
経営者保証を付ける前に、私は投資そのものを疑う
2026.09.13
「自分が保証すれば借りられる」は、投資判断の根拠ではありません
大型案件が舞い込み、設備投資をすれば売上が大きく伸びる。
ただし、そのためには多額の借入が必要。
銀行からは、
「社長個人の保証を付けてください」
と言われた。
こういう場面で、決断の速い経営者ほど、
「自分が保証すれば済むなら、やろう」
と考えがちです。
私は、この考え方には注意が必要だと思います。
なぜなら、経営者保証を付けることと、その投資が会社にとって合理的であることは、全く別の問題だからです。
相談事例
ある精密金属部品メーカーを想定します。
年商は約14億円。
営業利益は約8,600万円。
財務内容も悪くありません。
過去には大口顧客の発注停止で経営危機を経験しましたが、その後は顧客分散、内部留保、会社と社長個人の資金分離、金融機関への情報開示を進めてきました。
その結果、現在の借入の多くは経営者保証なしです。
そこへ、大手取引先から年間4億円から5億円規模の新規案件が持ち込まれました。
魅力的な案件です。
ただし、受注するには約2億4,000万円の設備投資が必要。
自己資金6,000万円、残り1億8,000万円を借入で賄う計画です。
メイン銀行は融資に前向きでした。
ただし条件として、社長の個人保証を求めました。
この問題の本質
私は、この問題の本質は、
「保証を付けるべきか、付けないべきか」ではない
と考えます。
先に考えるべきなのは、
- この大型受注は本当にどこまで確実なのか
- 発注量が半分になっても投資は成立するのか
- 顧客依存度が50%になっても耐えられるのか
- 設備を動かす人材を確保できるのか
- 設備以外の固定費増加を含めても利益が残るのか
- 計画が外れたとき、次の一手を打てる資金余力が残るのか
です。
保証は、その後の話です。
よくある失敗① 社長の覚悟で事業リスクを消したつもりになる
経営者からすると、
「銀行が不安なら、自分が保証する」
というのは責任感のある判断に見えます。
しかし、社長が保証したからといって、取引先の発注数量が保証されるわけではありません。
設備の稼働率が上がるわけでもありません。
必要な人材を採用できるわけでもありません。
売上予測が外れたときに利益が出るわけでもありません。
個人保証で埋められるのは金融機関側の信用リスクの一部であって、事業リスクそのものではありません。
売上5億円より、固定費が残ることを見る
この案件では、計画どおりなら会社の売上は14億円台から19億円前後まで伸びます。
非常に魅力的です。
しかし、新しく抱えるのは売上だけではありません。
設備投資。
借入返済。
減価償却。
新規採用。
教育費。
夜勤体制。
品質管理人員。
これらは、取引先の発注が減っても残ります。
私は大型投資を見るとき、
「売上がいくら増えるか」より、「売上が来なかったときに何が残るか」
を重視します。
「大手企業だから大丈夫」は危険です
大手取引先との大型案件では、
「あの会社なら大丈夫」
という安心感が生まれます。
しかし問題は、その大手企業が倒産するかどうかではありません。
市場が悪化したときに発注量を減らすかどうかです。
取引先にとって発注削減は普通の経営判断です。
しかし設備を新設した側には、借入も人件費も残ります。
ここにリスクの非対称があります。
だから私は、年間5億円という数字だけでなく、
「最低発注数量はあるのか」
「需要予測はどこまで共有されるのか」
「減産時の扱いはどうなるのか」
まで確認します。
顧客依存度50%をどう考えるか
今回の取引先比率は、投資後に約50%まで上がる可能性があります。
売上が増えるのは良いことです。
しかし、依存度も同時に上がります。
売上19億円の会社になっても、その半分を1社に依存するのであれば、会社のリスク構造は大きく変わります。
私は、
成長率と顧客集中度を必ずセットで見る
ようにします。
成長しているから安全になるとは限りません。
場合によっては、会社が大きくなりながら、経営の自由度は小さくなります。
最初に作るのは「成功シナリオ」ではなく「外れたシナリオ」です
計画では4年で投資回収できる。
それだけなら、投資したくなります。
しかし私は、
100%稼働。
80%稼働。
60%稼働。
50%稼働。
それぞれで損益を作ります。
さらに、
「新規案件が半分になり、既存売上も10%落ちたらどうなるか」
まで見ます。
重要なのは、
計画どおりなら儲かるかではなく、計画が外れても会社が壊れないか
です。
設備を買えば作れるわけではない
今回、製造部門から、
「設備より、人を確保できるかの方が心配だ」
という意見が出ています。
私は、この発言を非常に重く見ます。
営業から見ると、5億円の受注です。
製造から見ると、
