
内部告発後に社内チャットやファイルが削除されていたら、会社は何をすべきか|証拠保全・内部調査の進め方
2026.11.05
【結論】
内部告発後にSlackや業務ファイルが削除されていても、最初に社員を処分するべきではありません。
まず証拠の追加削除を止め、チャット、メール、ログ、バックアップ等を保全します。
その後に「誰が・いつ・何を知った後に・何を削除したのか」と、不正疑惑そのものを分けて調査することが重要です。
内部告発後に社内チャットが削除されていたら、何を最優先すべきか?
社内で不正を告発する匿名メールが届いた。
調べてみると、関係者のSlackメッセージや見積比較表が削除されていた。
しかも、告発があった後にも関連フォルダが消されていた。
このような状況になれば、経営者としては、
「証拠隠滅ではないか」
「すぐ懲戒処分にした方がいいのではないか」
と考えたくなると思います。
しかし私は、ここで最初に処分を決めるべきではないと考えます。
一番先に守るべきなのは、人ではなく証拠です。
どのような不祥事ケースだったのか?
ある卸売会社で、購買部長が特定の仕入先からリベートを受け取り、その見返りとして割高な仕入れを続けているという匿名通報が入りました。
対象となった仕入先への年間発注額は約1億1,000万円。
一部商品を確認すると、他社より4~9%程度高い可能性があります。
ただし、価格だけで不正とは判断できません。
納期、品質、ロット、欠品時対応など、合理的な理由が存在する可能性もあります。
問題は別のところにありました。
調査を始めようとすると、過去の見積比較表が消えていたのです。
Slackの一部メッセージも見つからない。
さらに、社長が購買部長本人へ不正疑惑について質問した日の夜、関連フォルダが追加で削除されました。
ここで会社は、非常に難しい判断を迫られます。
データを削除した社員は、すぐ懲戒処分にすべきか?
私は、まだ早いと考えます。
確かに、内部告発後のデータ削除は重大な事実です。
しかし現時点では、
- 本当に本人が削除したのか
- 通常のファイル整理だったのか
- 告発内容を知った後に削除したのか
- 誰かから削除を指示されたのか
- 何が削除されたのか
- 復元できるのか
が確定していません。
ここで「証拠隠滅だ」と決めつけてしまうと、後の調査自体の公平性まで疑われます。
調査対象者のアクセス権を制限することと、不正を認定して懲戒処分することは別です。
最初に保存すべき証拠は何か?
私なら、少なくとも次の情報について削除・上書きを止めます。
- Slackなどの社内チャット
- メール
- 共有フォルダ
- ファイル削除履歴
- アクセスログ
- バックアップ
- 見積書
- 相見積り資料
- 発注記録
- 仕入価格推移
- 仕入先評価表
- 経費精算記録
- 接待・贈答に関する記録
重要なのは、単にコピーすることではありません。
「いつの状態を、誰が、どのように保全したか」も管理します。
削除問題と不正疑惑は、どう分けて調査すべきか?
私は、少なくとも次の4つに分けます。
| 調査項目 | 確認する内容 | 最初の判断 |
|---|---|---|
| データ削除 | 誰が、いつ、何を削除したか | ログ・バックアップを保全 |
| 仕入価格 | 他社より高かった理由 | 価格だけで不正認定しない |
| 利益供与 | 接待・贈答・金銭等の有無 | 経費・関係者を個別調査 |
| 内部通報 | 誰まで情報を共有したか | 通報者情報を限定管理 |
「データを消したからキックバックも事実だ」と一つにつなげないことが重要です。
内部告発者を探してはいけないのか?
経営者としては、匿名メールが来ると、
「誰が書いたのか」
が気になると思います。
しかし私は、初動で通報者探しを始めるべきではないと考えます。
会社として知りたいのは、告発者の名前ではありません。
書かれている事実が本当かどうかです。
それにもかかわらず社員が、
「会社は犯人探しをしている」
と感じれば、今後、本当に重要な問題があっても誰も報告しなくなります。
不正を早く知るための仕組みを、会社自身が壊すことになります。
取引先との取引はすぐ止めるべきか?
これも一律ではありません。
今回の仕入先は重要な供給先です。
突然取引を全面停止すれば、必要な商品が入らず、顧客への供給に支障が出る可能性があります。
私は、
「不正疑惑があるから即全面停止」
でも、
「供給が必要だから何も変えない」
でもなく、
新規拡大や特殊条件を管理下に置きながら、必要な供給だけ継続する
という対応を検討します。
なぜ「本人に先に聞く」が危険なのか?
経営者は、長年一緒に働いた幹部であれば、
「まず本人に聞けばいい」
と思うかもしれません。
しかし今回、本人へ質問した後に関連フォルダが追加削除されています。
調査対象者へ詳しい告発内容を見せる前に、まず証拠を固定する必要があります。
本人への聞き取りは必要です。
ただし順番は、
証拠保全 → 客観資料の確認 → 関係者聴取 → 本人聴取
を基本に考えます。
この問題の本当の経営課題は何か?
私は、このケースの本質は購買部長一人の問題ではないと考えます。
仮に一人の幹部が、
- 仕入先を選べる
- 相見積りを省略できる
- 価格交渉を一人で管理できる
- 仕入先から接待を受けられる
- 関連資料も削除できる
状態なのであれば、会社の内部統制そのものに問題があります。
今回の人物が無実だったとしても、次の人物で不正が起こる可能性があります。
よくある失敗は何か?
