
商品を真似されたかもしれないとき、最初に守るべきものは何か
2026.06.22
導入
中小企業にとって、主力商品は単なる売上商品ではありません。
何年もかけて開発し、取引先に提案し、店頭で育て、少しずつ口コミを積み上げてきた「会社の顔」です。
だからこそ、競合会社から似た商品が出たとき、経営者が強い怒りを感じるのは自然です。
「真似された」
「元社員が情報を持ち出したのではないか」
「このままでは販路を奪われる」
そう感じる場面では、すぐに抗議したくなります。
しかし私は、この問題の本質は、相手をすぐ訴えることではなく、まず証拠を守り、事実を分け、会社として冷静に動ける状態を作ることだと考えます。
相談事例
ある地域食品メーカーでの話です。
この会社は、地元味噌を使った万能だれやドレッシング、鍋つゆを製造販売していました。
中でも、3年前に発売した「山里味噌だれ」は主力商品です。
白地に藍色の筆文字。
山の稜線をイメージしたイラスト。
木製スプーンに味噌だれを乗せた写真。
落ち着いたパッケージが評価され、地元スーパーだけでなく、首都圏の食品セレクトショップにも少しずつ広がっていました。
ところが、営業責任者が都内の食品展示会で、競合会社E社の商品を見つけます。
商品名は「信州蔵だれ」。
パッケージは、白地に濃紺の筆文字。
山の稜線風のイラスト。
木製スプーンに味噌だれを乗せた写真。
瓶の形状も似ていました。
販促POPには、次のように書かれていました。
「焼く・和える・かける、これ一本」
「地元味噌の深いコク」
「野菜にも肉にも合う万能味噌だれ」
自社の商品コンセプトや販促文句とかなり近い印象です。
営業責任者はすぐ写真を撮り、社長に報告しました。
社長は激怒します。
社長:
「これは完全にうちの真似だ」社長:
「ここまで似せるなんて許せない」社長:
「すぐ販売停止を求める」社長:
「展示会で広がる前に潰さないといけない」
問題をさらに複雑にしたのは、E社に元社員が転職していたことです。
その元社員は、以前この会社で営業企画を担当していました。
「山里味噌だれ」の販促資料、展示会用提案書、販売先リスト、原価表、商品改良メモにも関わっていました。
営業責任者は言います。
営業責任者:
「あの人なら、うちの資料を持っていてもおかしくない」営業責任者:
「販売先リストも知っていた」営業責任者:
「E社の商品説明の言い回しが、うちの提案書と似すぎている」
一方で、専務は冷静でした。
自社の情報管理は万全ではありませんでした。
クラウドストレージの閲覧権限は退職時に削除していたものの、在職中に資料をダウンロードできる状態でした。
秘密保持誓約書はあるものの、営業秘密の範囲は曖昧でした。
パッケージデザインや商品名についても、商標登録や意匠登録は十分に進んでいませんでした。
さらに、取引先からも問い合わせが入り始めます。
取引先:
「展示会で似た商品を見ました。御社の商品と関係があるのですか」取引先:
「両方置くと、お客様が混乱するかもしれません」取引先:
「E社の方が少し安い見積もりを出してきています」
SNSでも、次のような投稿が出始めました。
「これ、前からある山里味噌だれに似てない?」
「どっちが本家?」
「パッケージ似すぎでは?」
社長は、すぐに内容証明を送るつもりでした。
元社員にも直接電話して問いただすと言っています。
しかし、専務は不安を感じていました。
専務:
「証拠が弱いまま騒ぐと、逆に危ない」専務:
「こちらが先に“パクリ”と言いすぎると、名誉毀損や営業妨害と言われるかもしれない」専務:
「本当に似ている部分と、一般的な表現にすぎない部分を分けないといけない」
まさに、感情と法的リスク、ブランド防衛、取引先対応が同時に絡む場面です。
この問題の本質
私は、この問題の本質は「真似されたかどうか」だけではないと考えます。
もちろん、商品名、パッケージ、販促文句、販売先が似ているなら、深刻な問題です。
元社員による情報持ち出しがあったなら、さらに重大です。
しかし、最初に必要なのは怒ることではありません。
事実を分けることです。
- 何が似ているのか
- 何が似ていないのか
- 自社が先に使っていた証拠はあるのか
- その表現は自社の商品表示として認識されていたのか
- 元社員が本当に資料へアクセスし、持ち出した形跡はあるのか
- 自社はその情報を秘密として管理していたのか
ここを整理しないまま動くと、会社は不利になります。
感情としては「完全に真似された」と思っていても、法的に主張できる部分と、一般的な表現にとどまる部分は分けて考える必要があります。
よくある失敗
この場面でよくある失敗は、すぐ内容証明を送ることです。
「販売を停止しろ」
「損害賠償を請求する」
「元社員が情報を持ち出したはずだ」
こうした強い姿勢を示したくなる気持ちはわかります。
しかし、証拠保全の前に相手へ通知すると、相手に反論準備や証拠整理の時間を与えることになります。
もし元社員が本当に関与していた場合でも、先に連絡すれば、関係者間で口裏合わせが起きるかもしれません。
次に危険なのは、SNSで怒りを発信することです。
「当社商品に酷似した商品が出ています」
「元社員が関与している可能性があります」
こうした発信は、社長としては自社を守るつもりかもしれません。
