広告で売上は伸びたのに、会社の信用が崩れ始めたときに考えるべきこと

2026.06.12

導入

売上を伸ばすために広告を強化する。

これは、中小企業にとって自然な経営判断です。特に住宅リフォーム業のように、問い合わせ数が売上に直結しやすい業種では、広告・キャンペーン・補助金訴求は強力な武器になります。

しかし、広告で受注が増えた瞬間に、現場が追いつかなくなることがあります。

そして怖いのは、売上が増えているのに、会社の信用、現場の士気、利益率が同時に崩れ始めることです。

私は、この問題の本質は「広告の良し悪し」だけではなく、受注・施工・説明・クレーム対応の連動が崩れたことにあると考えます。


相談事例

ある地方都市の住宅リフォーム会社での話です。

その会社では、外壁塗装や水回り改修の受注を増やすため、広告キャンペーンを強化しました。

広告には、次のような文言が使われていました。

「今だけ外壁塗装30%オフ」
「補助金を使えば実質負担が大幅減」

広告の反応は非常によく、問い合わせは急増しました。契約件数も、通常の約1.8倍に増えました。

社長は、営業部長を高く評価していました。

社長:
「すごいな。ここまで問い合わせが増えるとは思わなかった。今回の広告は当たったな。」

営業部長:
「はい。やはり、今は補助金と割引を前面に出すと反応がいいです。もう少し広告費を増やせば、さらに契約を取れると思います。」

社長:
「売上が伸びるなら、やってみよう。今期は数字を作りたいからな。」

ところが、その後、少しずつ問題が表面化していきます。

まず、工事開始が予定より遅れる案件が出始めました。

施工管理者:
「社長、この件数はさすがに現場が回りません。職人の手配も追いついていません。」

社長:
「でも、もう契約しているんだろう?何とかならないのか。」

施工管理者:
「何とかしたいですが、無理に詰め込めば品質が落ちます。そうなれば、もっと大きなクレームになります。」

さらに、補助金を使えると思って契約した顧客が、実際には対象外だったことも分かりました。

顧客:
「営業の方から、補助金が使えると聞いて契約したんです。対象外なら、話が違います。」

営業担当者:
「使える可能性が高いという意味でご説明したつもりでした。」

顧客:
「こちらは、使えるものだと思っていました。だったら契約しませんでした。」

見積価格についても、不信感を持つ顧客が出てきました。

顧客:
「30%オフと言われましたが、そもそもの通常価格は本当にこの金額なんですか?」

営業担当者:
「当社の標準価格から割引しています。」

顧客:
「でも、他社の見積もりと比べると、割引後でも高い気がします。本当に得だったのか分かりません。」

そして、契約を急がされたという不満も出始めます。

顧客:
「今日決めないと割引できないと言われました。冷静に考える時間がありませんでした。」

こうした不満の一部は、SNSにも投稿されました。

「補助金が使えると思って契約したのに対象外だった」
「30%オフと言われたが、価格が分かりにくい」
「契約を急かされた感じがして不安だった」

社内の空気も悪くなっていきます。

施工管理者:
「現場の状況を確認せずに、営業が契約だけ取るからこうなるんです。」

営業部長:
「売上を作っているのは営業です。現場がもっと早く動けばいいだけでしょう。」

施工管理者:
「そんな言い方をされるなら、品質の責任まで現場に押し付けないでください。」

営業部長:
「こちらだって、会社のために数字を作っているんです。」

社長も、次第に感情的になっていきました。

社長:
「こんなにクレームが出るなら、営業部長のやり方に問題があったんじゃないか。」

営業部長:
「社長も広告を止めませんでしたよね。売上が伸びたときは評価していたじゃないですか。」

施工管理者:
「このままだと、現場の社員が持ちません。品質も守れません。」

このように、広告によって売上は伸びたものの、現場の負荷、顧客説明、価格表示、補助金説明、クレーム対応、社内の感情が一気に噴き出してしまったのです。

問題は、単に「営業部長が悪い」「現場が遅い」という話ではありません。

広告で増えた受注を、会社全体で受け止める仕組みが整っていなかったこと。

ここに、このケースの難しさがあります。


この問題の本質

私は、この問題の本質は、営業部長個人の問題だけではないと考えます。

もちろん、補助金の説明や割引表示、契約を急がせる営業トークに問題があった可能性はあります。景品表示法、特定商取引法、消費者契約法などの観点からも、慎重な確認が必要です。

しかし、ここで営業部長だけを悪者にして終わらせると、会社はまた同じ問題を繰り返します。

なぜなら、社長も売上増加を喜び、広告を止めなかったからです。

  • 現場キャパシティを確認せずに受注を増やしたこと
  • 補助金説明のルールを整えなかったこと
  • 見積価格の根拠を社内で統一しなかったこと
  • クレーム対応基準を作らなかったこと

これらは、個人の暴走というより、会社の仕組みの問題です。


よくある失敗

このような場面でよくある失敗は、感情的に誰かを処分することです。

たとえば、社長が怒って営業部長をすぐに外す。

一見すると、現場の不満を抑えるには効果がありそうです。しかし、若手営業から見ると「売上が伸びたときは評価していたのに、問題が出たら責任を押し付けた」と映る可能性があります。