1つ目は、最初に本人を問い詰めることです。
証拠保全前に調査情報を知らせると、証拠や関係者への働きかけが進む可能性があります。
2つ目は、削除=不正と決めつけることです。
削除行為の事実と、不正取引の事実は分けて認定する必要があります。
3つ目は、通報者を探すことです。
内部通報制度への信頼を失う可能性があります。
4つ目は、すぐ懲戒解雇することです。
会社として事実を確認し、処分の根拠を固めることが先です。
私なら、どの順番で対応するか?
追加削除・上書きを止める
↓
チャット・メール・ログ・バックアップを保全する
↓
調査対象者の必要な権限を一時制限する
↓
通報情報へのアクセス者を限定する
↓
仕入先との連絡窓口を変更する
↓
価格・発注・接待・利益供与を調査する
↓
データ削除の時系列を確定する
↓
関係者を聴取する
↓
本人を聴取する
↓
処分・損害回復・取引見直しを判断する
なぜ法律だけでは解決できないのか?
内部告発には公益通報者保護、不利益取扱い、秘密保持などの論点があります。
社員を懲戒する場合には、処分の合理性や相当性も問題になります。
しかし、法律上処分できるかどうかだけ考えても、この会社は立て直せません。
必要なのは、
- 証拠保全
- 調査の公平性
- 通報者保護
- 仕入継続
- 幹部との人間関係
- 内部統制
- 再発防止
を同時に見ることです。
重要なのは、誰を悪者にするかではなく、会社が事実を確認できる状態を守ることです。
経営者が最後に確認すべき質問は何か?
私は、このような社内データ削除・内部告発案件では、経営者にこう確認します。
「明日すべての関係者が『覚えていません』と言っても、会社は資料だけで何が起きたか説明できますか?」
説明できないのであれば、内部統制に課題があります。
内部告発後のデータ削除について、よくある質問は?
Q1.内部告発後にSlackを削除した社員は、すぐ処分できますか?
削除の事実だけで直ちに重い処分を決めるのではなく、削除者、時期、削除内容、本人の認識、社内ルールなどを確認してから判断することが重要です。
Q2.削除されたSlackやメールは復元すべきですか?
不正調査に関連する可能性がある場合は、まず追加削除を止め、利用サービスのログ・バックアップ・保存設定を確認します。
Q3.匿名通報者が誰なのか調査してもよいですか?
私は、原則として「誰が通報したか」より「通報内容が事実か」を優先します。通報者探索が社内に広がると、内部通報制度への信頼を損ねる可能性があります。
Q4.不正疑惑のある取引先とは、すぐ取引停止すべきですか?
供給への影響も確認します。新規取引や特殊条件を制限しながら必要な供給を続け、調査結果を踏まえて取引継続を判断する方法もあります。
Q5.会社はどのくらい社内チャットを保存しておくべきですか?
一律の期間ではなく、業務内容、紛争リスク、内部調査、個人情報、システムコストなどを踏まえて保存ルールを決めます。少なくとも「担当者が自由に消せるだけ」の状態は見直した方がよいでしょう。
まとめ|内部告発後のデータ削除で最初に守るものは何か?
内部告発後に社内チャットや業務ファイルが削除されていた場合、私は最初から社員を不正者扱いしません。
まず追加削除を止めます。
次に証拠を保全します。
そして、データ削除の問題と、本来の不正疑惑を分けて調査します。
このケースの本当の問いは、「誰が黒か」ではありません。
真実を判断するための証拠が、明日も残っているかです。
私は、これが内部告発や社内データ削除が発覚したときの最初の経営判断だと考えます。
※本記事は、内部告発、社内チャットやファイルの削除、証拠保全、内部調査等について、一般的な経営判断の考え方を整理したものです。個別案件における不正の認定、懲戒処分の有効性、公益通報該当性その他の法的判断を示すものではありません。実際の対応は、通報内容、社内規程、削除経緯、証拠、関係者の立場その他の具体的事情によって異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
COLUMNコラム
2026.11.5
内部告発後に社内チャットやファイルが削除されていたら、会社は何をすべきか|証拠保全・内部調査の進め方
2026.11.4
SNS炎上後にGoogle口コミが大量投稿されたらどうする?|偽口コミ・★1レビュー・削除申請の考え方
2026.11.4
無料体験のその先に、契約は待っている──パーソナルトレーニング急増トラブルに見る「法律」と「心理」の全体最適
2026.11.3
生成AIに入力した顧客情報を「全部削除してほしい」と言われたら|AIデータ削除・顧客情報・派生資料の考え方
2026.11.2
患者から「写真や個人情報を全部削除してほしい」と言われたら|美容クリニックの症例写真・診療記録・広告データ削除の考え方
2026.11.1
退職社員のメールをすぐ削除してはいけない?|アカウント削除・メール保存・営業引継ぎの考え方
NEWSお知らせ
2026.11.5
PHPに関する問題への対応について
2026.11.1
【資格取得のお知らせ】当事務所代表弁護士が「不動産M&A診断士」の資格を取得しました
2026.10.18
「医業承継士」認定試験に合格しました!
2026.07.28
夏季休暇のお知らせ
2026.04.27
ゴールデンウイーク期間中の休業日のご案内
2025.12.11
冬期休暇のお知らせ
