
広告費・制作費が未払いになったとき、最初にすべきこと|成果未達・損害賠償を主張された場合の債権回収
2026.09.27
「成果が出なかったから払わない」と言われたら
Web制作会社や広告運用会社では、こんな未払いが起こります。
「思ったほど売上が伸びなかった」
「広告運用にミスがあった」
「損害が出たので、制作費や広告費とは相殺する」
しかも厄介なのは、広告代理店側が広告媒体費を立て替えているケースです。
売上が入らないだけではありません。
自社のお金がすでに外へ出ている。
私は、こうした案件では、いきなり「未払い1,860万円を全部払ってください」と請求する前に、債権を分解することが重要だと考えます。
相談事例|広告・制作関連の未払いが1,860万円
あるWeb制作・広告運用会社を想定します。
取引先B社からの未払いは約1,860万円。
内訳は、
- 広告媒体費の立替:約920万円
- 広告運用手数料:約310万円
- Web・LP制作費:約360万円
- インフルエンサー等の実費:約170万円
- その他:約100万円
です。
一方、B社は、
「広告運用のミスで約3,000万円の機会損失が出た」
として支払いを拒否。
さらに、次の大型キャンペーンでも広告費約2,000万円を立て替えてほしいと言っています。
この問題の本質は「1,860万円を回収できるか」ではない
私は、この問題の本質は、
「1,860万円をどう回収するか」だけではない
と考えます。
もっと先に止めなければならないものがあります。
それが、
追加の広告費立替です。
現在1,860万円が未回収。
その状態で、さらに2,000万円の広告費を自社で立て替える。
もし次のキャンペーンもうまくいかなければ、未収金は3,000万円を超える可能性があります。
これは債権回収ではありません。
取引先の広告投資を、自社が実質的に資金提供している状態です。
最初にやるべきことは「広告を止める」ではない
経営者としては、
「払わないなら広告を止める」
と言いたくなるでしょう。
しかし私は、最初に止めるべきなのは広告そのものではなく、
自社資金による広告費の立替
だと考えます。
例えば、今後も運用を続けるなら、
- 広告媒体費は取引先が直接支払う
- 広告費を全額前払いにする
- 一定額を先にデポジットしてもらう
といった形へ変えます。
こうすれば、取引関係を即座に壊さず、自社のキャッシュ流出だけを止めることができます。
未払い1,860万円を一つの数字として見ない
次に重要なのが、債権の分解です。
今回、1,860万円の中には性質の異なる請求が混ざっています。
特に、広告媒体費約920万円と、インフルエンサー等の実費約170万円。
これらは、A社がB社のために第三者へ実際に支払った金額です。
一方、広告運用報酬や制作費については、
- 成果
- 検収
- 修正
- 運用ミス
などの争点があります。
ここを全部まとめて、
「1,860万円対3,000万円」
という争いにしてしまうと、比較的回収しやすい実費まで紛争に巻き込まれます。
争わなくてよい金まで争わない。
これが大切です。
「売上が伸びなかった」と「支払わなくていい」は別
B社は、
「これだけ広告費を使ったのに売上が伸びなかった」
と主張しています。
ここで最初に確認するのは、
何を契約上約束していたのか
です。
広告運用業務を行う契約なのか。
一定の売上達成を保証する契約なのか。
この違いは大きいです。
営業担当者が、
「月商1億円を目標に全力で運用します」
とチャットしていたとしても、それだけで売上保証になるとは限りません。
営業上の目標と、契約上の成果保証は分けて確認する必要があります。
ただし、自社の運用ミスまで全部否定しない
今回、A社には約6時間の広告設定ミスがあります。
余分な広告消化は約38万円。
私は、この事実まで否定するべきではないと考えます。
ミスがあるなら、そこは認める。
そのうえで、
「そのミスによって、本当に3,000万円の損害が発生したのか」
を分けて考えます。
同じ時期には、
- 主力商品の欠品
- 配送遅延
- 競合商品の値下げ
- SNS炎上
も起きています。
売上減少の原因が複数ある以上、単純に、
「予定売上-実際売上=広告会社の損害」
とは考えにくい。
ミスがあることと、相手が主張する損害額が正しいことは別です。
制作費は「検収書がない」で諦めない
