
工事代金が未払いになったとき、最初にすべきこと|追加工事・相殺・工期遅延をどう整理するか
2026.09.23
工事代金が未払いでも、すぐ「全部払え」と請求しない
建設業では、工事が終わった後になって、
「追加工事は正式発注していない」
「施工不良の手直し費を差し引く」
「工期遅延で損害が出たから相殺する」
と言われ、工事代金が支払われないことがあります。
経営者としては、
「全部工事したのだから、まず払ってほしい」
と思うのが自然です。
しかし私は、こういうときほど、いきなり全額請求から入らない方がよいと考えます。
最初にやるべきことは、未払い工事代金を分解することです。
本契約残代金。
追加工事代金。
施工不良による手直し費。
工期遅延による損害。
これらは同じ問題ではありません。
相談事例|工事代金2,760万円が未回収
ある電気設備工事会社を想定します。
年商約7億4,000万円。
元請X社から物流センター新築工事を受注し、契約金額は約1億1,800万円でした。
工事は完成しました。
ところが最終精算で、
- 本契約残代金:約1,320万円
- 追加工事代金:約1,440万円
合計約2,760万円が未払いになりました。
元請X社は、
「施工不良の手直し費がある」
「他業者を応援に入れた費用もある」
「工期遅延で損害が出た」
として、最終的に、
「支払えるのは180万円程度」
という精算案を出してきました。
当然、会社側は納得できません。
この問題の本質は「2,760万円を取れるか」ではない
私は、この問題の本質は、
2,760万円全額について勝てるかどうかではない
と考えます。
重要なのは、
2,760万円の中に、どれだけ「争わなくても回収できる金」があるのかを見つけること
です。
今回なら、まず、
- 本契約残代金
- 証拠の強い追加工事
- 証拠の弱い追加工事
に分けます。
さらに元請側の控除主張も、
- 自社が認める手直し
- 原因が争われている手直し
- 応援費
- 工期遅延損害
に分けます。
全部を一つの紛争にしない。
これが最初のポイントです。
本契約残代金まで止められていないかを確認する
今回、元請側の経理担当から、
「本契約残代金まで全部払わないという話ではない」
という情報が出ています。
私は、この部分を非常に重視します。
つまり、追加工事や損害賠償については争っていても、
元の請負契約に基づく残代金については争いが少ない可能性がある
ということです。
その場合、
「追加工事や損害については協議を続ける。ただし、本契約残代金は先に支払ってほしい」
と切り分ける余地があります。
これは経営上、とても重要です。
なぜなら、裁判で最終的にいくら取れるかより、
今月いくら現金を回収できるか
の方が中小企業には重要な場面があるからです。
追加工事代金は「注文書がないからゼロ」ではない
建設現場では、追加工事が口頭で進んでしまうことがあります。
「時間がないから先にやって」
「注文書は後で出す」
「最後にまとめて精算する」
こうしたやり取りです。
今回も、追加工事約1,440万円のうち、
- メールで指示が残っているもの
- チャットで指示が残っているもの
- 工程会議議事録に記録があるもの
- 口頭指示しかないもの
- 自社判断と見られる可能性があるもの
が混在しています。
私は、追加工事代金をまとめて請求しません。
追加工事ごとに、証拠の強さを分けます。
追加工事で確認するべきこと
私なら、工事ごとに次を確認します。
- 誰が追加工事を指示したのか
- その人物に発注権限があったのか
- いつ指示されたのか
- 何を変更したのか
- 概算金額を伝えていたか
- 見積書を出したか
- 施工後に元請が利用しているか
- 材料費・人工はいくらか
例えば、
「追加工事1,440万円」
という一つの数字ではなく、
「照明変更280万円、メール指示あり」
「LAN変更360万円、チャットあり」
「追加人員420万円、増員要請議事録あり」
というように分けます。
数字を分解すると、回収交渉の精度が上がります。
施工不良は、認めるものと争うものを分ける
今回、会社側も約65万円の配線ミスについては、自社施工ミスと認めています。
私は、こうした部分を無理に争いません。
むしろ、
「この65万円は当社負担として認める」
と早めに切り出した方がよい場合があります。
一方、漏電修理約190万円については、
元請は施工不良を主張。
会社側は、別業者による配線接触の可能性を主張しています。
これは同じ「手直し費」でも性質が違います。
確認するのは、
- 事故発生時の写真
- 修理報告書
- 他業者の工事履歴
- 配線の損傷状況
- 原因調査
- 修理費の請求書
です。
手直し費という名前だけで一括控除させない。
ここが大切です。
工期遅延1,150万円も、そのまま相殺させない
今回、元請は、
「施主から減額されたので、その一部を負担してほしい」
として約1,150万円を主張しています。
しかし、ここでも確認が必要です。
本当に施主から減額されたのか。
その減額額はいくらなのか。
工期遅延の原因は本当に電気工事会社だけなのか。
今回の現場では、建築工事側の遅れについて議事録があります。
さらに元請から、
「人を増やして追い込んでほしい」
という要請も出ています。
つまり、工期遅延の責任が複数の工事会社や元請側に分散している可能性があります。
現場全体が3週間遅れたから、電気工事会社が1,150万円払う、とは限りません。
「相殺する」と言われても、自動的に工事代金は消えない
元請から、
「うちにも損害があるから相殺します」
と言われることがあります。
ここで重要なのは、
相手が損害額を主張しただけで、その金額が確定したわけではない
