
売掛金が払われないとき、債権回収で最初にやるべきこと
2026.09.21
売掛金が払われない。最初に内容証明を送るべきなのか
取引先から売掛金が入ってこない。
電話をすると、
「来月には払います」
「今だけ資金繰りが厳しい」
「ここで取引を止められると、本当に払えなくなる」
と言われる。
こうした状況になると、経営者は迷います。
待つべきか。
内容証明を送るべきか。
支払督促や訴訟へ進むべきか。
私は、売掛金の債権回収で最初にやるべきことは、いきなり訴えることではないと考えます。
まず、新しい未回収債権を増やさないことです。
そのうえで、債権の証拠と相手の支払能力を確認し、任意回収・分割払い・担保・仮差押え・支払督促・訴訟を使い分けます。
相談事例
ある厨房設備会社を想定します。
長年付き合ってきた飲食チェーンに対し、売掛金約3,280万円が未回収になっています。
取引歴は12年。
以前は優良顧客でした。
ところが半年ほど前から支払いが遅れ始めました。
「2週間待ってほしい」
「来月まとめて払う」
「毎月500万円ずつ返す」
何度も約束はされています。
しかし予定どおりには入りません。
その一方で、相手は新店舗を出し続けています。
さらに、
「次の3,000万円の店舗工事もお願いしたい」
と新しい仕事まで持ち込んできました。
営業部は、
「取引を続けなければ過去の売掛金も回収できない」
と言います。
経理は、
「これ以上やれば自社まで危ない」
と言います。
私は、この場面で新しい掛取引をいったん止めます。
この問題の本質は「裁判するかどうか」ではない
このような相談では、よく、
「内容証明を送った方がいいですか」
「裁判をすれば取れますか」
という質問になります。
しかし私は、その前に二つ確認します。
一つ目は、本当にいくら請求できるのか。
二つ目は、相手に払える財産があるのか。
ここを確認しなければ、裁判で勝っても回収できない可能性があります。
まず売掛金を3つに分ける
今回の3,280万円を一つの数字として見てはいけません。
私は、案件ごとに次の3つへ分類します。
- 金額も発注も明確で、争いがほぼない債権
- メールやLINEなどを集めれば補強できる債権
- 追加工事など、相手が争う可能性のある債権
例えば600万円分について正式な注文書がなく、追加工事の金額承認も曖昧なら、そこは証拠を集める必要があります。
見積書。
注文書。
請求書。
納品書。
検収書。
工事写真。
メール。
LINE。
入金履歴。
これを案件単位で並べます。
債権回収は、怒った側が勝つのではなく、証拠を整理した側が強くなります。
内容証明は「回収そのもの」ではない
内容証明郵便を送ることには意味があります。
請求内容や請求時期を明確にできます。
相手へ会社の姿勢を伝えることもできます。
しかし、内容証明を送っただけで売掛金が現金になるわけではありません。
内容証明は道具の一つです。
問題は、その後です。
払わなかった場合に、
- 分割払いを認めるのか
- 担保や保証を取るのか
- 支払督促へ進むのか
- 訴訟へ進むのか
- 仮差押えを検討するのか
まで考えておく必要があります。
「裁判で勝つ」と「回収できる」は違う
私は、債権回収でここを最も重視します。
判決を取ることと、お金を回収することは別です。
相手に預金がない。
不動産もない。
店舗は賃貸。
設備はリース。
他社にも支払いが遅れている。
こうした状態なら、勝訴しても回収が難しい場合があります。
逆に、売掛金や預金など回収対象になり得る財産があり、それを処分される危険が具体的に高いなら、仮差押えなどの保全を早く検討する意味があります。
だから私は、
「訴えるか」ではなく、「何を取りに行けるのか」
から考えます。
分割払いを認めるなら、口約束を終わらせる
「毎月500万円払います」
こう言われると、経営者は少し安心します。
しかし実際には200万円しか入らない。
そして翌月、また、
「今月だけ待ってください」
となる。
この繰り返しは危険です。
分割払いを認めるなら、
- 債務総額
- 毎月の支払額
- 支払日
- 遅れた場合の扱い
- 新規取引の条件
を明確にします。
「できる限り払います」では、回収計画にはなりません。
新しい仕事を受ければ、過去の売掛金を回収できるのか
営業部からよく出る考え方です。
「相手を潰したら取れない」
「次の仕事で利益を出してもらえば、そこから返してもらえる」
確かに理屈としては分かります。
