不動産管理会社で修繕業者との癒着疑惑が出たとき、最初にすべきこと|修繕費・キックバック・内部通報への対応

2026.10.03

「修繕費が高すぎる」と言われたとき、すぐ担当者を処分すべきなのか

不動産管理会社では、修繕工事の発注額が大きくなりやすく、特定の業者との付き合いも長期化しがちです。

そのため、ある日突然、

「この修繕費、高すぎませんか」

「担当者と業者が癒着しているのでは」

「キックバックを受け取っているのでは」

という疑念が出ることがあります。

このとき経営者として最もやってはいけないのは、十分な確認をせずに、

「絶対に不正だ」

または、

「長年任せてきた人だから問題ない」

と決めつけることです。

私は、この問題の本質は、誰が悪いかを早く決めることではないと考えます。

最初に守るべきなのは、証拠、オーナーの信用、今後の発注、内部通報者、そして現場を止めない体制です。

相談事例|特定業者への発注が3年間で2億4,000万円

ある不動産管理会社を想定します。

管理戸数は約3,800戸。

建物管理部長が約12年間、修繕業者の選定をほぼ一手に担っていました。

特にD工務店への発注が増え、直近3年間だけで約2億4,000万円。

全修繕工事に占める発注割合も、以前の約22%から約58%まで上昇していました。

そこへ若手社員から内部通報が入ります。

  • D社の修繕費が他社より高い
  • 相見積もりがほとんど取られていない
  • 部長とD社社長が個人的に親しい
  • 部長の妻が経営する会社にD社から支払いがある可能性がある

しかし、決定的な証拠はまだありません。

さらに大口オーナーからも、

「最近、修繕費が高すぎないか」

と指摘され始めました。

この問題の本質は「キックバックがあったか」だけではない

もちろん、キックバックや不正な利益供与が本当にあったのかは重要です。

しかし私は、それより先に確認すべき問題があると考えます。

それは、

「仮にキックバックが一切なくても、この発注制度を今後も続けるのか」

という点です。

特定の一人に業者選定が集中している。

相見積もりがない。

価格の妥当性を別の人が確認していない。

個人的に親しい業者への発注割合が急増している。

この状態は、不正の有無以前に、経営管理として危険です。

つまり、この問題は「担当者個人の問題」であると同時に、会社の発注統制の問題でもあります。

よくある失敗① 怪しいからすぐ懲戒処分する

内部通報を受けた経営者は、焦ります。

大口オーナーにも知られ始めている。

社員の間でも噂が広がっている。

ここで、

「厳しい会社だと示さなければならない」

と考え、すぐ担当部長を自宅待機や懲戒処分にしたくなることがあります。

しかし、疑わしい事情と、不正が証明されたことは別です。

工事費が高い理由が、

  • 夜間対応
  • 緊急出動
  • 保証期間
  • 特殊な施工条件
  • 現場管理コスト

などにある可能性もあります。

事実確認前に処分へ進めば、別の労務問題や社内対立を生む可能性があります。

よくある失敗② 証拠がないから何もしない

反対に、

「キックバックの証拠はない」

として従来どおり発注を続けるのも危険です。

もし本当に問題があれば、その間にも新たな発注が増えます。

さらに、関係者が調査を察知すれば、メールやチャット、見積書、取引記録などが失われる可能性もあります。

だから私は、結論を出す前に、

証拠保全と新規発注の統制だけ先に実施する

と考えます。

最初に守るべきものは「証拠」

私なら、最初に関連資料を保全します。

  • 見積書
  • 発注書
  • 稟議書
  • 請求書
  • 工事写真
  • メール
  • 業務チャット
  • 過去の発注一覧
  • 相見積もり資料
  • オーナーへ提示した見積書

