インフルエンサーのステマ疑惑が発覚したら、会社は何を止めるべきか|景品表示法・PR表記・広告代理店管理の実務

2026.11.07

インフルエンサーのステマ疑惑が発覚したら、会社は何を止めるべきか

執筆:弁護士 宮本 真志

取扱分野:マーケティング法務/広告表示/景品表示法/企業法務

ステマ疑惑が発覚したとき、最初に何をすべきですか?

結論① 問題のあるインフルエンサー1人だけを切って終わらせないことです。

結論② 広告性が分かりにくい高リスク投稿を先に止め、過去投稿を報酬・商品提供・成果報酬・広告主の関与ごとに分類します。

結論③ 最終的には「PRだと分かっても売れるマーケティング」に変える必要があります。

どのインフルエンサー投稿から確認すべきですか?

確認する投稿 危険サイン 最初の対応
固定報酬あり 「案件ではない」と表示している 最優先で停止・修正を検討
成果報酬型 広告であることが見えにくい 表示方法と投稿内容を確認
商品提供+投稿依頼 会社が表現内容まで誘導している DM・指示内容まで確認
商品提供のみ 今後の取引を示唆して投稿を促している 投稿者の自主性を個別確認
純粋な自主購入投稿 広告主の関与が確認できない 他の案件と分けて判断

今回の相談では何が起きていたのでしょうか?

あるD2C化粧品メーカーでは、インフルエンサーマーケティングが急成長していました。

新商品の美容液は月商約4,000万円。

そのうち半分以上がインフルエンサーやアンバサダー経由です。

ところが、ある美容系インフルエンサーがSNSで、

「案件じゃないけど、最近これしか使ってない」

と投稿していました。

実際には、そのインフルエンサーには商品提供だけでなく、投稿報酬と成果報酬も支払われていました。

さらに問題だったのは、会社内部のSlackです。

マーケティング担当から広告代理店へ、

「PR感が出ると売れないので、なるべくレビューっぽく」

というメッセージが残っていました。

会社としては「インフルエンサーが勝手に書いた」と説明したい。

しかし実態を調べると、広告主自身が「広告らしく見せない方向」に関与していた可能性がある。

私は、この状況で問題のインフルエンサー1人だけを切る対応は危険だと考えます。

なぜ「問題投稿だけ削除」では足りないのでしょうか?

問題は、1件の投稿ではありません。

会社全体のマーケティング運用が、

「広告だと分かりにくい投稿ほどCVRが高い」

という成功体験に引っ張られているからです。

実際にこの会社では、「#PR」が目立つ投稿より、広告表示が目立たない投稿の方がCVRが約1.8倍高いという社内データがありました。

その結果、少しずつ表示が後ろへ移り、動画内では表示せず説明欄の末尾だけに置く、といった運用へ変わっていました。

ここでEさんの投稿だけ削除しても、同じKPI、同じ代理店、同じ評価制度が残っていれば、別のインフルエンサーで同じ問題が発生します。

景品表示法のステマ規制では何を確認するのでしょうか?

いわゆるステルスマーケティングは、2023年10月から景品表示法上の不当表示の対象になっています。

ただし、私は実務上、単純に、

「商品を無料で渡した=ステマ」

「報酬を払った=即違反」

という見方はしません。

確認するのは、広告主と投稿者との実際の関係です。

例えば、会社が投稿を依頼したのか。

どのような表現を求めたのか。

投稿前に内容を確認したのか。

固定報酬や成果報酬があるのか。

今後の案件提供を期待させる関係だったのか。

こうした事情から、投稿が本当にインフルエンサー本人の自主的な意思によるものなのかを見ます。

重要なのは「#PRという文字があるか」だけではなく、一般の消費者から見て広告だと分かる状態になっているかです。

「#PR」を付ければ問題は全部解決しますか?

私は、そうは考えません。

例えば長文投稿の一番下、「続きを読む」のさらに先に小さく「#PR」と書いてある。

TikTok動画自体には広告表示がなく、説明欄の末尾にだけ「提供」と書いてある。

これでは、形式的に文字が入っていることと、消費者が広告だと認識できることは別問題です。

だからこそ、投稿ごとに、

「この表示を普通の消費者が見たとき、最初から広告だと分かるか」

という視点で確認する必要があります。

化粧品ではPR表記以外に何を確認すべきですか?

今回の商品は化粧品です。

そのためステマ規制だけ見ても不十分です。

インフルエンサーが、

「肌が生まれ変わった」

「これを使えば治る」

など、化粧品として認められる範囲を超える効能・効果を発信していないかも確認する必要があります。

広告だと明確に表示されていても、広告内容そのものに問題があれば別のリスクが残ります。

私はマーケティング法務を見るとき、

「広告だと分かるか」と「広告内容が適切か」を必ず分けて確認します。

広告代理店に任せていれば広告主は安全なのでしょうか?

これも危険な考え方です。

実際の運用を広告代理店へ委託すること自体は一般的です。

しかし、広告主自身が、

「なるべくレビューっぽく」

と指示していた場合、後から「代理店がやったことです」と説明しても説得力はありません。

だから私は、インフルエンサー施策では、少なくとも、

  • 誰にいくら払っているか
  • 何を提供しているか
  • どんな投稿を依頼しているか
  • 誰が投稿を承認したか
  • 広告表示をどのように確認したか
  • 問題発生時に誰が修正させるか

を広告主側で把握できる状態にします。

売上が落ちてもインフルエンサー施策を全部止めるべきですか?