- オペレーター5~7名
- 品質管理2名
- 夜勤体制
- 教育期間
という話です。
設備投資だけを決めても、人が採れなければ売上にはなりません。
だから私は、設備投資の稟議に、採用可能性まで入れます。
保証付き低金利と、無保証高金利をどう比べるか
メイン銀行は低い金利ですが、経営者保証を求めています。
別の金融機関は、多少金利が高い一方で、無保証を検討できると言っています。
ここで、
「0.5%も高いなら保証した方が得だ」
と単純に決めるべきではありません。
比較すべきなのは金利だけではないからです。
保証の有無。
担保。
情報開示条件。
追加融資のしやすさ。
財務制約。
手数料。
将来の保証解除条件。
こうしたものを含めて、総コストで比較します。
経営者保証にも価格があります。
金利表には書かれていませんが、家族や個人資産に与えるリスクというコストがあります。
「保証を付けない」が目的になってもいけない
一方で、私は経営者保証を絶対悪とも考えません。
十分にリスクを分析した結果、
保証付き融資の方が条件も柔軟で、総合的に会社へメリットがある。
そして経営者本人もそのリスクを理解している。
そうであれば、保証を選択すること自体はあり得ます。
重要なのは、
「保証する覚悟があるから投資する」のではなく、「投資する合理性があるから、その資金調達方法として保証も比較する」
という順番です。
家族の問題も無視できません
この社長は過去に経営危機を経験しています。
妻は、
「もう家族まで会社のリスクに入れないでほしい」
と考えています。
ここで社長が、
「会社のことは社長の自分が決める」
とだけ言えば、会社の投資判断とは別に、家庭の問題が残ります。
以前は無保証融資を増やす方向へ会社を変えてきた。
それを今回だけ変えるのであれば、
なぜ今回は例外なのか
を説明できなければなりません。
法律だけでは解決できない理由
経営者保証に関するルールや金融機関側の説明責任は重要です。
しかし、法律や制度を知るだけでは今回の投資判断は決まりません。
無保証で借りられたとしても、投資自体が悪ければ会社は苦しくなります。
逆に、保証付きであっても、十分な余力を持つ投資なら合理的な場合もあります。
経営者保証問題は、金融の問題であると同時に、
設備投資、顧客集中、採用、家族、経営者個人のリスクを同時に考える問題
です。
実務上のチェックポイント
- 新規案件の最低発注数量
- 発注内示の拘束力
- 需要予測の精度
- 設備の他社転用可能性
- 中古売却価値
- 50%・60%・80%稼働時の損益
- 既存売上減少時の影響
- 投資後の顧客集中度
- 採用予定人数
- 採用可能性と教育期間
- 新規固定費
- 自己資金投入後の現預金
- 既存借入と新規借入の合算返済額
- 銀行が保証を求める具体的理由
- 将来の保証解除条件
- 保証付き融資と無保証融資の総コスト
- 担保条件
- 追加融資余力
- 計画未達時の撤退基準
私ならこう考えます
大型受注の確度を確認する
↓
計画未達シナリオを作る
↓
人員確保を含めて投資額を再計算する
↓
顧客依存度を許容できるか判断する
↓
取引先とのリスク分担を交渉する
↓
銀行が保証を求める理由を確認する
↓
保証解除条件を確認する
↓
無保証融資を含めて総コストを比較する
↓
保証範囲や解除条件も交渉する
↓
最後に投資の実行を決める
まとめ
私は、経営者保証を求められたとき、最初に、
「保証するか、しないか」
とは考えません。
最初に考えるのは、
「この投資は、保証がなくても本当に実行したい投資なのか」
です。
経営者保証を付ければ、お金は借りやすくなるかもしれません。
しかし、保証は売上を保証しません。
人材も採用してくれません。
取引先の発注量も守ってくれません。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
そして今回守るべきものは、目の前の5億円の売上だけではありません。
計画が外れても、会社が次の一手を打てる余力です。
私は、そこまで確認したうえで初めて、経営者保証を付けるかどうかを判断します。
※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における経営者保証、設備投資、融資契約、担保設定、取引契約、会社法上の意思決定その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、財務状況、契約条件、金融機関との関係、投資内容、顧客構成その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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