「結婚式キャンセル料128万円請求棄却」判決が映し出す、契約の本質と全体最適という視点

2026.10.03

先日、ある判決が目に留まりました。東京地裁は、結婚式の約1年前に予約をキャンセルしたカップルに対し、式場運営会社が約128万円のキャンセル料を請求した訴訟について、式場側の請求を棄却したという内容です。契約で定められたキャンセル料のうち、「申込金と実費」を超える部分については、消費者契約法により無効と判断されました。

このニュースを読み、私は改めて「契約とは何のためにあるのか」という根源的な問いを考えさせられました。本日は、この判決を題材に、私自身の弁護士としての思想を綴らせていただきます。

■ 判決が示したものは「契約の自由」と「消費者保護」のバランスです
まず前提として確認しておきたいのは、この判決は「契約を軽視してもよい」というメッセージではないということです。裁判所は、式場側に逸失利益が生じること自体は認めています。打ち合わせの有無といった個別事情に関わらず、契約締結の事実そのものから、事業者には合理的な期待利益が発生する――この点はきちんと肯定されているのです。

一方で、再販売のための広告費や内覧会費用については、「事業を継続するうえで恒常的に支出する販管費であり、解約によって生じた損害ではない」として加算を否定しました。

私はこの判断に、法が目指す「適正な利益の実現」という本質を見ます。事業者の利益はきちんと守る。しかし、消費者が本来負担すべきでない部分まで押し付けることは認めない。この線引きこそが、消費者契約法9条1項1号の存在意義であり、裁判所はその趣旨に忠実に判断を下したのだと受け止めています。

■ 「勝つこと」と「適正に解決すること」は別のものです
弁護士として長く仕事をしてきて、私が強く感じていることがあります。それは、「過剰な勝利は必ずしも善ではない」ということです。

もし式場側が128万円を全額回収できたとして、それは短期的には「勝利」かもしれません。しかし、中長期的に見たとき、消費者の信頼を失い、業界全体のイメージを損ない、結果として自社のビジネスにも返ってくるリスクがあります。契約条項の見直し、顧客との丁寧なコミュニケーション、そもそものキャンセル対応フローの整備――取り組むべきは、裁判での勝敗ではなく、ビジネスモデルそのものの最適化だったのではないでしょうか。

私は弁護士とは、法律を用いて課題を解決しつつ、全体最適を実現する存在であると考えております。目の前の一件の勝敗だけを追うのではなく、依頼者の中長期の利益、取引相手との関係、社会全体への影響――これらを俯瞰したうえで、最も望ましい着地点を一緒に探すことこそが、私たちの役割です。

■ 経営者の皆様へ――契約書は「経営の設計図」です
この判決から経営者の皆様に受け取っていただきたいメッセージは、契約書は単なる「万が一のための紙」ではなく、「経営の設計図」であるということです。

キャンセル料条項ひとつをとっても、「業界慣行だから」「これまでこれでやってきたから」という理由だけで放置されているケースを、私は数多く見てまいりました。しかし、消費者契約法の射程は年々広がり、裁判所の判断も時代とともに変化しております。昨日の常識は、今日の非常識になり得るのです。

経営者が本業に集中するためにこそ、契約の整備が必要です。私はよく、「契約書を見直すことは、経営リスクを可視化すること」であるとお伝えしています。トラブルが起きてから慌てて相談するのではなく、平時のうちに、経営の設計図としての契約書を点検していただきたい。これが、伴走者としての私からの率直な願いです。

■ 感情と合理の両立――それが実務家の矜持です
もう一点、この事案で考えさせられたことがあります。それは、結婚という人生の大きなイベントに関わる契約だということです。

結婚式のキャンセルには、必ず何らかの事情があります。家族の病気、経済的な事情、関係性の変化――そのひとつひとつに、当事者の感情と物語があるはずです。事業者としても、楽しみに準備していた一組のカップルを失うことには、少なからぬ落胆があったことでしょう。

だからこそ、法律の役割は冷静な「調整」なのだと私は思います。感情を無視するのではなく、感情を尊重したうえで、冷静に事実と権利義務を整理し、最も適正な着地点へ導く。これが法律家の本来の仕事です。

弁護士は「戦う存在」であると同時に、「調整しバランスを取る存在」でもあります。この両輪が揃って初めて、私たちは依頼者と社会の双方に対して価値を提供できるのだと信じております。

■ 結びに代えて
今回の判決は、事業者にとっては厳しい内容だったかもしれません。しかし私は、これを「契約と向き合い直す好機」として前向きに捉えていただきたいと願っております。

経営において契約リスクに不安を感じられる方、既存の約款や契約書を見直したいとお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。短期の勝敗ではなく、中長期の経営価値を最大化するために、私は伴走者として共に歩んでまいります。

法律は武器であり手段ですが、目的はあくまで、社会と人の最適化です。この信念を胸に、本日もまた、依頼者の皆様の未来のために向き合ってまいります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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