私は、全面停止を最初の選択にはしません。

今回、インフルエンサー経由の売上は月約2,200万円あります。

全部を3か月停止すれば、会社への影響は大きいでしょう。

一方、このまま続ければ、年間約1億円規模の小売商談やブランドそのものに影響する可能性があります。

そこで、私は投稿をリスク別に分けます。

赤:広告であることを否定している、報酬がある、広告主の関与が強い。

これは最優先で停止・修正します。

黄:商品提供や投稿依頼があり、表示方法が分かりにくい。

優先的に確認します。

緑:広告であることが明瞭で、内容についても確認済み。

継続候補です。

法律リスクを理由にマーケティングそのものを壊すのではなく、危険な部分から切り離します。

マーケティング部長を処分すれば再発防止になるのでしょうか?

今回、マーケティング部長は「#PRを冒頭に表示」というマニュアルを削除していました。

責任がまったくないとはいえません。

しかし私は、個人の責任追及だけで終わらせるのも危険だと考えます。

会社自身がCVR、ROAS、売上を強く評価し、

「PR感が薄い方が売れる」

という結果を成功として扱ってきたからです。

つまりこれは、担当者個人だけではなく、

会社のKPIが組織を危険な方向へ動かした問題

でもあります。

では、私ならどの順番で立て直しますか?

最初に問題投稿、代理店とのチャット、社内Slackを保存します。

次に、高リスクな新規投稿だけを一時停止します。

過去投稿を、固定報酬、成果報酬、商品提供、自主投稿に分類します。

「案件ではない」など明らかに実態と矛盾する投稿から修正します。

同時に、広告代理店任せだった承認権限を広告主側へ戻します。

そして一番重要なのは、その後です。

「PR表示を明確にしたらどれだけ売上が落ちるか」ではなく、「PR表示が明確でも売れる広告をどう作るか」をテストします。

ここまでやって初めて、マーケティング法務が単なるブレーキではなくなります。

このケースで経営者が確認すべき一番重要な質問は何ですか?

私は、こう聞きます。

「広告だとはっきり分かった状態でも、この商品を買いたいと思ってもらえますか?」

もし答えが「広告だと分かったら売れない」なのであれば、問題はPR表記ではありません。

商品の価値、クリエイティブ、口コミの作り方、ブランド設計のどこかに別の課題があります。

よくある質問(FAQ)

Q1.商品を無料提供しただけでもステマになりますか?

必ずそうなるわけではありません。投稿依頼、表示内容への関与、対価、継続的な取引関係などを含め、投稿者の自主的な意思による表示といえるかを具体的に確認します。

Q2.「#PR」を入れれば必ず大丈夫ですか?

文字を入れただけで自動的に問題がなくなるわけではありません。消費者が広告であることを明瞭に認識できる表示になっているかが重要です。

Q3.広告代理店が運用していた場合、広告主には関係ありませんか?

広告主側にも表示管理体制が必要です。代理店との役割分担、投稿承認、修正権限などを明確にする必要があります。

Q4.過去のインフルエンサー投稿も全部削除した方がいいですか?

一律削除ではなく、現在も閲覧・購入につながっているか、広告主の関与が強いか、広告性が明確かなどで優先順位を付けて確認する方が現実的です。

Q5.化粧品ならステマ規制だけ確認すればいいですか?

いいえ。化粧品の効能・効果に関する表現については、薬機法上の広告規制なども別途確認する必要があります。

Q6.売上が落ちてもコンプライアンスを優先すべきですか?

「売上か法務か」の二択にしないことが重要です。高リスク施策を止めながら、広告であることを明確にしたクリエイティブでCVRを改善するのが経営判断です。

まとめ|ステマ問題の本質は「#PRの位置」ではありません

インフルエンサーのステマ疑惑が発覚したとき、私は問題投稿だけを削除して終わらせません。

広告主の関与、報酬、商品提供、成果報酬、投稿指示を確認します。

そして高リスク投稿から停止・修正します。

同時に、広告代理店任せになっていた承認フローを広告主側へ戻します。

その上で、透明性を確保した広告でも売れるクリエイティブを作ります。

重要なのは、「#PRをどこに付ければいいか」ではありません。

広告だと分かっても買いたくなるマーケティングを作れるかです。

私は、これがインフルエンサーマーケティングにおける法務と経営を両立させる基本だと考えます。


この記事を書いた人

弁護士 宮本 真志

マーケティング法務、景品表示法、広告表示、SNS・インフルエンサーマーケティング、企業法務を取り扱う弁護士。

法律上の可否だけではなく、売上、ブランド、代理店管理、社内体制、炎上リスクなどを含め、「企業として何を優先して判断するべきか」という観点から広告・マーケティング上の問題を検討しています。


※本記事は、インフルエンサーマーケティング、ステルスマーケティング、景品表示法、化粧品広告等について一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別の投稿が法令違反に該当するかは、広告主の関与、投稿者との関係、報酬、商品提供、表示内容、媒体、契約関係等の具体的事情によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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