しかし、新しい3,000万円の仕事を受けるためには、自社も材料を仕入れ、人件費や外注費を先に払います。
その3,000万円まで未回収になったらどうなるでしょうか。
3,280万円を回収するために、さらに3,000万円を危険にさらすことになります。
債権回収で怖いのは、過去の未回収を取り戻そうとして、新しい未回収まで作ることです。
取引停止と取引継続の間には選択肢がある
私は、必ずしも、
「今日から一切取引停止」
とする必要はないと考えます。
例えば、
- 前金100%
- 材料費先払い
- 入金確認後に施工
- 修理代は現金決済
などへ切り替える方法があります。
これなら取引関係を完全に切らず、既存の売掛金を増やさないことができます。
重要なのは、
取引を続けるかどうかではなく、これ以上無担保で信用供与するのか
です。
長年の取引先だからこそ、数字を見せてもらう
12年付き合った相手なら、助けたいという気持ちは自然です。
しかし私は、
「長い付き合いだから信用する」
ではなく、
「長い付き合いだからこそ、本当に立て直せるのか数字を見せてもらう」
と考えます。
確認したいのは、
- 月次資金繰り
- 金融機関借入
- 他社への支払遅延
- 税金等の支払状況
- 店舗別損益
- 新店舗投資の資金源
です。
「信用してくれ」だけで3,000万円を超える与信を続けるのは、経営判断とは言いにくいと思います。
この問題は社長だけの問題ではない
営業部は売上を守りたい。
経理はキャッシュを守りたい。
サービス部は、代金を払わない顧客をなぜ優先するのかと不満を持つ。
ここで社長が人間関係だけで例外を認め続けると、
「払わない会社ほど優遇される」
というメッセージになります。
今回の債権回収が終わっても、与信管理を変えなければ同じ問題は再発します。
法律だけでは解決できない理由
内容証明。
支払督促。
訴訟。
仮差押え。
強制執行。
法的な手段は重要です。
しかし、どの手段を使うかは、相手の財産、証拠、支払能力、取引継続価値、自社の資金繰りによって変わります。
法律上正しい手続きを取っても、回収額が増えるとは限りません。
債権回収は「相手を追い込む仕事」ではなく、「自社のキャッシュを最大限戻す仕事」だと私は考えます。
実務上のチェックポイント
- 売掛金の案件別内訳
- 各債権の支払期限
- 契約書・注文書・見積書
- 納品・検収記録
- メール・LINE等の発注記録
- 一部入金の履歴
- 債務承認の記録
- 相手の資金繰り
- 他社への支払遅延
- 預金・売掛金・不動産等の情報
- 新規案件を受けた場合の追加与信額
- 自社の今後6か月の資金繰り
- 分割払いを認める条件
- 前金取引へ変更できるか
- 与信限度額を誰が決めるのか
- 営業評価に回収実績を反映しているか
私ならこう進めます
新しい掛取引を止める
↓
売掛金を案件ごとに分ける
↓
証拠を集める
↓
相手の支払能力・財産を確認する
↓
任意弁済で回収できる額を判断する
↓
分割なら条件を書面化する
↓
必要なら担保・保証を検討する
↓
財産散逸のおそれがあれば保全を検討する
↓
支払督促・訴訟等を選択する
↓
実際に現金が戻るところまで管理する
まとめ
売掛金が払われないと、経営者は感情的になりやすくなります。
「もう許せない。すぐ訴える」
あるいは逆に、
「長い付き合いだから、もう少し待つ」
となります。
私は、どちらからも始めません。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
まず止めるべきなのは、取引関係ではありません。
未回収債権が増え続ける状態です。
そのうえで、証拠と相手の支払能力を確認し、内容証明、分割払い、支払督促、仮差押え、訴訟などを使い分けます。
私は、債権回収を一言で表すなら、こう考えます。
「債権回収は、請求する仕事ではなく、現金に戻す仕事。」
そして、最初の一手は、
「回収するために、これ以上未回収を増やさないこと。」
です。
※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における債権回収、内容証明、支払督促、仮差押え、訴訟、強制執行その他の法的判断を示すものではありません。実際の対応は、契約内容、証拠、債権額、相手方の財産・信用状況、時効その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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