SNSで会社への誹謗中傷が拡散したとき、投稿削除を最優先すべきか|Xの投稿削除・発信者情報開示・炎上対応の考え方

2026.10.31

「ブラック企業」とSNSに書かれたら、すぐ削除を求めるべきか

会社について、XなどのSNSで突然、

「社員を使い捨てにするブラック企業」

「残業代を払わない」

「退職すると嫌がらせを受ける」

と書かれたら、経営者として放置するのは難しいと思います。

しかも投稿が20万回、30万回と表示され、採用候補者や取引先から問い合わせまで来れば、

「すぐ削除させたい」

「投稿者を特定したい」

と考えるのは自然です。

しかし私は、SNSで会社への誹謗中傷が拡散したとき、最初から投稿削除や発信者特定だけを目的にするのは危険だと考えます。

最初に確認すべきなのは、その投稿のどこが事実で、どこが意見で、どこが誤っているのかです。

相談事例|匿名アカウントの投稿が20万回表示

あるWeb制作・デジタルマーケティング会社を想定します。

従業員は約70名。

業績は伸びていますが、急成長に伴い制作部門では長時間労働が増えていました。

そんな中、匿名のXアカウントから、

  • 社員を使い捨てにするブラック企業
  • 残業代をまともに払わない
  • 辞める社員に嫌がらせをする
  • 取引先にも嘘をついている

という投稿が出ます。

さらに、社内プロジェクト名など、内部の人間しか知らないような情報まで含まれていました。

投稿はインフルエンサーに引用され、表示回数は約20万回。

採用候補者からも、

「SNSで見た内容は事実ですか」

と問い合わせが来ます。

この問題の本質は「投稿者を特定できるか」ではない

社長は、

「完全なデマだ」

「法的措置を取ると発表しよう」

と考えます。

しかし人事部が確認すると、完全な虚偽とは言えない事情もありました。

過去には固定残業代の不足分を追加精算した社員がいる。

退職予定者を案件から外した事実もある。

一方で、

「上司が机を叩いて怒鳴った」

という点は確認できない。

つまり今回の投稿は、

全部デマでも、全部事実でもない可能性があります。

私は、ここが最も重要だと考えます。

SNSの誹謗中傷は一文ずつ分けて考える

私は問題投稿を、少なくとも4種類に分けます。

1.確認できる事実

例えば、過去に残業代の追加精算をしたこと。

退職予定者の担当変更があったこと。

こうした事実は、会社にとって不都合でも、存在そのものを否定してはいけません。

2.誤っている可能性が高い事実

実際には存在しない出来事や、事実関係を大きく歪めた記載です。

こうした部分は、削除請求や発信者情報開示を検討する対象になり得ます。

3.評価・意見

「ブラック企業だ」

「社員を使い捨てにしている」

といった強い評価表現です。

会社としては納得できなくても、事実摘示とは性質が違います。

4.未確認の内部情報

ハラスメント、社内会議、顧客対応など、現時点で会社側が確認できていない情報です。

ここを「嘘」と決めつけるのは危険です。

未確認は、虚偽と同じではありません。

私はまず証拠を保全する

SNS投稿は削除や編集が可能です。

そのため、最初に保存します。

  • 投稿URL
  • 投稿日時
  • 投稿全文
  • 投稿者アカウント
  • プロフィール
  • 添付画像
  • 引用投稿
  • スクリーンショット
  • 表示回数
  • 他SNSへの転載

