
不動産売却の直前に雨漏りや越境が発覚したらどうするか|引渡し前の告知と契約不適合リスク
2026.10.01
不動産の引渡し直前に問題が見つかったら、売却を止めるべきなのか
収益不動産の売却では、契約締結後、決済直前になって問題が見つかることがあります。
雨漏り。
排水トラブル。
境界や越境。
過去の修繕履歴。
テナントからのクレーム。
ここで売主として悩むのが、
「どこまで買主へ説明するべきなのか」
という問題です。
全部説明すれば値下げされるかもしれない。
決済が延期されれば、次の不動産取得にも影響する。
一方で、説明を抑えて決済した後に、
「売主は知っていたのではないか」
と言われれば、さらに大きな問題になります。
私は、この場面では、
「全部直してから売る」か「できるだけ言わずに売る」かの二択にしないこと
が重要だと考えます。
相談事例|3億1,800万円の一棟マンション、決済3週間前に問題発覚
ある不動産会社を想定します。
保有している一棟収益マンションを、投資会社へ3億1,800万円で売却する契約を締結しました。
手付金も受領済み。
決済予定まではあと3週間です。
ところが決済直前になって、
- 隣地への越境の可能性
- 過去の雨漏りらしき履歴
- 1階店舗の排水トラブル
- 結露・カビのクレーム
- 修繕履歴の記載漏れ
が出てきました。
さらに会社は、この売却代金を使って次の収益物件を購入する予定です。
つまり売却が遅れると、次の取得資金まで崩れる可能性があります。
この問題の本質は「告知するか、隠すか」ではない
私は、この問題の本質は、
「説明するか、しないか」だけではない
と考えます。
重要なのは、
何が確定しているのか。
何がまだ疑いなのか。
どの問題が買主の投資判断に影響するのか。
そして、それぞれのリスクを、修繕・値引き・追加調査・契約条件へどう変換するのか。
ここです。
まず「確定している事実」と「未確定事項」を分ける
今回の雨漏りでいえば、
過去に最上階住戸で天井シミがあった。
防水やコーキング補修をした。
これは確認できる事実です。
一方で、現在も雨漏りが続いているかは確定していません。
越境についても同じです。
隣地所有者から指摘があった。
簡易確認では数センチ程度越境している可能性がある。
しかし正式測量はまだ。
これなら、
「越境しています」
と断定する必要はありません。
ただし、
「確定していないから何も言わない」
という処理も危険です。
分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて説明する。
私はこれが最初の一手だと考えます。
「現況有姿だから大丈夫」とは限らない
不動産売買では、
「現況有姿だから問題ない」
という言葉を聞くことがあります。
しかし、現況有姿という文言があるだけで、雨漏り、越境、排水問題などについて何も考えなくてよいわけではありません。
契約不適合責任をどこまで制限しているのか。
売主が認識している事実をどう扱うのか。
個別の告知条項がどうなっているのか。
契約書全体を見る必要があります。
特に今回のように、契約後、引渡し前に新しい事実を把握した場合は、
「契約締結時には知らなかった」と「今も説明しなくてよい」は別問題
として考えた方がよいでしょう。
雨漏りは「今漏れているか」だけで判断しない
営業担当者としては、
「今は水が落ちていない」
と言いたくなるかもしれません。
しかし収益不動産の買主が見ているのは、現在の症状だけではありません。
将来いくら修繕費がかかるのか。
再発可能性はあるのか。
入居者対応が必要なのか。
賃料収入に影響するのか。
そこを見ています。
今回、全面防水なら650万~900万円程度かかる可能性があります。
であれば、
「雨漏りがある・ない」
という二択ではなく、
将来の修繕リスクを誰が負担するか
という交渉に変えることができます。
越境が確定するまで決済を止める必要はあるのか
正式測量には3~4週間。
決済には間に合いません。
この場合、必ず売買を延期しなければならないとは限りません。
例えば、
- 越境の可能性を追加開示する
- 決済後に正式測量する
- 越境が判明した場合の処理方法を決める
- 隣地との覚書取得を誰が行うか決める
- 一定額を売買代金から留保する
といった方法があります。
不確定要素をゼロにするのではなく、
不確定なままでも取引できる条件へ変える
という考え方です。
よくある失敗① 値下げを恐れて情報を小さく扱う
営業部から見れば、
「全部言えば値下げされる」
という不安があります。
それは当然です。
しかし、決済前の数百万円の値下げを避けるために、引渡し後に数千万円規模の紛争を作れば意味がありません。