などです。

重要なのは、担当者を犯人扱いするためではありません。

後から公正に判断できる状態を残すためです。

D社への発注は「全面停止」ではなく「単独発注停止」

今回のD社は、価格面では疑念があります。

しかし、夜間漏水などの緊急対応を長年担ってきた実績もあります。

ここで感情的に、

「今日からD社は全部出入り禁止」

とすると、今度は現場が止まります。

私は、まずD社への新規の単独発注を止めます。

一定額以上の工事は複数見積もり。

複数名で承認。

同時に、緊急対応できる第2、第3の業者を確保します。

これなら、調査と現場継続を両立できます。

内部通報者を「裏切り者」にしない

このケースでは、内部通報した社員が、その後仕事を振られなくなり、周囲で、

「社内に人を売るやつがいる」

という話まで出ています。

これは非常に危険です。

通報内容が正しいかどうかとは別に、通報した人が不利益を受ける会社になると、次から誰も問題を報告しなくなります。

すると経営者は、問題が大きくなってからしか知ることができません。

内部通報制度は、社員を守るためだけではなく、経営者が早く問題を知るための仕組みでもあります。

ただし、通報者なら何をしてもよいわけではない

一方、通報者が会社資料を自宅PCへ大量に保存していた場合、その行為も別に確認する必要があります。

ここで、

「通報者だから問題ない」

とも、

「資料を持ち出したから通報内容も全部無視する」

とも考えません。

通報内容の調査と、資料持ち出しの適否は分けて考える。

これが重要です。

大口オーナーには「問題ありません」と急いで言わない

オーナーから修繕費について質問されると、管理会社としては、

「問題ありません」

と早く説明したくなります。

しかし、調査前に安全宣言をするのは危険です。

後から不正や不適切な発注が判明すれば、

「会社も知っていて隠したのではないか」

という問題に変わります。

私なら、

「現在、過去の修繕発注プロセスを確認しています。調査期間中は一定額以上の工事について複数見積もりと複数承認に変更しています」

と説明します。

不正があったとも、なかったとも言わない。

その代わり、会社が放置していないことを示すわけです。

過去の工事が高いからといって、すぐ返金しない

例えば過去の工事が3,800万円。

他社に聞くと、

「3,000万円くらいでもできたのでは」

と言われた。

このとき、差額800万円をすぐ返すという判断も慎重にすべきです。

工事金額は、工期、仕様、材料、保証、追加工事、緊急性などで変わります。

まず確認すべきなのは、

なぜその業者を選び、その金額を誰がどのように承認したのか

です。

私ならこう進めます


証拠を保全する
↓
新規の単独発注を止める
↓
緊急修繕の代替業者を確保する
↓
内部通報者への不利益取扱いを止める
↓
調査担当者と発注担当者を分離する
↓
過去案件の価格・選定・承認・品質を検証する
↓
取引先との金銭関係を確認する
↓
オーナーへ中間説明する
↓
事実確定後に処分・取引継続・損害回復を判断する
↓
発注制度そのものを作り直す

実務上のチェックポイント

  • 発注権限は誰にあるか
  • 決裁規程は存在するか
  • 相見積もりのルールはあるか
  • 特定業者への発注割合は何%か
  • 年度ごとの発注額はいくらか
  • 緊急工事と通常工事を分けているか
  • 業者選定理由が記録されているか
  • 工事価格を別担当者が確認しているか
  • 接待・贈答ルールはあるか
  • 利益相反の申告制度はあるか
  • 担当者と取引先に個人的関係はあるか
  • 関連会社への支払いはあるか
  • 実際の役務提供や成果物はあるか
  • 内部通報の記録が残っているか
  • 通報後に人事・担当変更があったか
  • 大口オーナーから価格指摘が出ているか
  • 過去工事の品質に問題はあるか
  • 代替業者を確保できるか
  • 調査担当者に独立性があるか
  • 不正がなくても現在の発注制度を続けたいと思えるか

なぜ法律だけでは解決できないのか

この問題では、内部通報、不利益取扱い、懲戒、利益相反、場合によっては刑事上の問題まで関係します。

しかし、法律上どう評価するかだけで経営判断は終わりません。

C部長を外したら現場は回るのか。

D社を止めたら夜間修繕は誰が行うのか。

オーナーへ何を説明するのか。

社員は会社を信頼できるのか。

修繕売上は今後どうなるのか。

ここまで考える必要があります。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

まとめ|不正を暴くより先に、会社が壊れない状態を作る

不動産管理会社で修繕業者との癒着やキックバック疑惑が出たとき、私は最初から担当者を犯人扱いしません。

しかし、証拠がないことを理由に何もしないこともしません。

まず、証拠を守る。

次に、新しい疑わしい発注を増やさない。

通報者を守る。

代替業者を確保する。

オーナーには調査している事実と改善措置を説明する。

その後で、事実に基づいて処分や取引継続を判断します。

重要なのは、「C部長が悪いか」を急いで決めることではありません。

悪かった場合でも、悪くなかった場合でも、会社が壊れない状態を先に作ることです。

私は、それが不動産管理会社で修繕費や業者癒着の疑惑が出たときの最初の一手だと考えます。


※本記事は、不動産管理会社における修繕工事、業者選定、キックバック疑惑、内部通報、発注管理等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、社内規程、発注実態、通報内容、証拠、労務関係、管理委託契約その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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