破産を避けたい会社で、私は最初に何を止めるか

2026.09.10

「破産だけは避けたい」が、一番危険になるときがあります

会社が苦しくなると、経営者は当然こう考えます。

「何とかあと1か月持たせたい」

「次の入金までつなぎたい」

「破産だけは避けたい」

その気持ちは自然です。

しかし私は、資金繰りが限界に近づいた会社では、破産を避けること自体を最優先にすると、かえって被害が広がることがあると考えます。

特に危険なのが、将来提供するサービスの代金を先に受け取り、そのお金で過去の赤字や既存債務を埋めるケースです。

相談事例

ある学習塾・予備校を想定します。

県内12校舎を運営し、従業員と非常勤講師を合わせると100名を超えます。

生徒は約2,100世帯。

しかし業績は3期連続で悪化し、経理責任者の試算では、追加資金がなければ約5週間後に資金不足となる可能性が高い状態です。

それでも社長には、どうしても会社を止めたくない理由があります。

約450名の高校3年生が、これから受験直前期を迎えるからです。

社長は、

「せめて大学入試が終わる2月までは授業を続けたい」

と考えています。

そのため、新たに「大学受験完成講座」を販売し、約4,000万円の前受金を集めようとしています。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「破産するか、しないか」ではない

と考えます。

本当に見るべきなのは、

「今日の延命によって、明日の被害をどれだけ増やすのか」

です。

4,000万円入れば、確かに数か月は持つかもしれません。

しかしその4,000万円は、単なる運転資金ではありません。

これから授業を提供しなければならない保護者と生徒から預かるお金です。

もし授業を最後まで提供できなければ、新たな被害を生みます。

よくある失敗① 「入金があれば助かる」と考える

資金繰りが苦しくなると、経営者は入金だけを見ます。

「4,000万円入れば助かる」

「夏期講習を売れば乗り切れる」

「年払いを増やせば資金繰りが楽になる」

しかし私は、ここで必ず反対側を見ます。

その入金と同時に、どれだけ新しい義務が発生するのか。

前受金をもらえば、その分だけ授業提供義務が増えます。

延命できたとしても、その間にさらに生徒や保護者を巻き込めば、最終的な損失が大きくなる可能性があります。

よくある失敗② 「払いたい人から払う」

この会社では、社長の母親が会社へ1,200万円を貸しています。

母親は82歳。

社長としては、

「銀行より母親に先に返したい」

と思っています。

気持ちはよく分かります。

しかし私は、資金繰りが限界に近い局面では、誰に恩があるかで支払順序を決めるべきではないと考えます。

人気講師にだけ特別賞与を払う。

親族だけ先に返す。

長年の取引先だから特別扱いする。

こうした判断を積み重ねると、最後に会社全体として公平な整理ができなくなります。

私なら、まず「止めるもの」を決めます

私なら、この会社で最初にやるのは売上を増やすことではありません。

まず、次の支出や取引を止めます。

  • 長期間の新規前受契約
  • 親族への返済
  • 一部社員だけへの例外的な高額支給
  • 通常営業ではない資産処分
  • 経営判断のないまま続ける広告投資

もちろん、すべて機械的に停止すればいいという意味ではありません。

重要なのは、通常運転をやめ、すべての資金移動を出口から逆算して判断する状態へ切り替えることです。

「資金が尽きる日」ではなく「判断期限」を決める

私は、

「あと5週間持つなら、5週間考えましょう」

とは考えません。

資金余力が5週間しかないなら、事業承継の可能性を検討する期間はもっと短くします。

例えば1週間から2週間です。

その間に、同業の教育会社が引き取れる5校舎について、

  • どの校舎か
  • 生徒何人か
  • 講師何人か
  • 正社員何人か
  • 前受金をどうするか
  • 学習記録をどう引き継ぐか
  • いつから授業を切り替えるか