さらに、
「雨漏り履歴を知っていたのに説明しなかった」
「越境指摘を受けていたのに黙っていた」
という評価になれば、金額だけでなく会社の信用にも影響します。
私は、
値下げを損失と考えるのではなく、将来リスクを確定価格へ変換するコスト
として見る場合もあります。
よくある失敗② 逆に全部直してからでないと売れないと考える
反対に、慎重になりすぎて、
「防水工事も測量も排水調査も全部終わるまで決済しない」
とする必要もありません。
買主がリスクを理解した上で、価格や条件を調整して購入するのであれば、取引を維持できる可能性があります。
重要なのは、
売主だけで「これは大した問題ではない」と決めないこと。
同時に、
問題があるから取引不可能だと決めつけないこと。
です。
次の物件取得が、今の売却判断を歪めていないか
今回、会社はこの売却代金を使って次の4億円超の物件を取得する予定です。
すでに5,000万円の手付金まで支払っています。
この状況になると、
「今回の売却は絶対に予定どおり決済しなければならない」
という心理になります。
すると、雨漏りも越境も、無意識に小さく見積もってしまいます。
私は、このような場合こそ、次の物件について、
- 短期借入
- ブリッジ資金
- 決済日の変更
- 取得条件の再調整
などを検討します。
資金繰りの逃げ道を作ることで、売却側の判断を冷静にする。
これも経営判断です。
仲介会社に全部任せない
仲介会社が入っていると、
「説明は仲介会社に任せている」
となりがちです。
しかし、売主自身が把握した情報まで丸投げするのは危険です。
誰が何を説明したのか。
買主は何を認識したのか。
どこまで契約条件へ反映したのか。
ここは売主側でも記録しておく必要があります。
私ならこう進めます
物件の問題点を一覧化する
↓
確定事実と未確定事項に分ける
↓
写真・修繕記録・業者報告を保存する
↓
売買契約の特約・告知条項を確認する
↓
買主へ追加情報を整理して開示する
↓
買主が問題視する項目を確認する
↓
修繕・値引き・代金留保・追加調査を項目別に協議する
↓
決済を維持できる条件を文書化する
↓
並行して次物件の代替資金を確保する
実務上のチェックポイント
- 売買契約書の現況有姿条項
- 契約不適合責任の制限内容
- 売主告知条項
- 雨漏り・漏水履歴
- 過去の防水工事
- 現在の防水状態
- 排水トラブル履歴
- テナントからのクレーム
- 隣地からの越境指摘
- 過去の測量資料
- 越境可能部分の位置
- 隣地所有者の意向
- 修繕履歴の記載漏れ
- 買主へ既に説明した内容
- 仲介会社が説明した内容
- 追加調査に必要な期間
- 想定修繕費
- 値引き可能額
- 売買代金留保の可否
- 決済延期時の実際の財務影響
なぜ法律だけでは解決できないのか
不動産売買では、契約不適合責任、告知、現況有姿、越境、境界など法的論点は重要です。
しかし、法律だけで、
「決済を続けるべきか」
「値引きはいくらまで認めるか」
「次の物件取得をどうするか」
までは決まりません。
法律上のリスク。
売却価格。
決済スケジュール。
次の投資。
会社の信用。
これらをまとめて判断する必要があります。
重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。
まとめ|不動産の問題は「隠す」のではなく「条件に変える」
私は、不動産売却の引渡し直前に雨漏りや越境、排水トラブルが発覚したとき、すぐ売却を止めるとは考えません。
一方で、確定していないから説明しない、という判断もしません。
まず、
何が事実なのか。
何が未確定なのか。
どの程度の費用が想定されるのか。
買主の投資判断に影響するのか。
そして、修繕、値引き、代金留保、追加調査のどれで処理するのか。
を整理します。
問題を全部なくして売るのでも、問題を隠して売るのでもない。
問題を価格と契約条件に変換して、それでも売れるかを考える。
私は、それが不動産売却で問題が発覚したときの実務的な判断だと考えます。
※本記事は、不動産売却における雨漏り、漏水、越境、境界、契約不適合、告知、現況有姿等について、一般的な経営上の考え方を整理したものです。個別案件における法的判断を示すものではありません。実際の対応は、売買契約の内容、売主・買主の属性、物件状況、特約、修繕履歴、境界関係その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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