海外代理店が勝手に安売り・過剰広告をしたときの初動対応

2026.06.28

海外代理店が勝手に安売り・過剰広告をしたとき、最初に守るべきものは何か

導入

海外展開を始める中小企業にとって、現地代理店は大きな存在です。

自社だけでは開拓できない百貨店、スーパー、EC、現地消費者との接点を持っている。
言語も商習慣もわかっている。
現地で商品を売ってくれる。

だからこそ、信頼できそうな代理店に出会うと、「まず任せてみよう」と考えたくなります。

しかし、海外代理店に販売を任せた結果、現地で安売りされ、事実と違う広告表現を使われ、賞味期限間近の商品がディスカウント販売されることがあります。

このとき、社長は強い怒りを感じます。

「ブランドを傷つけられた」

「そんな売り方を許した覚えはない」

「すぐ契約解除したい」

そう考えるのは自然です。

しかし私は、この問題の本質は、代理店をすぐ切るかどうかではなく、契約・在庫・広告・販売先・国内への波及を整理し、ブランド被害を最小限にすることだと考えます。

相談事例

ある京都の抹茶菓子メーカーでの話です。

この会社は、抹茶フィナンシェ、抹茶ラングドシャ、冷凍抹茶大福などを製造販売していました。

国内では百貨店や観光土産店で評価され、インバウンド客にも人気が出ていました。

社長は海外展開に強い意欲を持っていました。

「京都ブランドは海外で通用する」

「台湾、香港、シンガポールに広げたい」

「国内の観光需要だけに頼るのは危ない」

そう考えていたのです。

2年前、展示会で台湾の食品輸入代理店T社と出会いました。

T社の代表は日本語が堪能で、社長にこう話しました。

「台湾では抹茶人気が高いです」

「御社の商品は高級ギフトとして売れます」

「百貨店、空港、富裕層向けスーパーに展開できます」

「ブランド価値を大切にして販売します」

社長はこの言葉に期待しました。

そしてT社と代理店契約を結び、台湾向けに抹茶フィナンシェと冷凍抹茶大福を出荷し始めました。

ところが、契約内容はかなり簡単でした。

  • 販売地域は「台湾」とだけ記載
  • 販売価格は「協議のうえ決定」とだけ記載
  • 広告表現の事前承認ルールは曖昧
  • 販売先の制限も明確ではない
  • 賞味期限管理や在庫処分ルールも細かく決めていない