しかし、事実が固まっていない段階では、相手方から名誉毀損、信用毀損、営業妨害だと主張される可能性があります。
さらに、取引先からも「揉めている商品は扱いにくい」と見られるかもしれません。
もう一つの失敗は、急いでパッケージを変えることです。
差別化は大切です。
しかし、証拠を整理する前に変更してしまうと、後から比較しにくくなります。
ラベル、瓶、化粧箱の在庫も無駄になります。
私ならどう考えるか
私なら、まず証拠を保全します。
- E社商品の現物を入手する
- 展示会資料、写真、POP、価格、販売先情報を保存する
- SNS投稿をスクリーンショットで残す
同時に、自社側の資料も整理します。
- 商品開発資料
- パッケージ制作履歴
- 外部デザイナーとのやり取り
- 販促文句を使い始めた時期
- 販売開始日
- 取引先への提案資料
- メディア掲載や販売実績
これらは、自社が先に商品を育ててきたことを示す重要な材料になります。
そして、元社員に関する証拠も確認します。
- クラウドストレージのアクセスログ
- ダウンロード履歴
- メール転送履歴
- 退職時のPC返却記録
- 秘密保持誓約書
- 営業資料や販売先リストが、どのように管理されていたか
ここを確認する前に、元社員へ直接連絡すべきではありません。
最善策
私が最初に優先すべきだと考えるのは、次の対応です。
E社商品の現物、展示会資料、写真、販売先、価格、SNS投稿を保全する。
自社資料の作成履歴、販促資料、販売開始時期、元社員のアクセスログを保全・比較する。
同時に、取引先説明と社長の対外発信ルールを決める。
これが最も現実的です。
この段階で大切なのは、相手を攻撃することではありません。
会社として、主張できる材料を集めることです。
そして、社長が感情的に発信しないようにすることです。
取引先には、相手を非難するのではなく、次の程度に抑えて説明する方が安全です。
「当社商品との関係はありません」
「現在、類似商品の状況を確認しています」
「当社商品は従来どおり継続供給します」
なぜ法律だけでは解決できないのか
このケースでは、不正競争防止法、商標法、意匠法、著作権法、営業秘密、秘密保持義務などが関係します。
しかし、法律だけでは解決できません。
仮に法的に主張できる余地があっても、取引先が混乱すれば棚を失う可能性があります。
SNSで騒ぎが広がれば、消費者は商品そのものより「揉めている会社」という印象を持つかもしれません。
また、パッケージ変更をすれば、在庫や販促物の損失が出ます。
元社員への怒りが強すぎると、社内も感情的になります。
重要なのは、勝てるかどうかだけではありません。
- ブランドを守れるか
- 取引先を安心させられるか
- 社長の発信をコントロールできるか
- 証拠を失わずに次の手を打てるか
ここまで含めて、経営判断として考える必要があります。
実務上のチェックポイント
このようなケースでは、私は次の点を確認します。
1. 自社商品の販売開始日
いつから販売し、どの地域で、どれくらい売れていたのか。
2. パッケージ制作の履歴
誰がデザインし、どの時期に完成し、どの資料が残っているのか。
3. 商標や意匠の状況
商品名、ロゴ、ラベル、瓶、パッケージ全体について、登録や出願があるか。
4. E社商品の証拠
現物、写真、POP、価格、販売先、販売開始時期を確認します。
5. 元社員の関与
在職中にどの資料へアクセスできたのか。
退職前後に不自然なダウンロードや転送がないか。
6. 情報管理
販売先リスト、原価表、商品改良メモが秘密として管理されていたか。
7. 取引先対応
どの取引先が不安を持っているのか。
どのような説明をすれば安心してもらえるのか。
8. SNS対応
誰が発信するのか。
何を言ってよいのか。
何を言ってはいけないのか。
ここを決めないまま社長が投稿すると、問題は一気に広がります。
まとめ
商品を真似されたかもしれないとき、経営者が怒るのは当然です。
主力商品であればなおさらです。
しかし、感情のまま動くと、証拠を失い、取引先を不安にさせ、逆に相手から反撃される危険があります。
私は、このケースで最初にやるべきことは、内容証明を送ることでも、SNSで訴えることでも、急いでパッケージを変えることでもないと考えます。
まず、E社商品の証拠を保全すること。
自社商品の開発・販売・販促の履歴を整理すること。
元社員のアクセスログや資料管理状況を確認すること。
そして、取引先説明と社長の対外発信ルールを決めること。
この順番が必要です。
重要なのは、誰が悪いかを先に叫ぶことではありません。
会社のブランド、証拠、取引先の信頼を守れるかです。
私は、それがこの場面での最善の経営判断だと考えます。
免責文
本記事は、中小企業の経営判断を考えるための一般的なケーススタディです。
実際の事案では、商品名、パッケージ、販促文句、登録状況、販売実績、営業秘密管理、元社員の関与、証拠の有無、取引先への影響などによって判断が異なります。
個別案件では、事実関係を丁寧に確認したうえで対応方針を検討する必要があります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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