会社側の資料も同時に保存します。

  • 勤怠記録
  • 給与計算資料
  • 残業代精算記録
  • 退職者とのやり取り
  • ハラスメント相談記録
  • 人事面談記録

削除する前に、まず何が起きているかを固定することが重要です。

「事実無根」と全面否定するのは危険

炎上すると、広報担当は早く声明を出したくなります。

「当該投稿は事実無根です」

「法的措置を検討しています」

こうした文章です。

しかし私は、事実確認が終わる前の全面否定は避けます。

なぜなら、後から一部事実が出た場合、

「問題があった」

というだけでなく、

「会社が嘘の説明をした」

という新しい炎上材料になるからです。

では、会社は何も発信しない方がいいのか

完全放置も危険です。

採用候補者や取引先から問い合わせが来ているなら、会社として一定の説明は必要です。

私なら、

「現在、投稿内容について事実確認を進めています」

「確認された課題については必要な対応を行います」

「確認できていない情報について現時点で断定的な回答は控えます」

という程度に留めます。

守るべきなのは、早く反論することではなく、後から説明が崩れないことです。

発信者情報開示は「犯人探し」の制度ではない

匿名投稿が出ると、経営者は、

「誰が書いたか知りたい」

と考えます。

しかし発信者情報開示は、単に会社にとって不愉快な投稿者を探すための制度ではありません。

具体的にどの投稿によって、どのような権利侵害が生じているのかを整理する必要があります。

つまり、

「匿名だから開示請求する」

ではなく、

「この記載は具体的な権利侵害が疑われるので開示を検討する」

という順番です。

社内の犯人探しを先にすると、さらに危険になる

今回の投稿には、内部の人しか知らないような情報が含まれています。

そこで、

「社内PCを調べろ」

「アクセスログを確認しろ」

「誰が書いたか特定しろ」

と動きたくなるかもしれません。

しかし私は、初動で犯人探しを前面に出しません。

社員から見ると、

「会社の問題を指摘すると監視される」

という印象になるからです。

そうなると、本当に会社が知るべき問題まで内部から上がらなくなります。

発信者を探す前に、書かれた内容を調べる。

この順番が重要です。

「ブラック企業」と書かれた原因が会社内に残っていないか

私は、このケースで最も重要なのはここだと考えます。

仮にXの投稿を削除できたとしても、

  • 長時間労働
  • 残業代計算の不備
  • 退職者対応への不満
  • 管理職の強い指導
  • 内部相談が経営まで届かない

という問題が残っていれば、別の人がまた投稿します。

SNS投稿は原因ではなく、

社内問題が外に出た結果

かもしれません。

一方で、虚偽の投稿まで我慢する必要はない

もちろん、会社に問題が一部あったからといって、虚偽の投稿まで受け入れる必要はありません。

例えば、事実として存在しない犯罪行為や、不正行為を断定されている場合。

会社や役員、従業員の権利を明確に侵害する内容がある場合。

こうした部分については、削除請求や発信者情報開示などを検討します。

私は、

「自社改善」と「権利侵害への対応」は両立する

と考えています。

取引先と採用候補者への説明は分ける

SNS炎上が起きると、全員に同じ文章を送ってしまいがちです。

しかし、取引先が知りたいことと、採用候補者が知りたいことは違います。

取引先には、

「業務提供に影響があるのか」

が重要です。

採用候補者には、

「働く環境は実際どうなのか」

が重要です。

私は相手ごとに説明内容を分けます。

SNS炎上を広報だけの仕事にしてはいけない

今回の問題には、

  • 人事
  • 労務
  • 法務
  • 広報
  • 採用
  • 営業

が絡んでいます。

広報担当だけに、

「上手い文章で炎上を止めてくれ」

と言っても解決しません。

事実が悪ければ、文章だけでは炎上は止まりません。

よくある失敗① 「法的措置を取る」と先に宣言する

強い姿勢は示せます。

しかし、一部事実が確認された場合、会社側の印象をさらに悪くする可能性があります。

よくある失敗② 完全放置する

一時的な悪口なら沈静化を待つ選択肢もあります。

しかし採用や顧客に影響が出ている段階では、事実確認と説明が必要です。

よくある失敗③ まず投稿者を探す

結果として、社内に「告発者を探す会社」という空気を作る可能性があります。

よくある失敗④ 全部認めて謝罪する

改善姿勢は重要です。

しかし未確認の内容や虚偽部分まで認める必要はありません。

私ならこう進める


問題投稿・引用投稿・転載を保存する
↓
投稿内容を一文ずつ分類する
↓
残業代・退職者対応・ハラスメントを独立して調べる
↓
公式発信は事実確認中であることに留める
↓
明確な権利侵害部分は削除請求等を検討する
↓
発信者情報開示が必要な投稿を絞る
↓
社内の犯人探しを先行させない
↓
採用候補者・取引先へ個別に説明する
↓
確認された社内問題を是正する
↓
内部通報・労務・SNS危機対応を連動させる

実務上のチェックポイント

  • 問題投稿全文
  • 投稿URL
  • 投稿日時
  • 引用投稿
  • 転載先
  • 投稿者の過去投稿
  • 内部情報らしい記載
  • 時間外労働の実態
  • 固定残業代制度
  • 残業代の追加精算履歴
  • 退職者とのやり取り
  • 退職後の担当変更理由
  • ハラスメント相談記録
  • 管理職への聞き取り
  • 現社員からの労務相談
  • 内部通報制度
  • 採用辞退件数
  • 面接キャンセル件数
  • 取引先からの問い合わせ
  • 公式SNS投稿内容
  • 削除申請の対象とする記載
  • 発信者情報開示を検討する記載
  • 社内ログ調査の必要性
  • 社員への説明方法

経営者に確認したい一つの質問

私は、このようなSNS誹謗中傷問題では、最後にこう聞きます。

「その投稿を今日削除できたとしても、同じ内容を明日また別の社員に書かれませんか?」

答えが、

「また書かれるかもしれない」

なのであれば、問題はSNSだけではありません。

会社の中に原因が残っています。

なぜ法律だけでは解決できないのか

SNSの誹謗中傷には、削除請求、発信者情報開示、名誉・信用の侵害などの法的論点があります。

しかし、投稿を法的に削除できても、社内問題が残れば企業価値は回復しません。

反対に、会社側に問題が一部あったからといって、虚偽の中傷をすべて我慢する必要もありません。

必要なのは、

  • 法的対応
  • 社内調査
  • 労務改善
  • 採用対応
  • 取引先対応
  • 広報
  • 組織文化

を同時に見ることです。

重要なのは、投稿者に勝つことではなく、会社として説明できる事実を作ることです。

まとめ|SNS投稿削除より先に「書かれた原因」を確認する

SNSで会社への誹謗中傷や「ブラック企業」という匿名投稿が拡散した場合、私は最初から発信者を特定しません。

また、事実確認前に「完全なデマです」と全面反論することもしません。

まず投稿を保存します。

次に内容を分類します。

確認できる事実なのか。

虚偽の可能性が高いのか。

意見・評価なのか。

未確認情報なのか。

そして、会社の内部事情を独立して調査します。

その上で、明確な権利侵害は削除請求や発信者情報開示を検討し、本当に会社側に問題があれば改善します。

このケースの本当の問いは、「匿名投稿を削除できるか」ではありません。

その投稿を削除しても、書かれた原因が会社の中に残っていないかです。

私は、それがSNS炎上・誹謗中傷への対応で最初に確認すべき経営課題だと考えます。


※本記事は、SNS上の誹謗中傷、Xの投稿削除、発信者情報開示、企業炎上、労務問題等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における投稿削除や発信者情報開示の可否、法的責任を示すものではありません。実際の対応は、投稿内容、事実関係、権利侵害の内容、社内状況、プラットフォームの運用その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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