最初の1年は順調でした。

T社は台湾の高級スーパーや百貨店催事で商品を販売し、出荷額は年間4,800万円まで伸びました。

社長は銀行にも、次のように説明していました。

「海外売上が伸びています」

「台湾を足がかりにアジア展開します」

ところが、最近になって問題が出始めました。

台湾在住の日本人顧客から、会社のEC担当に連絡が入ったのです。

「御社の商品が、台湾のディスカウント系ECサイトでかなり安く売られています」

「百貨店向けの高級品だと思っていたので驚きました」

「賞味期限もかなり近いようです」

確認すると、T社は高級スーパーや百貨店だけでなく、現地の安売りECモールにも商品を出していました。

価格は、日本国内の販売価格を大きく下回っていました。

さらに問題だったのは、広告表現です。

現地の商品ページには、次のような中国語表現が使われていました。

「日本皇室御用達級」

「糖質控えめで健康志向」

「子どもにも安心」

「京都老舗の秘伝製法」

「冷凍でも作りたての味を完全再現」

しかし、この会社は皇室御用達ではありません。

糖質控えめ商品として設計しているわけでもありません。

老舗と言えるほどの歴史もありません。

冷凍大福も、解凍状態によって品質に差が出ます。

専務は青ざめました。

「こんな表現、国内なら絶対に使わない」

「現地語だから気づかなかったでは済まない」

「台湾で問題になったら、ブランド全体に傷がつく」

さらに、台湾の消費者がSNSに写真を投稿していました。

「抹茶大福を買ったら、中が乾燥していた」

「解凍方法がわかりにくい」

「賞味期限が近いものを安売りされていた」

「高級京都スイーツと書いてあったのに期待外れ」

投稿には、商品のパッケージ写真と会社名が写っていました。

台湾語と日本語の両方で拡散され、日本国内の食品関係者も反応し始めました。

国内百貨店の担当者からも連絡が来ました。

「台湾のECで御社商品が安く売られていると聞きました」

「国内価格との整合性はどうなっていますか」

「当店のギフト商品としての価値にも影響します」

社長は怒ります。

「そんな売り方をされるとは思っていなかった」

「京都ブランドを傷つけられた」

「すぐ契約解除だ」

しかし、営業部長は慎重でした。

「台湾売上は年間5,000万円近くあります」

「急に切ると、在庫が現地で投げ売りされるかもしれません」

「次の代理店を探すにも時間がかかります」

製造部長も困っていました。

台湾向けに製造予定だった商品が、すでに一部仕込みに入っていたからです。

抹茶原料も手配済み。
台湾向け表示の包材も在庫があります。

急に出荷停止すると、原材料と包材が余ります。

社長、営業、製造、品質、EC、国内取引先、銀行。

全員の不安が一気に重なった場面でした。

この問題の本質

私は、この問題の本質は「T社が悪いかどうか」だけではないと考えます。

もちろん、T社の販売方法や広告表現には問題があります。

しかし、会社側にも反省すべき点があります。

  • 販売先をどこまで認めるのか
  • 価格をどこまで下げてよいのか
  • 賞味期限間近の商品をどう扱うのか
  • 広告表現を誰が確認するのか
  • ブランド名や「京都」の表現をどこまで使わせるのか
  • 現地ECやSNSをどう監視するのか

ここを曖昧にしたまま、海外代理店に任せていたのです。

海外展開では、「信頼できる相手だから任せる」だけでは足りません。

任せる範囲と、任せてはいけない範囲を契約と運用で決める必要があります。

よくある失敗

この場面でよくある失敗は、すぐ契約解除を通知することです。

社長の感情としては当然です。

ブランドを傷つける売り方をした代理店を残したくない。

そう考えるのは自然です。

しかし、現地に在庫が残っている状態で契約解除を急ぐと、T社がさらに安売りを進める可能性があります。

「もう取引が終わるなら、在庫を処分しよう」と考えるかもしれません。

結果として、ブランド毀損が広がる危険があります。

もう一つの失敗は、SNSで先に反論することです。

「当社は安売りを認めていません」

「代理店が勝手に行ったことです」

こう発信したくなる場面です。

しかし、消費者から見れば、商品に表示されているのは自社のブランドです。

「代理店が勝手にやった」と言っても、「ではなぜ管理できていなかったのか」と見られます。

さらに危険なのは、台湾売上を守るために、広告表現だけ少し直して終わらせることです。

価格、販売先、在庫、賞味期限、品質クレームを放置すれば、問題は続きます。

私ならどう考えるか

私なら、まず棚卸しをします。

  • T社との契約書
  • 現地広告表現
  • 販売先
  • 販売価格
  • 現地在庫
  • 賞味期限
  • SNS投稿
  • 品質クレーム
  • 国内百貨店からの問い合わせ
  • 銀行からの質問
  • 製造済み商品
  • 仕込み済み原料
  • 台湾向け包材

これらを同じ表に並べます。

そのうえで、次回出荷を一時停止するか判断します。

問題が是正されないまま追加出荷すれば、さらに在庫が積み上がり、安売りの材料になります。

同時に、T社には是正要求を出します。

  • 問題のある広告表現を削除する
  • 賞味期限間近商品の安売りを停止する
  • 販売先と在庫数を報告する
  • 現地消費者への対応方針を確認する
  • 今後の広告表現は事前承認制にする

