
「解約できないサブスク」と言われたとき、最初に守るべきものは何か
2026.06.17
導入
サブスク型のビジネスは、中小企業にとって魅力的です。
毎月の継続課金があれば、売上の見通しが立ちやすくなります。広告を強化して新規顧客を増やし、一定数が継続してくれれば、事業は一気に成長します。
しかし、サブスクは便利な反面、顧客が「思っていた条件と違う」「解約しにくい」「知らないうちに次回分が届いた」と感じた瞬間、強い不信感につながります。
私は、この問題の本質は、解約クレームそのものではなく、広告、購入画面、解約導線、カスタマーサポート、物流処理がバラバラに運用されていたことだと考えます。
相談事例
ある冷凍惣菜のEC・サブスク販売会社での話です。
この会社は、管理栄養士監修の冷凍弁当や冷凍惣菜を、定期配送で販売していました。
共働き世帯や健康志向の方に人気があり、売上の多くは定期購入によるものでした。
半年前、会社は広告キャンペーンを強化しました。
広告には、次のような表現が並んでいました。
「初回980円」
「いつでも解約OK」
「管理栄養士監修」
「忙しい人でも健康的な食生活へ」
「食事を変えて体型管理をサポート」
インフルエンサーにも商品紹介を依頼しました。
投稿の中には、次のような表現もありました。
「これで2週間で体が軽くなった」
「外食をやめたら自然にスッキリ」
「ダイエット中の人に本当におすすめ」
最初は、かなり効果が出ました。
新規申込数は大きく増え、売上も伸びました。
社長は、マーケティング責任者を高く評価しました。
ところが、3か月ほど経つと、クレームが増え始めました。
顧客:
「初回980円だと思ったら、2回目以降が高かったんです」顧客:
「いつでも解約OKと書いてあったのに、次回発送の7日前までに手続きが必要だと言われました」顧客:
「解約ページがわかりにくいです」顧客:
「電話がつながりません」顧客:
「チャットで解約したいと言ったのに、正式な解約になっていませんでした」
さらに、ある顧客がSNSに投稿しました。
「冷凍弁当のサブスク、初回安いと思ったら解約が面倒すぎた。『いつでも解約OK』って書いてるのに実質引き止め。こういう売り方、やめてほしい」
この投稿が拡散され、同じような体験談が集まり始めました。
カスタマーサポートの現場は疲弊しました。
問い合わせ件数は通常の3倍。
電話口で怒鳴られることも増えました。
カスタマーサポート責任者は社長に言いました。
カスタマーサポート責任者:
「現場は限界です。解約条件をもっとわかりやすくしないと、毎日怒られ続けます」
しかし、マーケティング責任者は反論します。
マーケティング責任者:
「解約条件はページに書いてあります」マーケティング責任者:
「解約導線を目立たせすぎると継続率が落ちます」マーケティング責任者:
「広告表現を弱めるとCPAが悪化します」
物流側からも問題が出てきました。
解約処理が外部倉庫に反映される前に、次回分が出荷されてしまうケースがあったのです。
その結果、次のような二次クレームが増えました。
顧客:
「解約したのに届きました」顧客:
「受け取っていないのに請求されました」顧客:
「冷凍品だから返品できないと言われました」
社長は焦ります。
売上の約65%は定期購入です。
解約導線を改善すれば、短期的には売上が落ちるかもしれません。
しかし、SNSで「解約できない冷凍弁当」と広がれば、ブランドそのものが傷つきます。
この問題の本質
私は、この問題の本質は「一部の顧客が騒いでいる」という話ではないと考えます。
たしかに、すべての投稿が正確とは限りません。
顧客側の確認不足が含まれている場合もあるでしょう。
しかし、複数の顧客から同じような不満が出ている場合、会社側の仕組みに問題がある可能性を疑うべきです。
特に重要なのは、次の4つです。
- 広告で期待値を上げすぎていないか
- 購入画面で条件が十分に伝わっていたか
- 解約導線がわかりやすかったか
- 解約処理と出荷停止が連動していたか
このどれか一つでも崩れると、顧客は「だまされた」と感じます。
サブスクでは、顧客が自分の意思で継続していると感じられることが重要です。
「解約しにくいから売上が残っている」という状態は、短期的には数字を作れても、長期的には信用を失います。
よくある失敗
このような場面でよくある失敗は、SNSにすぐ反論することです。
「解約条件は明記しています」
「誤解です」
「事実と異なる投稿です」
会社として言いたくなる気持ちはわかります。
しかし、投稿内容に一部でも事実が含まれている場合、反論は逆効果になります。
顧客からは「反省していない会社」と見られます。
次に危険なのは、一律返金で火消しをしようとすることです。
返金自体が必要なケースはあります。
しかし、原因を整理せずに返金だけを先行すると、返金対象が広がりすぎます。
また、広告や解約導線を直さなければ、新しいクレームがまた発生します。
もう一つの失敗は、マーケティング責任者だけを悪者にすることです。
