経営者保証を外したいとき、何を先に整えるか

2026.09.12

「ガイドラインがあるから保証を外してほしい」では進まない

事業承継を考え始めた経営者から、よく出てくる問題があります。

それが、経営者保証です。

会社は黒字。

後継者もいる。

借入返済も進んでいる。

それでも、社長個人の保証が残っている。

さらに後継者から、

「会社は継ぎたい。でも同じ保証までは背負いたくない」

と言われる。

このとき経営者は、

「経営者保証に関するガイドラインがあるなら、銀行は保証を外してくれるのではないか」

と考えたくなります。

しかし私は、最初から「保証を外してほしい」という交渉だけを始めるべきではないと考えます。

先にやるべきなのは、

「保証なしでも金融機関が融資判断できる会社に近づけること」

です。

相談事例

ある産業用設備メーカーを想定します。

創業31年。

年商は約9億6,000万円。

営業利益も約3,900万円あり、本業は黒字です。

金融機関借入は約3億8,000万円。

そのうち約2億6,000万円に創業社長の個人保証が付いています。

社長は63歳。

35歳の長男が会社に入り、現在は取締役として営業・製造を横断して会社を支えています。

長男自身も会社を継ぐ意思があります。

ただし条件があります。

「父と同じように自宅までリスクにさらして巨額の個人保証を背負うなら、社長はやらない」

というものです。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「今の社長の保証を外せるかどうか」だけではない

と考えます。

本当に整理すべきなのは、

  • 旧社長の既存保証をどうするか
  • 後継者から新たに保証を取るのか
  • 会社と個人の資金関係をどう整理するか
  • 後継者へ本当に経営権を渡すのか
  • 新しい設備投資を誰の責任で行うのか
  • 金融機関へどこまで情報を開示できるか

です。

つまり、保証問題だけを単独で解決しても、事業承継そのものが整っていなければ意味がありません。

よくある失敗① 保証解除だけを先に要求する

社長からすると、

「30年間返済してきた」

「会社は黒字」

「息子へ譲るのだから、もう保証を外してほしい」

と思うでしょう。

その気持ちは分かります。

しかし銀行側から見ると、

  • 会社と社長個人の財布は本当に分かれているか
  • 承継後も利益を出せるのか
  • 後継者に経営能力があるか
  • 旧社長が実質支配を続けないか
  • 新しい設備借入をどう考えるか

を確認する必要があります。

だから私は、

「保証を外してください」ではなく、「保証を外せる可能性を高めるために、何が不足していますか」

と聞く方が実務的だと考えます。

会社と経営者個人が本当に分かれているか

今回の会社では、調べてみると、

  • 会社から社長への貸付金
  • 社長個人所有不動産を会社が賃借
  • 私的利用との区分が曖昧な車両
  • 交際費の公私区分
  • 会社と一族間の資金移動