ここまで求める必要があります。

国内向けの説明方針も必要です。

百貨店や銀行に対しては、感情的にT社を批判するのではなく、次のように説明できる状態を作るべきです。

「台湾での販売実態を確認している」

「国内ブランド価値に影響が出ないよう是正対応を進めている」

「次回出荷と現地販売方法を見直している」

最善策

私が最初に優先すべきだと考えるのは、次の対応です。

T社との契約書、広告表現、販売先、価格、在庫、賞味期限、SNS投稿、国内取引先への影響を棚卸しする。

同時に、次回出荷の一時停止、現地販売の是正要求、国内向け説明方針を決める。

これが最も現実的です。

契約解除するかどうかは、その後です。

契約を維持するかどうかも、その後です。

まずは、ブランド被害を止める。

現地在庫の投げ売りを止める。

国内取引先への説明力を作る。

製造計画を崩しすぎない。

この順番が必要です。

なぜ法律だけでは解決できないのか

このケースでは、海外代理店契約、商標、広告表現、食品表示、賞味期限管理、契約解除、損害賠償などが問題になります。

法律上の整理は重要です。

しかし、法律だけでは解決できません。

仮にT社に契約違反があるとしても、現地在庫が安売りされ続ければブランドは傷つきます。

仮に契約解除できたとしても、台湾売上がゼロになれば製造計画と資金計画に影響します。

仮にSNSで反論できたとしても、消費者が「この会社は海外販売を管理できていない」と感じれば信用は戻りません。

この問題は、法律問題であると同時に、ブランド管理の問題です。

海外展開では、売れることだけを見てはいけません。

  • どこで売るのか
  • いくらで売るのか
  • どう表現するのか
  • 期限間近の商品をどう扱うのか
  • クレームが出たとき誰が対応するのか

ここまで決めて初めて、ブランドを海外に出せるのです。

実務上のチェックポイント

このようなケースでは、私は次の点を確認します。

1. 代理店契約の内容

販売地域、販売先、価格、広告承認、在庫処分、解除条件がどうなっているかを確認します。

2. 現地広告表現

「皇室御用達級」「健康志向」「老舗」「完全再現」など、根拠のない表現が使われていないかを確認します。

3. 販売先

百貨店や高級スーパーだけでなく、ディスカウントECや安売りチャネルに出ていないかを確認します。

4. 価格

国内価格との整合性が崩れていないか。

百貨店ギフトとしての価値に影響しないかを見ます。

5. 在庫と賞味期限

期限間近の商品がどれだけあるのか。

どのように販売されているのかを確認します。

6. 品質クレーム

乾燥、解凍方法、味の劣化など、商品設計と説明不足のどちらに原因があるのかを見ます。

7. 国内波及

百貨店、EC、SNS、銀行への説明が必要かどうかを確認します。

8. 次の出荷

問題が是正されるまで出荷を止めるべきか。

出荷量を絞るべきか。

別チャネルに切り替えるべきかを判断します。

まとめ

海外代理店が勝手に安売りし、過剰な広告表現を使い、現地で品質クレームが出たとき、社長が怒るのは当然です。

ブランドを大切にしてきた会社ほど、裏切られたように感じます。

しかし私は、このケースで最初にやるべきことは、すぐ契約解除することでも、SNSで反論することでも、売上維持のために見て見ぬふりをすることでもないと考えます。

まず、契約書、広告表現、販売先、価格、在庫、賞味期限、SNS投稿、国内取引先への影響を棚卸しすること。

そして、次回出荷の一時停止、現地販売の是正要求、国内向け説明方針を決めること。

この順番が必要です。

重要なのは、代理店を責めることではありません。

  • ブランドを守れるか
  • 現地在庫の投げ売りを止められるか
  • 国内百貨店の信用を維持できるか
  • 製造計画を現実的に修正できるか

海外展開では、売上より先に管理体制が必要です。

私は、それがこの場面での最善の経営判断だと考えます。

免責文

本記事は、中小企業の海外代理店トラブルにおける経営判断を考えるための一般的なケーススタディです。

実際の事案では、代理店契約の内容、準拠法、現地法規制、広告表現、販売先、在庫状況、賞味期限、品質クレーム、国内取引先への影響などによって判断が異なります。

個別案件では、事実関係を丁寧に確認したうえで対応方針を検討する必要があります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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