
親族株主との対立。本当に解決すべきなのは「配当問題」ではない
2026.07.29
中小企業では、創業者の相続をきっかけに株式が親族へ分散することが少なくありません。
その当時は、「家族だから問題ない」と考えていても、数年、十数年が経つと状況は大きく変わります。
経営に関わっていない親族から配当を求められたり、経営への参加を要求されたりするケースは決して珍しくありません。
私は、このような相談を受けるたびに思うことがあります。
この問題の本質は、配当ではありません。
経営権と株主権を整理しないまま、時間だけが過ぎてしまったことです。
相談事例
ある食品包装資材の卸売会社では、創業者の相続後に株式が親族へ分散しました。
現在は社長と後継者が経営を担っていますが、創業者の弟が22%の株式を保有しています。
その叔父は、
「会社は利益が出ているのだから特別配当を出すべきだ。」
「自分も会社を大きくした一人なのだから、役員として経営に戻るべきだ。」
と主張しています。
一方で会社は、物流センターの建替えを控え、多額の投資資金を必要としています。
社長は感情的に反発し、専務は「株主だから無視するわけにもいかない」と悩んでいました。
この問題の本質
私は、この問題を「配当要求」として考えるべきではないと思います。
本当に向き合うべきなのは、会社の資本政策です。
株主には株主としての権利があります。
一方で、経営を担う責任は経営陣にあります。
この二つを混同すると、話し合いはすぐに感情論になってしまいます。
「昔は会社に貢献した。」
「今は経営していない。」
どちらも事実かもしれません。
しかし、会社を守るためには、感情ではなく将来の企業価値という視点で判断する必要があります。
よくある失敗
感情で要求を拒否する
「辞めた人に口を出されたくない。」
この気持ちは理解できます。
しかし、株主である以上、会社は説明責任から逃れることはできません。
対立を避けるために配当を増やす
一時的には場を収められるかもしれません。
しかし、それが前例となれば、今後も同じ要求を受ける可能性があります。
さらに、設備投資や人材投資に必要な資金まで失うことになりかねません。
問題を株主総会だけで解決しようとする
多数決で議案が可決されたとしても、株主との関係は続きます。
翌年も、その次の年も同じ問題が繰り返される可能性があります。
私ならどう考えるか
私なら、まず会社の将来計画を整理します。
設備投資にどれだけ資金が必要なのか。
今後の利益計画はどうなっているのか。
どのような配当方針で会社を運営していくのか。
これらを明確にしたうえで、株主として説明する機会を設けます。
そして、叔父の要求の背景も確認します。
本当に配当が目的なのか。
生活資金が必要なのか。
それとも、自分が会社から忘れられたという感情なのか。
要求の背景を理解しないまま交渉しても、本当の解決にはつながりません。
最善策
私なら、次の5つを優先します。
- 中長期の経営計画と投資計画を整理する
- 配当方針を明文化する
- 株主として丁寧に説明する場を設ける
- 株式評価を行い、将来的な株式集約の方法を検討する
- 事業承継と資本政策を一体で見直す
重要なのは、今回の株主総会を乗り切ることではありません。
10年後も安定した経営ができる資本構成をつくることです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
会社法には株主の権利や配当のルールが定められています。
しかし、法律だけでは親族間の感情は整理できません。
「兄への思い」「会社への貢献」「後継者への不満」など、数字では表せない感情が交渉に影響します。
だからこそ、法律論だけで押し切るのではなく、会社の将来像を共有しながら話し合うことが重要です。
実務上のチェックポイント
- 株主構成を最新の状態で把握しているか
- 譲渡制限など定款の内容を確認しているか
- 中期経営計画を説明できるか
- 配当方針を文書化しているか
- 設備投資と資金計画を整理しているか
- 親族株主の意向を把握しているか
- 株式評価を定期的に行っているか
- 株式集約の選択肢を検討しているか
- 事業承継計画と資本政策を連動させているか
- 株主との対話の機会を設けているか
まとめ
親族株主との対立は、感情的になりやすい問題です。
だからこそ私は、感情よりも会社の未来を基準に考えるべきだと思います。
配当を出すかどうかではなく、会社はどこへ向かうのか。
その道筋を示せる経営者であれば、株主との対話も建設的なものになります。
重要なのは、親族との勝ち負けではありません。
会社を次の世代へ安心して引き継げる資本構成をつくることです。
※本記事は経営判断を考えるための架空の事例をもとに作成しています。実際の株主対応や事業承継は、会社の定款、株主構成、財務状況などによって適切な対応が異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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