
EC通販で「解約できない」と炎上したとき、会社は何を見直すべきか|定期購入・Web解約・LTVの考え方
2026.10.07
EC通販で「解約できない」と言われたら、何を最初に見直すべきか
定期購入型のEC通販では、継続率が利益を大きく左右します。
そのため、解約率を下げるために、電話での引止め、休止提案、割引継続などを行っている会社もあります。
しかし、この仕組みが強くなりすぎると、
「電話がつながらない」
「定期購入だと分からなかった」
「解約しようとしたら何度も引き止められた」
といった不満につながります。
そしてSNSや口コミで、
「解約できない会社」
というイメージが定着すると、問題はカスタマーサポートだけでは済みません。
広告効率、採用、ブランド、将来の売上まで影響します。
私は、この問題を単純に、
「Web解約を導入するか」
「4回縛りをやめるか」
だけで考えるべきではないと思っています。
重要なのは、申込みから解約までの顧客体験全体を見直すことです。
相談事例|初回980円の定期通販がSNSで炎上
あるD2C企業を想定します。
主力商品は美容サプリメント。
通常価格は5,980円ですが、定期購入では初回980円。
ただし最低4回の継続条件があります。
広告では、
「初回980円」
を大きく表示。
一方で、2回目以降の価格や4回継続条件は小さく表示されていました。
さらに解約は電話限定。
電話では、
- 休止
- 周期変更
- 割引継続
を提案し、解約を引き止める仕組みになっていました。
その結果、継続率とLTVは改善。
会社は成長しました。
しかし同時に、
「電話がつながらない」
「4回縛りを知らなかった」
「解約しようとしたら強く引き止められた」
という苦情も増えていきました。
ついにはSNSで炎上。
「解約できない通販会社」
という投稿が拡散し、広告CPAも悪化しました。
この問題の本質は「解約率が高いか低いか」ではない
私は、この問題の本質は解約率そのものではないと考えます。
会社が見るべきなのは、
顧客が納得して継続しているのか
です。
解約を難しくすれば、短期的には継続率が上がります。
しかし、その結果、
- 苦情が増える
- 返金要求が増える
- チャージバックが増える
- 広告CPAが悪化する
- コールセンター社員が辞める
- ブランド検索が悪化する
のであれば、会社全体では利益が減っている可能性があります。
まず顧客導線を全部見える化する
私なら、最初に次の流れを全部並べます。
広告
↓
LP
↓
申込み画面
↓
最終確認画面
↓
初回商品発送
↓
2回目請求
↓
解約希望
↓
電話待ち
↓
引止め
↓
解約完了
↓
返金・口コミ
そして各段階で、
- 離脱率
- 苦情率
- 解約率
- 返金率
- チャージバック率
- CPA
- LTV
を確認します。
重要なのは、
「どこで売れなくなったか」だけではなく、「どこで信用を失っているか」を見ることです。
「初回980円」が悪いのではない
初回価格を安くすること自体が問題なのではありません。
問題になるのは、顧客が、
「980円の商品を買った」
と思っているのに、会社側は、
「4回継続の定期契約を申し込んだ」
と認識している状態です。
この認識差が大きいほど、後からトラブルになります。
だから私は、広告のコンバージョン率だけでなく、
申込時に顧客が契約内容をどこまで理解しているか
を重視します。
Web解約を入れると売上が落ちる、は本当か
多くの会社がWeb解約を嫌がる理由は、
「簡単に解約できるようにしたら継続率が落ちる」
という不安です。
確かに、短期的には解約率が上がる可能性があります。
しかし、それだけで判断するのは危険です。
Web解約によって、
- 電話対応人員が減る
- 待ち時間クレームが減る
- 返金要求が減る
- チャージバックが減る
- 社員の離職が減る
- 口コミが改善する
可能性もあります。
つまり比較すべきなのは、
「解約率」だけではなく、
解約しやすくした後に、会社へ最終的にいくら利益が残るか
です。
LTVの計算方法を変える
定期通販ではLTVが重視されます。
しかし、私は売上だけでLTVを見るのは危険だと思っています。
本来見るべきなのは、
売上
- 商品原価
- 広告費
- コールセンター費
- 返金
- チャージバック
- 苦情対応コスト
- 採用・退職コスト
まで含めた実質的な利益です。
解約阻止率が高くても、この数字が悪ければ、その施策は本当に成功しているとは言えません。
よくある失敗① 炎上が収まるまで広告だけ止める
SNS炎上が起きると、広告出稿を減らす判断は合理的です。
しかし、それだけでは不十分です。
広告を止めても、既存顧客からの、
解約。
返金。
苦情。
口コミ。
は残ります。
今回のようなケースでは、炎上は原因ではなく結果です。
原因となっている顧客体験を変えなければ、また同じ問題が起きます。
よくある失敗② 電話オペレーターを増やして解決しようとする
