • 緊急サービス体制
  • 他顧客への説明方針

経営者に確認したい一つの質問

私は、このようなBtoBクレームでは経営者へこう聞きます。

「会社は、いつから“これは単発故障ではないかもしれない”と認識していましたか?」

ここが明確になれば、

顧客への説明。

補償交渉。

社内責任。

再発防止。

他顧客対応。

すべての基準が見えてきます。

なぜ法律だけでは解決できないのか

今回の問題には、契約不適合、債務不履行、損害賠償、免責条項、製造物責任などの法的論点があります。

しかし、仮に契約上3,000万円全額を負担する必要がないとしても、対応を誤れば最大顧客を失う可能性があります。

反対に、顧客関係を恐れて全額補償しても、全国140台に同じ問題があれば会社全体の損失は止まりません。

必要なのは、

  • 法律
  • 品質
  • 財務
  • 顧客感情
  • 社内組織
  • ブランド
  • 再発可能性

を同時に見ることです。

重要なのは、誰が悪いかではなく、次の被害を止めながら説明責任を果たせるかです。

まとめ|3,000万円より先に「次の1台を止めない」

BtoB取引で製品不具合が発生し、大口顧客から高額な損害賠償請求を受けた場合、私は補償額を最初には決めません。

一方で、契約書を根拠に責任を否定することもしません。

まず、次の故障を止めます。

証拠を保全します。

顧客の事業継続を支援します。

同型製品の故障履歴を確認します。

会社がいつ問題を認識したかを整理します。

その後で、損害の内容と契約責任を確認し、改修と補償を決めます。

このケースの本当の問いは、「3,000万円を払うか」ではありません。

会社が問題を認識した後、何をしたのかを顧客に説明できるかです。

私は、それが重大クレームで最初に守るべきものだと考えます。


※本記事は、BtoBクレーム、製品不具合、損害賠償請求、大口顧客対応、契約不適合、再発防止等について一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における法的責任や具体的な損害賠償額を示すものではありません。実際の対応は、契約内容、不具合原因、過去の認識、損害内容、因果関係その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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