ということです。
例えば工期遅延損害1,150万円なら、
- その損害は本当に発生したのか
- いくら発生したのか
- 自社の工事と因果関係があるのか
- 自社の責任割合はどの程度か
を確認する必要があります。
その検証をせずに、元請の精算書だけを見て相殺に応じるべきではありません。
よくある失敗① 内容証明で全額請求して全部を紛争にする
工事代金が払われないと、
「まず内容証明を送れ」
と言われることがあります。
もちろん内容証明が必要な場面はあります。
しかし、今回のように、
請求側にも証拠の弱い部分や認めるべき手直しがある場合、
「2,760万円全額を期限までに払え」
とだけ請求すると、相手も全面的に争う可能性があります。
その結果、
本来すぐ回収できた本契約残代金まで裁判待ちになる
ことがあります。
よくある失敗② 次の仕事欲しさに大幅譲歩する
今回、X社からは来年度約6,000万円の工事相談も来ています。
営業部としては、
「今回揉めたら次の仕事がなくなる」
と不安になります。
すると、
「今回は500万円程度で手を打って、次の仕事で取り返そう」
という発想が出てきます。
私は、これは危険だと考えます。
なぜなら、今回の未払い原因そのものが、
- 追加工事の書面化不足
- 元請との精算ルール不明確
- 大口顧客への遠慮
だからです。
このルールを直さず次の6,000万円工事を受ければ、同じことが起きる可能性があります。
次の売上で、過去の未回収を取り返そうとしない。
私はこの判断を重視します。
協力会社への支払いは別に考える
今回、会社は協力会社3社から約1,100万円を請求されています。
元請からまだ入金されていない。
だから協力会社への支払いも待ってもらいたい。
経営者としてはそう考えたくなります。
しかし協力会社からすれば、
「X社とA社の精算問題は、自分たちには関係ない」
という話です。
元請からの回収が遅れることで、協力会社への支払いまで遅らせれば、
今度は自社の信用が傷つきます。
債権回収では、
回収できていない金額だけでなく、そこから連鎖する支払いまで見る必要があります。
この問題は、債権回収だけではなく社内ルールの問題
今回、現場担当者は何度も変更注文書を求めています。
しかし社長は、
「大口元請だから揉めるな」
「まず現場を終わらせよう」
と判断しました。
その結果、工事が終わってから金額交渉になっています。
私は、このケースを、
「X社が払ってくれない問題」
だけでは終わらせません。
追加工事を誰の判断で、どこまで書面なしで進められる会社だったのか
という社内管理の問題としても見ます。
私ならこう進めます
本契約残代金を確定する
↓
追加工事を一件ずつ分解する
↓
メール・チャット・議事録・写真を保全する
↓
証拠の強さを強・中・弱に分類する
↓
自社が認める手直し費を切り出す
↓
原因が争われる手直しは別途検証する
↓
工期遅延損害の根拠資料を求める
↓
工程遅延の責任原因を時系列化する
↓
争いのない工事代金を先に支払ってもらう
↓
残った争点だけを交渉・法的回収へ進める
実務上のチェックポイント
- 請負契約書
- 本契約残代金
- 完成・引渡し確認
- 追加工事明細
- 追加工事の指示者
- 指示者の権限
- メール・チャット
- 工程会議議事録
- 追加見積書
- 材料費・人工
- 協力会社請求書
- 施工不良の内容
- 原因調査資料
- 修理費の証拠
- 当初工程表
- 工程変更履歴
- 建築工事側の遅延記録
- 増員要請の記録
- 施主から元請への減額資料
- 相殺額の計算根拠
なぜ法律だけでは解決できないのか
工事代金未払いでは、請負、追加工事、相殺、損害賠償などの法的整理は重要です。
しかし、中小企業経営としてはそれだけでは足りません。
2,760万円を裁判で2年後に回収できても、
その間に協力会社への支払いや資金繰りが悪化すれば、会社は傷みます。
逆に、取引継続を優先しすぎて大幅に譲歩すれば、
「この会社は最後に値切れる」
という関係が固定される可能性があります。
重要なのは、
最終的な勝敗だけでなく、回収時期、自社の資金繰り、今後の取引条件まで含めて判断することです。
まとめ|工事代金未払いで最初に守るもの
私は、元請から工事代金を支払ってもらえず、
「追加工事は認めない」
「施工不良費を差し引く」
「工期遅延損害と相殺する」
と言われたとき、最初から全額を一括で争いません。
まず、
本契約残代金はいくらか。
追加工事のうち証拠が強いものはどれか。
本当に自社責任の手直しはいくらか。
工期遅延の責任はどこにあるのか。
相手の損害額には根拠があるのか。
これを分けます。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
2,760万円を回収するのではなく、2,760万円を分解して回収する。
そして、争わなくてよい金まで紛争にしない。
私は、それが工事代金未払い・債権回収で最初に考えるべきことだと思います。
※本記事は、工事代金未払い、追加工事代金、相殺、工期遅延等に関する一般的な経営上の考え方を整理したものです。個別案件における請求権、追加工事代金、施工不良、損害賠償、相殺その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、契約書、追加指示、工程記録、検査結果、損害資料、当事者間の協議経緯その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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