LP制作費については、正式な検収書がありません。
しかし、9回修正した後、B社はそのLPを公開し、実際に広告配信へ使っています。
ここは重要です。
私なら、
- 制作契約書
- 検収条件
- 修正履歴
- 公開日
- 広告利用実績
- メールやチャット
を確認します。
「検収書がないからゼロ」でも、
「使っているから必ず満額」でもありません。
契約と実際の利用状況を合わせて整理します。
よくある失敗① サイトやLPをいきなり止める
未払いが続くと、
「払わないならサイトを止める」
という話になりがちです。
しかし、ここは慎重です。
確認すべきなのは、
- 著作権は誰にあるか
- 利用許諾なのか譲渡なのか
- 支払完了が権利移転条件なのか
- サーバー管理権限は誰にあるか
- 利用停止権限が契約上あるか
です。
これを確認せずにサイトを停止し、EC売上まで止めれば、今度はA社側が新しい損害賠償請求を受ける可能性があります。
この問題は、感情的に動くと損失が拡大します。
よくある失敗② 次の案件で取り返そうとする
B社は、
「秋キャンペーンが成功すれば過去分も払える」
と言っています。
この言葉には注意が必要です。
今の未払いを回収するために、次の案件を受ける。
その判断自体が悪いわけではありません。
しかし、次の案件でも自社が広告費を立て替えるのであれば、話は別です。
古い債権を回収するために、新しい債権を作ってはいけません。
私ならこう整理します
新規の広告費立替を止める
↓
1,860万円を債権別に分ける
↓
広告媒体費など第三者実費の証拠を固める
↓
制作費の検収・利用実態を確認する
↓
運用報酬を整理する
↓
設定ミスの影響範囲を確認する
↓
3,000万円の損害主張を原因別に分ける
↓
争いの少ない債権から先に回収する
↓
残った争点だけ交渉する
↓
今後は前払い・直接決済へ変更する
実務上のチェックポイント
- 未払い1,860万円の請求書別内訳
- 広告媒体費の媒体別明細
- 広告会社への支払記録
- 取引先からの広告出稿指示
- 広告予算増額の指示
- インフルエンサー費用の支払資料
- 広告運用契約の業務範囲
- 成果保証条項の有無
- 売上目標に関するメール・チャット
- 制作契約と検収条件
- LPの修正履歴
- 制作物の利用実態
- 著作権・利用許諾条項
- 広告設定ミスの発生時間
- 誤配信額
- 損害3,000万円の計算根拠
- 商品の欠品状況
- 配送遅延
- SNS炎上の影響
- 今後の広告費を前払いにできるか
なぜ法律だけでは解決できないのか
この問題には、債務不履行、損害賠償、相殺、検収、著作権、利用許諾など多くの法律論があります。
しかし、それだけでは会社を守れません。
仮に1,860万円全額の請求が法律上可能でも、その間にさらに2,000万円を立て替えれば、経営上の損失は拡大します。
逆に、未払いに腹を立ててサイトを止めれば、新しい紛争を作るかもしれません。
法律上は請求できるとしても、経営判断としては、
何を止め、何を続け、何から先に回収するか
まで考える必要があります。
まとめ|1,860万円を回収する前に、3,000万円へ増やさない
私は、広告費や制作費が未払いになり、取引先から、
「成果が出なかった」
「損害が出た」
「相殺する」
と言われたとき、すぐ全面対決には進みません。
まず、未払いを分解します。
実費はいくらか。
制作費はいくらか。
運用報酬はいくらか。
本当に自社のミスによる損害はいくらか。
そして、これ以上新しい立替を増やさない。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
1,860万円をどう回収するかより先に、1,860万円を3,000万円にしない。
私は、それが広告制作・広告運用会社の債権回収で最初に守るべき判断だと考えます。
※本記事は、広告制作費、広告運用費、広告媒体費の立替、損害賠償、相殺等について、一般的な経営上の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、契約内容、広告運用実態、検収状況、制作物の権利関係、損害の内容、支払経緯などによって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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