「電話がつながらない」という苦情が増えれば、オペレーターを増やしたくなります。
確かに待ち時間は減ります。
しかし、
電話限定解約。
強い引止め。
分かりにくい継続条件。
が残るなら、問題は続きます。
人を増やして問題を吸収するより、
そもそも電話しなくても解約できる仕組みにした方がよい場合があります。
よくある失敗③ いきなり4回縛りを全部撤廃する
反対に、炎上を恐れて、
「今日から全部いつでも解約可能にする」
というのも少し粗い判断です。
本当に問題なのが、
- 4回継続条件そのもの
- 表示方法
- 電話限定解約
- 強い引止め
のどこなのかを分けて検証した方がよいからです。
例えば、4回条件を残しても、申込時に明確に説明し、Webで簡単に手続できれば苦情が減る可能性があります。
解約しやすくても継続される商品を目指す
私は、定期通販の理想は、
「解約できないから続ける」
ではなく、
「解約できるけれど続けたいから続ける」
状態だと思っています。
そのためには、
- 商品満足度
- 価格納得感
- 配送周期
- 休止のしやすさ
- 解約理由
を商品企画へ戻す必要があります。
解約理由は、売上を失うデータではなく、
商品改善のデータ
でもあります。
マーケティング部とカスタマーサポート部を同じ数字で見る
このケースでは、マーケティング部は継続率とLTVを見ています。
カスタマーサポート部は苦情件数と社員疲弊を見ています。
商品企画部は商品満足度を見ています。
それぞれ別の数字を見ているため、対立します。
私は、
- 実質LTV
- 苦情率
- 返金率
- CPA
- 解約理由
- 顧客満足度
を全社共通KPIにした方がよいと考えます。
私ならこう進めます
広告表現を確認する
↓
LPと最終確認画面を確認する
↓
継続条件の見え方を確認する
↓
解約導線を確認する
↓
電話待ち時間を数値化する
↓
引止め内容を確認する
↓
返金・苦情・チャージバックを集計する
↓
実質LTVを再計算する
↓
Web解約をテストする
↓
継続条件そのものを再設計する
実務上のチェックポイント
- 広告クリエイティブ
- 初回価格の表示サイズ
- 定期購入であることの表示
- 2回目以降の価格
- 総支払額
- 最低継続回数
- 最終確認画面
- 注文ボタン周辺の表示
- 解約方法
- 解約受付時間
- 電話待ち時間
- Web解約の可否
- 引止めスクリプト
- 休止提案
- 割引提案
- 解約阻止率
- 解約理由
- 苦情件数
- 返金率
- チャージバック
- CPA推移
- CVR推移
- 実質LTV
- コールセンター人件費
- 社員離職率
- ブランド検索の変化
- 商品満足度
- 競合の解約導線
- Web解約導入後の試算
- 継続条件撤廃時の試算
経営者に確認したい一つの質問
私は、このようなケースでは最後にこう聞きます。
「解約を簡単にしたら利益が出なくなる商品なのか、それとも解約を難しくしないと利益が出ない事業モデルなのか」
もし後者なら、問題はカスタマーサポートではありません。
事業モデルそのものです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
定期購入では、特定商取引法や広告表示など、法律上の確認は重要です。
しかし法律上問題がない表示であったとしても、
顧客が不信感を持つ。
口コミが悪化する。
広告費が上がる。
社員が辞める。
という状態では、経営として持続しません。
逆に、法律リスクを恐れてすべての定期施策を撤廃するだけでも、事業は弱くなります。
重要なのは、誰が正しいかではなく、
顧客が納得して買い、会社にも利益が残る仕組みを作れるかです。
まとめ|「解約率を下げる」より「解約しやすくても利益が残る会社」にする
EC通販で「解約できない」という苦情が増えた場合、私は広告だけを止めるとも、電話オペレーターだけを増やすとも考えません。
まず、申込みから解約までの顧客導線を全部見ます。
初回価格。
継続条件。
最終確認画面。
電話待ち。
引止め。
返金。
口コミ。
そして、継続率だけでなく、返金、苦情、CPA、コールセンター費用まで含めて実質LTVを計算します。
目指すべきなのは、解約させないECではありません。
解約しやすくても、顧客が続けたいと思い、会社にも利益が残るECです。
私は、それが定期通販の事業モデルを見直すときの最初の一手だと考えます。
※本記事は、EC通販、定期購入、解約対応、広告表示、Web解約、LTV、顧客対応等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、広告表示、契約条件、申込画面、解約方法、顧客対応その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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