などが残っていました。

社長は、

「中小企業なら普通だ」

と考えています。

しかし、経営者保証への依存を減らしたいなら、ここは放置できません。

私はまず、

「会社の財産は会社のもの、社長個人の財産は個人のもの」

という状態をできるだけ明確にします。

保証を外したいのであれば、会社自身の信用力を高める必要があるからです。

役員貸付金は小さく見えて大きな問題です

今回、会社から社長への貸付金が約1,200万円あります。

年商約10億円の会社から見れば、致命的な金額ではないかもしれません。

しかし金融機関から見ると、

「会社の資金を経営者個人が使っている」

という印象につながります。

保証をなくしたい一方で、会社と個人の資金関係が曖昧なままでは、金融機関としても判断しにくくなります。

私は、保証交渉と同時に、

役員貸付金をどう解消するかという具体的な計画

を出します。

「父の保証を息子へ付け替える」だけでは承継にならない

今回、長男が最も嫌がっているのはここです。

旧社長の保証を外す。

その代わりに、新社長である息子が同じように保証する。

これでは、次の世代へ同じ経営構造をそのまま移しているだけです。

私は、

旧社長の保証解除と、後継者から新たな保証を取るかどうかは、別の論点として考えるべき

だと思います。

後継者だから当然に保証する。

親族だから当然に保証する。

そうではなく、承継後の財務内容、経営能力、情報開示、担保状況などを見て判断する必要があります。

経営者保証を「責任感」と混同しない

創業社長は、

「俺は30年間、自宅まで背負って会社を守ってきた」

と考えています。

その経験は否定できません。

しかし私は、

個人保証を負うことと、経営者として責任を果たすことは同じではない

と考えます。

数字を開示する。

利益を出す。

会社と個人を分ける。

不都合な情報も金融機関へ早く伝える。

後継者へ権限を渡す。

こうした行動も経営者責任です。

むしろ次世代には、

社長個人の資産に頼らなくても信用される会社を残す

ことが、一つの事業承継だと思います。

保証問題の裏には、権限移譲の問題があります

今回の長男は、保証だけを嫌がっているわけではありません。

社長になる条件として、

  • 父親が日常経営へ介入しないこと
  • 叔父である専務との権限を明確にすること
  • 会社と一族の資金関係を整理すること

も求めています。

私は、これを非常に重要だと考えます。

名刺だけ「代表取締役社長」に変わっても、

父親が最終決裁をする。

叔父も直接社員へ指示する。

銀行交渉の責任だけ新社長が持つ。

これでは承継とは言えません。

責任を移すなら、権限も移す必要があります。

設備投資を先にしてはいけない理由

この会社には約8,000万円の設備更新計画があります。

設備投資そのものが悪いわけではありません。

問題は、

「誰が社長になるか」

「誰が保証するか」

「旧社長はいつ退くのか」

が決まっていない状態で、新しい借入だけ増やそうとしていることです。

私は、

設備投資、事業承継、保証設計を同じテーブルで考える

べきだと思います。

先に借りてしまえば、あとから保証を整理するときに論点がさらに増えます。

「保証を外す話」と「保証債務を整理する話」は別です

経営者保証ガイドラインについて、もう一つ混同されやすい点があります。

会社が正常に経営されている段階で、

「今後は保証なしの融資にできないか」

「既存保証を見直せないか」

と話す場面。

そして、会社が経営困難となった後に、

「保証債務をどう整理するか」

を考える場面。

これは同じではありません。

今回の会社は本業黒字です。

だから私は、

倒産後の保証債務整理を期待するのではなく、会社が健全な今のうちに保証依存を減らす

方向で考えます。

「ガイドラインなら自宅を残せる」も短絡的です

社長が知人から、

「経営者保証ガイドラインなら自宅を残せるらしい」

と言われることがあります。

しかし、今のケースで議論しているのは既存保証の見直しです。

会社が窮境に陥った後の保証債務整理とは局面が違います。

私は、

「保証を外すこと」

と、

「保証債務を整理するときにどの財産を残せるか」

を分けて説明します。

制度の名前が同じだからといって、同じ話ではありません。

金融機関とは対立するより、条件を具体化する

社長は、銀行から、

「保証解除を確約できない」

と言われて腹を立てています。

しかし私は、面談を避けるべきではないと思います。

むしろ、次の質問を具体的にします。

「現在、なぜ私の保証が必要なのですか」

「何を改善すれば解除可能性が高まりますか」

「後継者から保証を取らない判断をするには、何が必要ですか」

「財務指標として何を見ていますか」

こうすると、交渉が、

「信用している・していない」

という感情論から、

改善項目を一つずつ潰す経営課題

に変わります。

若手人材にとっても事業承継は重要です

このケースでは、若手設計者が、

「長男が社長になるなら残る」

と話しています。

つまり事業承継は、株式や保証だけの問題ではありません。

後継者が決まらない。

権限も曖昧。

創業者と専務がいつまでも仕切る。

こういう会社では、若い社員ほど将来を描きにくくなります。

事業承継を先送りすること自体が、人材流出リスクになります。

法律だけでは解決できない理由

経営者保証ガイドラインや金融機関の監督指針には、保証に関する重要な考え方があります。

しかし、制度を知るだけで承継は成功しません。

保証が外れても、旧社長が経営へ介入し続ければ組織は混乱します。

後継者が無保証でも、会社と個人の資金関係が曖昧なら金融機関の不安は残ります。

財務が良くても、後継者と専務の権限が曖昧なら社員が離れます。

経営者保証問題は、金融問題であると同時に、ガバナンスと事業承継の問題です。

実務上のチェックポイント

私なら、少なくとも次の項目を確認します。

  • 金融機関別借入残高
  • 保証契約ごとの保証人
  • 担保設定
  • 既存無保証融資の有無
  • 銀行が保証を求める具体的理由
  • 保証解除可能性を高める改善事項
  • 役員貸付金
  • 役員借入金
  • 会社と個人の不動産賃貸借
  • 私的利用資産
  • 一族と会社の資金移動
  • 直近3期の営業利益
  • 営業キャッシュフロー
  • 自己資本
  • 借入返済能力
  • 月次決算の精度
  • 金融機関への情報開示頻度
  • 後継者の経営実績
  • 後継者の承継条件
  • 現社長の退任時期
  • 退任後の役割・代表権
  • 専務との権限関係
  • 株式承継時期
  • 設備投資の必要性と収益性

私ならこう進めます


事業承継時期を決める

現社長・後継者・専務の権限を整理する

会社と個人の資金関係を棚卸しする

役員貸付金等の改善計画を作る

財務・情報開示体制を整える

金融機関ごとに保証理由を確認する

現社長の既存保証解除条件を確認する

後継者への保証徴求の必要性を別途確認する

設備投資を保証設計と一緒に検討する

株式・代表権・保証を一体で移行する

まとめ

私は、経営者保証を外したいとき、最初に、

「ガイドラインを使って外してください」

とは考えません。

最初に考えるのは、

「保証なしでも、この会社なら貸せると思ってもらうために何を直すか」

です。

会社と個人を分ける。

財務を強くする。

情報を開示する。

後継者へ本当に権限を渡す。

一族経営の曖昧さを減らす。

そのうえで、旧社長の保証と後継者の保証を別々に交渉する。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そして事業承継で守るべきなのは、

創業者が背負ってきた保証の形ではありません。

次の経営者が、次の時代のやり方で経営できる会社です。

私は、それを作ることが、経営者保証問題における最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における経営者保証、融資、事業承継、株式移転、保証債務整理、税務その他の法的・財務的判断を示すものではありません。実際の判断は、金融機関との契約内容、財務状況、担保、経営体制、株主構成その他の具体的事情によって異なります。