
一人親方の事故で、会社が最初に見るべきもの
2026.09.16
「一人親方だから会社の労災ではない」と決めるのは早い
建設業では、一人親方や個人事業主の職人と一緒に現場を回している会社は珍しくありません。
契約書は業務委託。
本人も請求書を出している。
確定申告も自分でしている。
だから会社としては、
「社員ではなく、独立した事業者だ」
と考えています。
ところが、その人が現場で大きな事故に遭った瞬間、それまで見えていなかった問題が一気に表面化することがあります。
私は、この場面で最初に見るべきなのは、契約書のタイトルではなく、実際の働かせ方だと考えます。
相談事例
ある内装・設備工事会社を想定します。
年商は約7億円。
社員だけでは施工人員が足りず、複数の一人親方へ継続的に仕事を依頼しています。
その一人、38歳の電気工事職人が、深夜の商業施設改装工事中に脚立から転落しました。
頭部を強打し、複数箇所を骨折。
復帰時期は分かりません。
会社は当初、
「一人親方なので会社の労災ではない」
と考えました。
しかし働き方を確認すると、事情は単純ではありませんでした。
- 仕事の約85%がこの会社
- 集合時間を会社が指定
- 作業内容と順番も現場監督が指示
- 報酬は稼働日数×日当
- 会社の工具を一部使用
- 会社ロゴ入りの作業服を着用
- 他社の仕事を入れると注意される
- 社員と同じ朝礼に参加
形式は一人親方でも、働き方はかなり社員に近い状態でした。
この問題の本質
私は、この問題の本質は、
「この人が労働者か、一人親方か」だけではない
と考えます。
事故をきっかけに問われるのは、会社がこれまで、
「社員にすると固定費が重い」
「外注なら柔軟に使える」
という理由で、人員配置を設計していなかったかです。
もし実態として社員とほぼ同じ働き方をさせながら、事故、社会保険、残業、休業などのリスクだけ本人側へ置いていたのであれば、問題は一人の契約ではありません。
会社の人員戦略そのものの問題です。
よくある失敗① 契約書だけを見て結論を出す
契約書に、
「受託者は自己の裁量と責任で業務を遂行する」
と書いてある。
だから大丈夫。
私は、そうは考えません。
実際には毎朝集合時間を指定し、現場監督が、
「午前中はこれ」
「午後はこれ」
と作業順序まで決めていたとします。
他社の仕事を入れれば注意され、自由に代わりの職人を連れてくることもできない。
そうであれば、契約書と現場実態が食い違っています。
紙より現場を見る。
これが最初です。
よくある失敗② 事故のときだけ「外注」と言う
平常時は、社員と同じように朝礼へ参加してもらう。
時間も工程も指定する。
急な休日出勤も頼む。
それなのに事故が起きた瞬間、
「あなたは個人事業主なので会社とは別です」
と言えば、本人や家族が納得できないのは当然です。
法律上の結論がまだ出ていなくても、会社としての初動は取れます。
私は、
「契約実態を確認しています。必要な手続を整理し、会社側の窓口を一本化します」
と伝えます。
責任を先に認める必要はありません。しかし救済を止める必要もありません。
事故そのものの安全問題も別に見る
今回の事故では、本来、高所作業台を使う予定でした。
ところがレンタルが間に合わない。
工期も動かせない。
そこで、
「その部分だけ脚立で先にやれないか」
という話になっています。
ここで私は、労働者性とは別に、安全管理を検証します。
一人親方であろうと社員であろうと、
「工期を守るために、本来予定していた安全な作業方法を変えていなかったか」
は重要だからです。
契約形態を議論している間に、安全問題を見落としてはいけません。
「波及するから認めない」は危険です
経営者が最も怖がるのは、
「この人を労働者と扱ったら、他の一人親方も全部同じことを言い出すのではないか」
という点です。
私は逆に考えます。
波及する可能性があるなら、なおさら早く調べるべきです。
Cさんだけ特別扱いして終わらせても、他に同じ働き方をしている人がいれば問題は残ります。
そして次に事故が起きれば、
「前回の事故後も何も変えていなかった」
という話になります。
契約書を書き直すだけでは解決しない
事故後によくあるのが、
「業務委託契約書をもっと厳密にしよう」
という対応です。
しかし私は、それだけでは不十分だと思います。
契約書に、
「時間の拘束はありません」
と書いても、毎朝7時45分集合なら意味がありません。
「作業方法は本人の裁量」
と書いても、監督が毎日細かく指示しているなら同じです。
契約を直すなら、働き方も直す。
ここまでやらなければ実態は変わりません。
本当の外注と、実質的な社員を分ける
私は、一人親方を使うこと自体が問題だとは考えません。
本当に独立した事業者として、
- 仕事を断ることができる
- 自分で作業方法を決める
- 他社案件も自由に受ける
- 自分の工具を使う
- 工程単位で仕事を請ける
- 利益も損失も自分で負う
