育休から復職する管理職を外すべきか。

2026.08.26

育児休業から戻る管理職について、こんな悩みが出ることがあります。

「本人は元の役職に戻りたいと言っている。でも、子育てのため残業や夜間対応が難しい。今の管理職をそのまま続けてもらっていいのか」

さらに、その休業中に代行を務めた社員が成果を出していると、問題は一気に複雑になります。

私は、この問題を「復職する人と代行した人のどちらを課長にするか」から考えないことが重要だと考えます。

最初に考えるべきなのは、

「そもそも、この会社にとって課長とは何をする人なのか」

ということです。

相談事例

ある住宅設備・リフォーム会社を想定します。

従業員は約80名。年商は約15億円です。

36歳の営業課長Aさんは、約10か月の育児休業を終え、来月から復職する予定です。

Aさんは休業前、7名の部下を持つ営業課長でした。

営業成績も高く、案件管理、若手育成、クレーム対応の標準化など、組織面でも成果を出していました。

復職前の面談でAさんは、

「フルタイムでは働けます。ただ、保育園のお迎えがあるため、基本的には18時までには帰りたいです。夜間の顧客対応も毎日は難しいです」

と伝えました。

そして、

「以前と同じ課長職で戻りたい」

と希望しています。

ところが、休業中の代行者も成果を出していた

Aさんの休業中、39歳の営業主任Bさんが課長代行を務めました。

Bさんは10か月間、実質的に課長業務を担い、担当チームの売上も伸ばしました。

顧客への夜間対応にも積極的で、

「何時でも電話してください」

という営業スタイルです。

営業部長からの評価も高まりました。

そのため社内では、

「Aさんが戻ったらBさんはどうなるのか」

という問題が出てきます。

Bさん自身も、

「10か月間責任を負ったのに、復職した瞬間に主任へ戻るのは納得できない」

と感じています。

この問題の本質

私は、この問題の本質はAさんとBさんの人事争いではないと考えます。

本当の問題は、

「長時間働ける人、夜でも電話に出られる人を管理職として評価する組織になっていないか」

という点です。

もし課長の条件が、

  • 夜間でも顧客電話に出る
  • 休日も緊急対応する
  • 部下の仕事を最後は自分で引き取る
  • 長時間働ける

なのであれば、育児中の社員だけでなく、介護をする社員、病気を抱えた社員、家庭事情のある社員も管理職になりにくくなります。

これはAさんだけの問題ではありません。

よくある失敗

よくあるのが、

「給与は下げないから、役職だけ外せば問題ないだろう」

という考え方です。

私は、これは非常に危険な整理だと思います。

役職を外すということは、給与だけの問題ではありません。

本人にとっては、

  • 権限
  • 評価
  • 昇進可能性
  • 社内での立場
  • 今後のキャリア

が変わる可能性があります。

特に、育児休業から戻ったタイミングで役職を外せば、本人だけでなく周囲にも強いメッセージを与えます。

「育休を取るとキャリアが止まる会社」

と受け取られる可能性があります。

もう一つの失敗は、Bさんを雑に戻すこと

逆に、Aさんを元の課長職へ戻せばすべて解決するわけでもありません。

Bさんは約10か月間、会社から課長代行を任され、成果も出しています。

ここで、

「Aさんが戻るから、明日からあなたは元の主任です」

だけで終われば、Bさんは、

「自分は代用品だったのか」

と感じるでしょう。

だから私は、Aさんの復職問題とBさんの評価問題を分けます。

私ならどう考えるか

私なら、まず「課長の仕事」を分解します。

例えば、

  • 部下の評価
  • 案件進捗管理
  • 売上管理
  • 見積承認
  • 若手育成
  • クレーム判断
  • 顧客との重要交渉
  • 夜間電話対応
  • 休日の緊急対応

