閉店だから退職、ではない。人を減らす前に会社が考えること

2026.09.19

店舗を閉めることと、その店長に辞めてもらうことは別です

赤字店舗を閉鎖する。

これは中小企業にとって珍しい経営判断ではありません。

問題は、その次です。

店がなくなる。

店長ポストもなくなる。

だから、その店長にも辞めてもらおう。

一見すると自然な流れに見えます。

しかし私は、ここを一度分けて考える必要があると思います。

店舗を閉鎖する必要性と、その社員の雇用を終了させる必要性は、同じではないからです。

相談事例

ある眼鏡・補聴器専門店を想定します。

10店舗を展開していますが、郊外型2店舗の赤字が続き、8店舗体制へ縮小することになりました。

閉店予定店舗の店長は51歳。

勤続23年です。

現在の月給は約46万円。

DX対応や売上管理は得意ではありません。

一方で、接客力と顧客維持については高い評価を受けています。

高齢の固定客も多く、

「この店長だから買っている」

という顧客もいます。

社長は店舗閉鎖を機に、

「高給でもあるし、今のうちに退職してもらいたい」

と考えています。

しかし本人は、

「店がなくなっても、他店で働きたい」

と希望しています。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、

「退職金をいくら上乗せすれば辞めてもらえるか」ではない

と考えます。

先に整理するべきなのは、

  • 本当に配置できる仕事がないのか
  • 店長でなくなれば、どんな仕事なら任せられるのか
  • 給与を下げるなら、職務との関係で説明できるのか
  • 過去の閉店時に他の社員をどう扱ったか
  • 年齢や給与が人選に影響し過ぎていないか
  • 退職した場合に顧客がどれだけ離れるのか