広告を出したのはマーケティング部門かもしれません。
しかし、社長は売上増加を評価していました。
CS体制も、物流連携も、購入画面の設計も、会社全体の問題です。
誰か一人を処分しても、仕組みを直さなければ再発します。
私ならどう考えるか
私なら、まず広告、LP、購入画面、解約導線、インフルエンサー投稿、CS対応履歴、出荷処理を緊急点検します。
そして、問題のある新規広告は一時停止します。
ここで大切なのは、売上を止めることではありません。
これ以上、誤解や不満を生む流入を止めることです。
同時に、解約、返金、出荷停止の基準を統一します。
たとえば、次のような基準です。
- チャットで解約意思が示された場合、正式解約として扱うのか
- 出荷準備後の解約はどう扱うのか
- 解約処理済みなのに発送された場合、請求をどうするのか
- 冷凍品で返品不可の場合でも、会社側ミスなら返金するのか
こうした基準が曖昧だと、担当者ごとに対応が変わります。
すると、さらに不満が広がります。
まず社内の判断をそろえることが必要です。
最善策
私が最初に優先すべきだと考えるのは、次の対応です。
広告、LP、購入画面、解約導線、インフルエンサー投稿、CS対応履歴、出荷処理を緊急点検する。
問題のある新規広告を一時停止する。
同時に、解約・返金・出荷停止の基準を統一する。
これが最も現実的です。
解約導線を改善することも重要です。
返金対応も必要です。
SNS対応も無視はできません。
しかし、それらをバラバラに行うと、問題は収まりません。
広告で誤解を生み、購入画面で条件が伝わらず、解約ページがわかりにくく、出荷停止も間に合わない。
この構造を止めることが先です。
なぜ法律だけでは解決できないのか
法律上は、特定商取引法、景品表示法、食品表示法、消費者契約法、インフルエンサー投稿の広告表示などが問題になります。
しかし、法律だけを見ていても、この問題は解決しません。
たとえば、解約条件を小さくページの下部に書いていたとします。
形式的には表示していたとしても、顧客が自然に理解できる状態でなければ、不満は残ります。
また、広告表現が法的にギリギリ許されるとしても、顧客が「ダイエット効果がある」と強く期待して購入していれば、期待とのズレがクレームになります。
大切なのは、法律上セーフかどうかだけではありません。
- 顧客が納得して申し込めるか
- 解約したいときに迷わず手続きできるか
- CSが無理なく説明できるか
- 物流が正しく止まるか
ここまで含めて、経営判断として見る必要があります。
実務上のチェックポイント
このようなケースでは、私は次の点を確認します。
1. 初回価格の表示
「初回980円」の近くに、2回目以降の価格や配送頻度が明確に表示されているかを確認します。
2. 解約条件の表示
「いつでも解約OK」の近くに、次回発送7日前までという条件が表示されているかを確認します。
3. 解約導線
マイページから何クリックで解約できるのか。
電話だけにしていないか。
チャットで解約意思を示した場合、どう処理しているのか。
4. 出荷停止のタイミング
解約処理が完了しても、外部倉庫にデータが反映される前に発送されていないかを確認します。
5. インフルエンサー投稿
広告であることが明確か。
健康効果やダイエット効果を強く連想させる表現がないか。
6. CS現場
電話がつながらない時間帯はどこか。
怒鳴られたときの対応ルールはあるか。
返金基準が統一されているか。
この確認をせずに、SNSだけを見て対応すると、問題の根を見誤ります。
まとめ
サブスクビジネスで大切なのは、解約しにくくすることではありません。
納得して申し込み、納得して継続してもらうことです。
私は、このケースで最初にやるべきことは、SNSへの反論でも、一律返金でも、担当者の処分でもないと考えます。
広告、購入画面、解約導線、CS、物流を一体で点検すること。
問題のある新規広告を止めること。
解約・返金・出荷停止の基準を統一すること。
この順番が必要です。
短期的には、売上が落ちるかもしれません。
しかし、解約しにくさで売上を維持するモデルは、どこかで限界が来ます。
重要なのは、顧客を逃がさないことではありません。
顧客が安心して選び、安心して続け、必要なときに安心してやめられる状態を作ることです。
私は、それがこの場面での最善の経営判断だと考えます。
免責文
本記事は、中小企業の経営判断を考えるための一般的なケーススタディです。
実際の事案では、広告表示、購入画面、契約条件、解約導線、CS対応履歴、出荷処理、食品表示、インフルエンサー投稿の内容などによって判断が異なります。
個別案件では、事実関係を丁寧に確認したうえで対応方針を検討する必要があります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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