を書き出します。

そのうえで、

「この中で、本当に課長本人でなければできない仕事は何か」

を確認します。

夜間の電話を取ることが、本当に管理職の本質なのでしょうか。

夜間受付、当番制、エスカレーションルール、複数管理職での分担などで切り離せるかもしれません。

人に仕事を合わせるだけでなく、仕事の設計を変える

この問題では、

「Aさんが夜まで働けない」

ことだけを見ると、Aさん個人の制約に見えます。

しかし私は、

「なぜ課長が毎晩顧客電話を受けないと営業部が回らないのか」

と考えます。

ここに組織上の問題が隠れています。

特定の管理職の長時間労働で売上を守っているなら、それは持続可能な営業体制とは言えません。

Bさんの評価はBさんとして行う

Bさんについては、Aさんとの比較ではなく、10か月間の実績そのものを評価します。

売上を伸ばした。

顧客関係を築いた。

管理職として一定の成果を出した。

それなら、その成果に対して、

  • 正式な昇格
  • 別チームの責任者
  • 法人営業責任者
  • 営業戦略ポスト

などが本当に必要なのか検討します。

もちろん、辞められたくないから不要な役職を作るのは違います。

ただ、会社の成長に必要なポストがあるなら、AさんとBさんを一つの椅子で競わせる必要はありません。

実は、第三者が一番よく見ている

このケースで私が気になるのは、AさんでもBさんでもない社員です。

妻の出産を控えた若手男性社員Cさんが、

「今育休を取ったら評価が下がるのではないか」

と心配しています。

ここが重要です。

会社の制度がどれだけ立派でも、社員が見るのは、

「制度を使った人が、その後どう扱われたか」

です。

Aさんへの対応一つで、今後の男性育休、女性管理職、採用、定着にまで影響する可能性があります。

法律だけでは解決できない理由

育児休業を取得したことを理由とする不利益な取扱いには、当然注意が必要です。

しかし、法律だけ確認して、

「ではAさんを元に戻せば終わり」

と考えるのも違います。

Bさんのキャリアは残ります。

夜間対応に依存した営業体制も残ります。

Cさんが育休をためらう職場風土も残ります。

私は、この問題は人事制度と営業の仕組みを一緒に見直す問題だと考えます。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の点を確認します。

  • Aさんの育休前の正式な役職と職務
  • 復職時の処遇について会社が何と説明したか
  • Aさんが現在可能な勤務時間
  • 課長職の正式な評価基準
  • 夜間対応が本当に課長の必須業務なのか
  • 夜間の問い合わせ件数
  • 顧客が本当に即時対応を必要としている範囲
  • Bさんに課長代行を任せた際の説明
  • Bさんの10か月間の実績
  • Bさん本人の今後の希望
  • AさんとBさんを別の管理職ポストで活かせるか
  • 他の社員の育休取得状況
  • 男性社員が制度利用をためらっていないか
  • 管理職の長時間労働が常態化していないか
  • 夜間・休日対応を仕組み化できないか

最善策

私なら、次の順番で整理します。

育休前のAさんの地位と会社の説明を確認する

課長の必須業務を定義し直す

Aさんの復職配置を判断する

Bさんの10か月間の成果を別に評価する

夜間・休日対応を組織で分担する

今後の育休取得者が不安を感じない制度運用に変える

重要なのは、誰が勝つかではありません。

育休を取った人のキャリアが壊れず、代行した人の努力も報われる組織にできるか

です。

まとめ

育児休業から戻る管理職について、

「残業ができないなら役職を外すべきではないか」

と考えたくなる場面はあります。

しかし私は、その前に、

「その役職は、本当に夜まで働ける人でなければ務まらないのか」

を確認します。

そして、Aさんの復職問題とBさんの評価問題を分けます。

Aさんを守るためにBさんを犠牲にする必要はありません。

Bさんを引き留めるために、Aさんのキャリアを育休取得の代償にする必要もありません。

私は、この問題の本質は、

「人を選ぶこと」ではなく、「役割と仕組みを設計し直すこと」

だと考えます。

それが、このケースの最初の一手です。


※本記事は一般的な経営判断の考え方を整理したものであり、個別案件における法務・労務上の判断を示すものではありません。実際の復職、配置、役職変更、育児休業等の取扱いは、就業規則、職務内容、本人への説明経緯、勤務条件その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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