反対に、営業部長を守りすぎるのも危険です。

現場は「会社は営業だけを見て、施工現場を見ていない」と感じます。施工管理者や古参社員が離れていけば、会社の品質は一気に落ちます。

また、SNS投稿にすぐ反論するのも危険です。

顧客の投稿に一部でも事実が含まれている場合、強い反論は「反省していない会社」という印象を広げます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。


私ならどう考えるか

私なら、まず広告・営業トーク・契約書・見積書・補助金説明・クレーム案件を緊急点検します。

同時に、新規広告は一時停止します。

ここで大切なのは、いきなり謝罪するか、争うか、処分するかを決めないことです。

まず、事実を整理します。

  • どの広告に、どの表現が使われていたのか
  • 「30%オフ」の基準価格はどう決めたのか
  • 補助金対象外だった顧客は何件あるのか
  • 営業担当者はどのような説明をしたのか
  • 契約書面や見積書に問題はないか
  • 工事遅延は何件あり、原因は何か

これを案件別に一覧化します。

そのうえで、顧客対応の基準を作ります。

  • 返金する案件
  • 値引きを検討する案件
  • 工期調整で対応する案件
  • 再説明が必要な案件
  • 会社として明確に応じられない案件

この分類をせずに、声の大きい顧客から順番に対応すると、不公平感が生まれます。担当者ごとに説明が違えば、さらに不信感が広がります。


最善策

私が最初に優先すべきだと考えるのは、次の対応です。

  • 広告・営業トーク・契約書・見積書・補助金説明・クレーム案件を緊急点検し、事実関係を一覧化する
  • 同時に新規広告を一時停止し、顧客対応基準と社内説明方針を統一する
  • 営業部長の処遇は、初動対応後に判断する

これが最も現実的です。

社長としては、すぐに営業部長を外したくなるかもしれません。現場を守りたい気持ちも理解できます。

しかし、初動で大切なのは「処分」ではなく「止血」です。

  • 新しい被害を止める
  • 顧客対応を統一する
  • 現場の負荷を把握する
  • 社内の責任論をいったん横に置く
  • 事実に基づいて次の判断をする

この順番を間違えると、問題は大きくなります。


なぜ法律だけでは解決できないのか

法律上は、広告表示や営業説明に問題があれば、是正や返金、契約取消しなどが問題になります。

しかし、法律的に正しい対応だけをしても、会社が立ち直るとは限りません。

たとえば、すべてのクレームに強硬に反論すれば、法的には争える案件があるかもしれません。しかし、地域密着型のリフォーム会社では、口コミが命です。

逆に、すべての顧客に一律で返金や値引きをすれば、短期的には沈静化するかもしれません。しかし、粗利が消え、銀行からの信用も落ちます。

また、営業部長をすぐ処分すれば、現場の感情は一時的に収まるかもしれません。しかし、営業部門が崩れ、売上が急落する可能性もあります。

  • 法律上はどうか
  • 経営上はどうか
  • 現場は耐えられるか
  • 顧客はどう受け止めるか
  • 社内に納得感が残るか

この複数の視点を同時に見なければなりません。


実務上のチェックポイント

このようなケースでは、私は次の点を確認します。

1. 広告文言に根拠があるか

「30%オフ」と言うなら、通常価格の根拠が必要です。実態のない価格を基準にしていれば、顧客の不信感は強くなります。

2. 補助金説明が正確か

補助金は条件が複雑です。「使える可能性がある」と「使える」は全く違います。ここが曖昧だと、顧客は裏切られたと感じます。

3. 現場キャパシティを超えていないか

施工管理者の人数、外注職人の稼働、品質確認の体制を超えて受注すれば、必ず遅延や品質低下が起きます。

4. クレーム対応基準があるか

担当営業がその場しのぎで謝る、値引きする、社長に丸投げする。この状態では、会社としての信用が保てません。

5. 社内の感情を放置していないか

現場は営業に怒っている。営業は現場に不満を持っている。社長は営業部長に怒っている。若手社員は社長の手のひら返しに不信感を持っている。

この感情を無視すると、再発防止策は機能しません。


まとめ

売上を伸ばす広告は、会社にとって大切です。

しかし、広告は受注を増やすだけでなく、現場負荷、顧客期待、説明責任、クレーム対応も同時に増やします。

私は、このケースで最初にやるべきことは、営業部長の処分でも、SNSへの反論でもなく、事実確認と対応基準の統一だと考えます。

問題が起きたときほど、社長は感情で動きたくなります。

しかし、感情的に動くと損失が拡大します。

  • 短期的には、広告停止、案件整理、顧客対応の統一
  • 中期的には、現場キャパシティに合わせた受注管理
  • 長期的には、営業評価制度と広告審査フローの見直し

この順番で考えるべきです。

重要なのは、誰が悪いかを急いで決めることではありません。

会社の信用を守り、現場を守り、顧客との関係をこれ以上壊さないことです。

そのうえで、責任と再発防止を冷静に整理する。

私は、それがこの場面での最善の経営判断だと考えます。


免責文

本記事は、中小企業の経営判断を考えるための一般的なケーススタディです。実際の事案では、広告内容、契約書面、営業方法、顧客属性、社内資料、証拠関係などによって判断が異なります。個別案件では、事実関係を丁寧に確認したうえで対応方針を検討する必要があります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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