海外取引先から品質クレームを受けたらどうする?契約・品質・為替リスクを踏まえた最初の経営判断

2026.07.22

海外の重要顧客から、「納品した部品が仕様を満たしていない」と連絡が入った。

返品、無償交換、現地作業員の残業代、さらに次回契約の大幅な値引きまで求められている。

しかも、回答期限はわずか5営業日です。

このような状況では、経営者は二つの方向に揺れやすくなります。

一つは、「契約上の責任範囲を超えている」と強く拒否すること。

もう一つは、「重要顧客を失いたくない」と要求をすべて受け入れることです。

しかし私は、どちらも最初の判断としては危険だと考えます。

最初に優先すべきなのは、責任の結論を出すことではなく、追加被害を止め、双方が納得できる方法で原因を確かめることです。

相談事例

ある精密部品メーカーは、台湾の半導体装置メーカーと8年間取引を続けていました。

その取引先への年間売上は約5億円で、海外売上の4割を占めています。

ところが、先月納品した約4,000個の部品について、現地の組立工程で不具合が相次ぎました。

台湾企業は、「加工精度が契約仕様を満たしていない」と主張します。

一方、日本側の品質保証部は、出荷前検査ではすべて合格しており、現地の保管方法や組立条件にも原因がある可能性を指摘していました。

取引先から求められたのは、全ロットの返品、新品への無償交換、現地作業員の残業代負担、次回契約の15%値引きです。

要求をすべて受け入れると、約1億2,000万円の赤字になる見込みでした。

会社の年間営業利益は約9,500万円です。

つまり、この案件だけで年間利益が消える可能性があります。

この問題の本質

私は、この問題の本質は、品質不良の責任がどちらにあるかを急いで決めることではないと考えます。

本当に重要なのは、次の三つを同時に守ることです。

  • 顧客の生産を止めないこと
  • 自社が負うべき責任を事実に基づいて判断すること
  • 将来も採算の取れる取引関係を残すこと

出荷前検査で合格していたからといって、自社に問題がないとは限りません。

測定方法、温度、輸送時の振動、保管環境、現地で使用する治具、組立時の締付条件など、複数の要因が重なって不具合が起きることがあります。

反対に、現地で不具合が発生したという事実だけで、自社がすべての損失を負担すべきとも限りません。

原因が分からない段階で全面的に非を認めれば、本来負担する必要のない費用まで引き受けることになります。

よくある失敗

契約条項だけを示して要求を拒否する

契約書に損害賠償の上限が定められている場合、その条項は重要です。

しかし、顧客の生産が止まりかけているときに、責任制限条項だけを示して要求を拒否すれば、取引先は「問題を解決する意思がない」と受け取る可能性があります。

法律上の立場を守ることと、顧客の損害拡大を防ぐことは両立させなければなりません。

顧客の要求をすべて受け入れる

重要顧客との関係を守るため、無償交換や一部補償を先行する判断はあり得ます。

しかし、原因も損害額も確認せず、残業代や将来の値引きまで受け入れるのは危険です。

一度認めた条件は、次回以降の交渉基準になる可能性があります。

今回の品質問題と、次回契約の価格条件は分けて考える必要があります。

自社検査の結果だけを正しいと考える

品質保証部が「出荷時には合格していた」と主張するのは当然です。

ただし、自社の検査方法と取引先の測定方法が異なれば、双方の結果が食い違うことがあります。

重要なのは、どちらの主張が強いかではなく、双方が同じ条件で再現試験を行えるかです。

為替損失と品質補償を一緒に交渉する

今回の取引では、円高によって利益率も悪化していました。

だからといって、「為替で利益がないので補償できない」と説明しても、顧客には通用しません。

品質問題の費用負担は、原因と損害に基づいて判断する。

今後の価格は、為替や原材料費、品質保証コストを踏まえて別に交渉する。

この切り分けが必要です。

私ならどう考えるか

私なら、直ちに日台双方の共同調査チームを設置します。

まず、不具合品、正常品、未使用品を分けて保全します。

次に、双方が使用した測定機器、測定方法、温度、固定方法、判定基準をそろえます。

必要であれば、双方が合意できる第三者機関にも検査を依頼します。

同時に、問題ロットの追加出荷を一時停止し、選別済み部品、再加工品、代替品を供給できるか検討します。

ここで大切なのは、無償交換を行う場合でも、「全面的な責任を認めたから交換する」のではなく、「顧客の生産を守るための暫定措置」と位置づけることです。

損害賠償や値引きについては、原因と責任割合が明らかになるまで結論を留保します。

最善策

最善策は、共同調査、代替供給、責任留保を同時に進めることです。

具体的には、5営業日以内に次の内容を文書で示します。

  • 対象ロットと関連ロットの出荷停止範囲
  • 不具合品の保全方法
  • 共同調査の日程と担当者
  • 共通の測定方法と判定基準
  • 代替品や選別品の供給計画
  • 進捗報告の頻度
  • 現地作業費の記録方法
  • 最終的な費用負担は調査後に協議すること

社長または責任ある役員が、相手企業へ直接説明することも重要です。

品質保証部だけに対応させると、技術論だけになりやすくなります。

営業部だけに任せると、取引継続を優先して過大な補償を約束する可能性があります。

品質、営業、経理、経営の各部門が同じ情報を共有し、一つの方針で動く必要があります。

なぜ法律だけでは解決できないのか

契約上、損害賠償額の上限や裁判管轄が定められていたとしても、それだけで海外取引は守れません。

裁判で有利でも、顧客の工場を止めれば、取引関係や業界での信用を失う可能性があります。

反対に、営業上の関係維持だけを考えて補償を広げれば、自社の利益と交渉力を失います。

法律上は責任を限定しつつ、経営判断としては顧客の生産を守る。

この二つを分けて考える必要があります。

また、相手企業の担当者も、自社内で説明責任を負っています。

共同調査の開始、代替供給の予定、毎日の進捗報告を提示できれば、相手担当者も社内で状況を説明しやすくなります。

重要なのは、相手の要求を単なる脅しとして受け取るのではなく、相手が何に困っているのかを理解することです。

実務上のチェックポイント

  • 契約書、仕様書、個別発注書を確認する
  • 品質判定方法と検査環境を比較する
  • 不具合品、正常品、未使用品を保全する
  • 製造設備、材料、工具、校正記録を確認する
  • 輸送、保管、現地組立条件を調査する
  • 代替品をいつ、何個供給できるか確認する
  • 現地で発生した費用の明細を求める
  • 直接損害と間接損害を分ける
  • 今回の補償と次回価格を分けて交渉する
  • 為替調整条項や価格改定条項を見直す
  • 他の顧客向け製品に同じ問題がないか確認する
  • 社内外の情報発信を一元化する

まとめ

海外取引先から大きな品質クレームを受けると、経営者は早く結論を出したくなります。

しかし、この問題は感情的に動くと損失が拡大します。

私なら、まず追加出荷を止め、証拠を保全し、日台双方で共同調査を始めます。

同時に、代替品の供給によって顧客の生産を守ります。

損害賠償や値引きについては、原因と責任割合が分かるまで結論を出しません。

そして、今回の補償と将来の価格条件を分けて交渉します。

重要なのは、最初に責任を認めることでも、拒否することでもありません。

事実を確かめる仕組みをつくりながら、顧客の生産と自社の経営を同時に守ることです。

私は、これが最初の一手だと考えます。


※本記事は、経営判断を考えるための架空の事例をもとに作成しています。実際の品質保証、契約責任、損害賠償、国際取引上の対応は、契約内容や個別の事実関係によって異なります。

丸の内経営法律事務所

丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。

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