です。

これを確認しないまま退職勧奨へ進むと、

「店舗閉鎖を利用して、年齢の高い社員を整理した」

という話に見えやすくなります。

よくある失敗① 閉店と同時に退職勧奨する

社長からすると、同時に進めた方が効率的です。

店舗閉鎖を発表する。

その場で、

「あなたのポストもなくなるので、退職してもらいたい」

と伝える。

しかし本人から見ると、選択肢がありません。

特に今回、本人は他店舗での継続勤務を希望しています。

私は、まず、

「店舗は閉鎖する。しかしあなたの雇用については別に検討する」

と分けて説明します。

よくある失敗② 後から「能力不足だった」と言い始める

退職してもらいたいと思うと、会社は過去の欠点を集め始めます。

DXが弱い。

数字に弱い。

訪問販売が苦手。

確かに問題はあります。

しかし直近3年間の総合評価は毎年B。

賞与も通常どおり。

接客と顧客維持はA評価です。

それなのに店舗閉鎖が決まった途端、

「実は能力的に厳しかった」

と説明を変えると、過去の人事評価との整合性が取れません。

退職させたいから理由を探すのではなく、これまで会社がどう評価してきたかを見るべきです。

「高給だから辞めてもらいたい」は経営判断として十分か

51歳で月給46万円。

一般販売員になれば30万円台前半。

会社側から見れば、人件費差は大きい。

しかし私は、給与だけでは見ません。

この人が持つ固定客。

補聴器利用者との関係。

アフターサービス能力。

閉店顧客の引継ぎ。

これらに価値があるなら、その能力を別の職務へ移せないかを考えます。

給与が高いかどうかは、その人が生み出せる価値との比較で考える必要があります。

顧客フォロー専門職という選択肢

例えば、店長を続けてもらう必要はありません。

管理職能力と接客能力は別だからです。

私なら、

  • 閉店店舗の顧客引継ぎ
  • 補聴器メンテナンス
  • 高齢者への訪問対応
  • 休眠顧客の掘り起こし
  • 若手への接客技術の伝承

などを担う専門職を検討します。

これなら、会社が必要としている強みを残しながら、店長ポストを減らすことができます。

重要なのは、

今の役職がなくなることと、その人の価値がなくなることを混同しないこと

です。

給与を下げれば自主的に辞めるだろう、は危険です

社長から、

「一般社員にして給料を10万円以上下げれば、本人も辞めるだろう」

という話が出ることがあります。

私は、この目的設定は避けます。

職務が変わる。

責任が下がる。

給与体系上、一定の変更が必要になる。

そういう説明なら理解できます。

しかし、

辞めさせるために処遇を悪くする

という発想になると、問題の性質が変わります。

処遇変更をするなら、職務・責任・社内基準との整合性から説明できる形にすべきです。

過去の扱いとの一貫性も重要です

今回の会社では、2年前にも店舗を閉鎖しています。

そのときの店長は、副店長として別店舗へ異動しました。

社員から見れば、これが会社の前例です。

今回だけ、

「店を閉めるから退職」

とすれば、当然、

「前回と何が違うのか」

という疑問が出ます。

私は、個別判断をしてはいけないとは思いません。

しかし、

なぜ今回は違う扱いなのかを説明できること

が重要です。

若い店長は残して、年上の店長だけ辞めてもらうとどう見えるか

もう一方の閉店予定店舗の店長は39歳。

本部への異動が予定されています。

一方、51歳の店長には退職勧奨。

会社にはそれぞれ事情があるでしょう。

しかし社員から見えるのは結果です。

「若い人は残る」

「年齢が高くなると切られる」

そう受け取られれば、40代社員にも不安が広がります。

人事判断は対象者本人だけではなく、

残る社員へのメッセージ

でもあります。

退職勧奨を選択肢にするのは、その後です

配置可能性を検討した。

専門職も考えた。

処遇も試算した。

本人の希望も確認した。

それでも双方が納得できる配置がない。

そこで初めて、私は退職という選択肢を出します。

その場合には、

  • 退職時期
  • 退職金の上乗せ
  • 有給休暇
  • 顧客引継ぎ期間
  • 社内外への説明

を具体化します。

こうすれば、

「会社に追い出された」

という話ではなく、

雇用継続案と退職案を比較した結果として本人が判断する余地

を作れます。

法律だけでは解決できない理由

退職勧奨。

配置転換。

賃金変更。

整理解雇。

もちろん法的な確認は重要です。

しかし、この問題の本質は、

「退職勧奨ならどこまで言ってよいか」

ではありません。

会社が本当に考えるべきなのは、

赤字店舗を閉めながら、必要な人材と顧客価値をどこまで残せるか

です。

店舗再編は固定費削減のために行います。

しかし固定費を削る過程で、顧客や社員の信頼まで切ってしまえば、別の損失が生まれます。

実務上のチェックポイント

  • 店舗閉鎖の経営上の必要性
  • 閉店対象店舗の損益
  • 本人の過去評価
  • 継続勤務の意思
  • 就業規則上の配置転換
  • 勤務地・職種限定の有無
  • 他店舗の欠員
  • 本部職の可能性
  • 顧客フォロー専門職の採算
  • 固定客・補聴器顧客の規模
  • 役職変更後の給与制度
  • 過去の閉店時の人員対応
  • 他の閉店対象社員とのバランス
  • 年齢が判断へ影響していないか
  • 退職した場合の顧客離れ
  • 退職金上乗せの基準

私ならこう進めます


店舗閉鎖の判断を確定する

店舗閉鎖と個人の雇用を分ける

本人の継続勤務意思を確認する

全社で配置先を探す

本人の強みを使える職務を設計する

職務に応じた処遇を検討する

過去の人事運用との一貫性を確認する

本人へ複数の選択肢を示す

雇用継続か合意退職かを話し合う

顧客・社員への説明を整える

まとめ

私は、店舗閉鎖を決めたとき、

「店がなくなるから、その店長にも辞めてもらおう」

とは考えません。

店舗を閉める必要があること。

その社員を辞めさせる必要があること。

これは別々に確認するべきです。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

そして会社を守るというのは、単純に人件費を減らすことではありません。

不要になったポストをなくしながら、まだ会社に残せる能力や顧客関係まで捨てないことです。

退職条件を考える前に、残れる条件を本当に検討したのか。

私は、それを確認することが最初の一手だと考えます。


※本記事は中小企業経営における一般的な考え方を整理したものであり、個別案件における退職勧奨、配置転換、賃金変更、整理解雇その他の法的判断を示すものではありません。実際の判断は、就業規則、雇用契約、過去の人事運用、配置可能性、本人との協議経緯その他の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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