を具体化します。

成立するなら、できるだけ早く移行する。

成立しないなら、資金がゼロになる前に法的整理へ切り替える。

再建を諦める日ではなく、再建を試す最終日を決める。

私は、これが重要だと考えます。

「最後まで営業する」が責任とは限らない

社長は、

「受験生を最後まで面倒を見ることが責任だ」

と考えています。

しかし私は、責任の取り方は一つではないと思います。

自社で2月まで続けることだけが、生徒を守る方法ではありません。

まだ講師も生徒も残っている段階で、別の教育会社へ授業を引き継ぐ。

学習記録も移す。

受験指導を途切れさせない。

これも十分に責任ある対応です。

逆に、会社を残すことにこだわりすぎて、人気講師が辞め、生徒が離れ、最後に突然授業停止になる方が影響は大きくなります。

会社を守ることと、法人を延命することは違います

私は、このケースではここを最も重視します。

会社を守ることと、今の法人を一日でも長く残すことは同じではありません。

守るべきものは、

  • 生徒の受験機会
  • 講師の雇用
  • 学習記録
  • 校舎機能
  • 残っている資金
  • 家族財産への波及を抑えること

です。

法人格を守るためにこれらを失うなら、優先順位が逆転しています。

社員への説明も難しい

会社が危ないことを全部すぐに話せば、一斉退職につながるかもしれません。

しかし何も説明しなければ、給与遅延やSNSの噂から不信感が膨らみます。

私は、まだ決まっていないことを約束するのではなく、

「何を、いつまでに決めるのか」

を説明するべきだと考えます。

例えば、

「現在、事業継続と生徒への影響を最小化するための選択肢を検討している」

「一定の期日までに方針を決める」

「給与や授業運営について変更があれば速やかに説明する」

という形です。

不確定な希望を語るより、確定しているプロセスを示す方が信頼につながります。

法律だけでは解決できない理由

破産手続、特定の債権者への支払い、未払賃金、前受金、事業譲渡、個人情報など、確認すべき法的論点は多くあります。

しかし、この問題は法律だけでは決まりません。

法律上支払えるとしても、経営上その支払いを今するべきとは限りません。

事業譲渡ができても、生徒と講師がついてこなければ意味がありません。

破産手続が可能でも、もっと早く事業承継していれば救えた人がいたかもしれません。

重要なのは、手続の正しさと、被害を最小化する順番を分けて考えることです。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • 今日現在の預金残高
  • 今後8週間の日別資金繰り
  • 未払給与
  • 税金・社会保険料の滞納額
  • 金融機関別借入
  • 個人保証
  • 親族借入
  • 全前受金残高
  • 生徒ごとの未消化授業
  • 返金が発生した場合の金額
  • 校舎別損益
  • 人気講師・キーパーソンの退職意向
  • 引受候補会社の条件
  • 引き継げる生徒数
  • 引き継げる講師数
  • 校舎賃貸借の承継可否
  • 学習記録・個人情報の移行方法
  • 申立てや整理に必要な資金
  • 直近の特別な支払い
  • 事業承継を試す最終期限

私ならこう進めます


新規長期前受金を原則止める

親族返済・例外的支給・通常外資産処分を止める

日繰り・週繰り資金繰りを確定する

前受金・未払給与・税社保・全債権者を一覧化する

引受候補会社との承継条件を短期間で詰める

生徒・講師・学習記録の移行方法を設計する

承継の成立期限を決める

成立すれば移行する

成立しなければ資金を使い切る前に法的整理へ移る

まとめ

私は、破産が現実味を帯びた会社で最初に考えるべきなのは、

「どうすれば破産しないか」ではない

と考えます。

最初に考えるべきなのは、

「これ以上、誰を新たに巻き込まないか」

です。

新しい前受金を取らない。

払いたい相手だけに払わない。

残った現金を使い切らない。

事業承継できる部分を短期間で見極める。

そして成立しないなら、資金も人も資料も残っているうちに次の手続へ移る。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そしてこの局面で守るべき「会社」とは、必ずしも今の法人ではありません。

生徒、社員、取引、記録、残された資産を、できるだけ安全に次へつなぐこと。

私は、それが破産局面における最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における破産、事業譲渡、債権者への支払い、雇用、前受金、個人保証、個人情報その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、資金繰り、債務内容、契約関係、資産状況、雇用状況その他の具体的事情によって異なります。