のであれば、社員とは性質が違います。
一方、会社側が毎日人員として配置し、勤務日、時間、仕事の中身まで管理するのであれば、社員として雇用する方が実態に合うことがあります。
全員を社員にするのでも、全員を外注にするのでもなく、実態に合わせる。
これが重要です。
事故をきっかけに、本当の原価を見る
会社側には、
「社員化すると社会保険や残業代で採算が合わない」
という感覚があります。
しかし私は、そのときこそ原価を見直します。
本当に社員化すると採算が合わないのか。
それとも今まで、
- 社会保険
- 残業
- 休業
- 安全管理
- 教育
といった、本来事業運営に必要なコストが見えていなかっただけなのか。
ここを分けます。
安く使えていたのではなく、本来の労務コストを外に出していただけというケースもあります。
元請への説明は「結論」ではなく「行動」を伝える
元請から、
「その人は社員なのか」
「労災はどうなっているのか」
と聞かれたとき、慌てて、
「社員ではありません」
と押し切る必要はありません。
私なら、
「契約上は個人事業主ですが、勤務実態も含め確認しています」
とします。
そのうえで、
- 事故現場を保全している
- 高所作業方法を見直している
- 一人親方の保険加入状況を再点検している
- 他の同様の働き方についても調査している
と説明します。
会社に都合のいい結論を先に出すより、何を調べ、何を止め、何を直しているかを示す方が信用を守れます。
管理職一人を悪者にしても終わらない
事故後、工事部長が、
「細かく指示したと取られないよう説明してくれ」
と現場へ話した疑いがあります。
これは重大です。
必要であれば調査への関与を外し、資料や関係者への働きかけを止めます。
しかし私は、すぐに、
「この工事部長だけが悪かった」
とは整理しません。
外注化を進めたのは誰か。
総務から警告を受けていたのに放置したのはなぜか。
工期優先の判断を会社全体でしていなかったか。
一人を処分すると、会社の仕組みの問題が隠れることがあります。
法律だけでは解決できない理由
労働者性。
労災保険。
安全衛生。
未払残業。
社会保険。
もちろん重要です。
しかし、この問題を本当に解決するには、
「誰を社員として抱えるのか」
「どこからを本当の外注にするのか」
という経営判断まで戻る必要があります。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
そして会社を守るとは、過去の契約書を守り抜くことではありません。
実際の働き方と契約を一致させ、事故が起きても説明できる会社に変えることです。
実務上のチェックポイント
- 仕事を断る自由があるか
- 集合時間を誰が決めているか
- 作業順序を誰が決めているか
- 作業方法を細かく指示しているか
- 報酬は成果払いか日当払いか
- 他社仕事を自由に受けられるか
- 代替の職人を使えるか
- 工具や材料を誰が負担するか
- 会社ロゴの服を使用しているか
- 売上の何%を1社へ依存しているか
- 一人親方の特別加入状況
- 高所作業の安全基準
- 事故時の指揮命令系統
- 他の一人親方の勤務実態
- 社員職人との働き方の違い
- 社員化した場合の本当の労務原価
私ならこう進めます
被災者と家族の窓口を確保する
↓
事故現場と関係資料を保全する
↓
危険な高所作業を止める
↓
契約名称を外して働き方を確認する
↓
労働者性を客観的に検証する
↓
同じ方法で他の一人親方も点検する
↓
元請へ事実と現在の対応を報告する
↓
本当の外注と雇用に近い人を分ける
↓
契約だけでなく働き方を修正する
↓
職人確保と人件費の仕組みを作り直す
まとめ
私は、一人親方が現場で事故に遭ったとき、最初に契約書を開いて、
「業務委託だから会社とは別だ」
とは考えません。
先に見るのは、
その人が実際にどう働いていたか
です。
時間は誰が決めていたのか。
仕事は断れたのか。
作業方法は自分で決められたのか。
他社でも自由に働けたのか。
会社の人員として使われていなかったか。
事故は、ときに、それまで曖昧にしていた会社の人員政策を表面化させます。
契約書を見る前に、働き方を見る。
そしてCさん一人の問題として終わらせず、同じ仕組みで働く人全体を見直す。
私は、それがこのケースでの最初の一手だと考えます。
※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における労働者性、労災保険、労働安全衛生、未払賃金、社会保険、税務その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、契約内容、指揮命令の実態、報酬、専属性、設備負担、作業状況その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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