
M&A後に粉飾の疑いが発覚…。経営者が最初に守るべきものとは
2026.08.04
M&Aは契約書にサインをした瞬間に終わるものではありません。
むしろ、本当の経営はそこから始まります。
買収後に、デューデリジェンスでは見つからなかった問題が発覚することは珍しくありません。
在庫評価の誤り、回収不能な売掛金、設備の修繕履歴の未開示、品質管理上の問題……。
その瞬間、多くの経営者はこう考えます。
「だまされた。」
もちろん、その可能性は否定できません。
しかし私は、このような場面で最も危険なのは、怒りや失望だけで経営判断をしてしまうことだと考えます。
重要なのは、相手を責めることではなく、買収した会社の価値を守ることです。
相談事例
ある食品メーカーが、地域で高い評価を受けていた同業他社をM&Aで取得しました。
買収前には、安定した利益や適正な在庫管理、良好な品質管理体制が説明されていました。
ところが買収後の内部監査で、次のような問題が見つかります。
- 賞味期限が近い商品が通常在庫として計上されていた
- 回収困難な売掛金が貸倒処理されていなかった
- 設備の修繕履歴が十分に開示されていなかった可能性がある
- 品質管理責任者は「前社長から決算までは触れるなと言われていた」と証言した
影響額は約7,000万円。
社内では「すぐに損害賠償請求をすべき」という声が上がる一方、営業部は「前オーナーとの関係が壊れれば主要顧客まで離れる」と懸念していました。
この問題の本質
私は、このケースの本質は「だまされたかどうか」ではないと考えます。
本当に問われるのは、企業価値を守りながら、契約上の権利をどう行使するかという経営判断です。
訴訟や損害賠償請求は重要な選択肢です。
しかし、それが最初の一手とは限りません。
買収した会社には社員がおり、顧客がおり、金融機関との関係もあります。
怒りのまま行動すると、そのすべてに影響が及ぶ可能性があります。
よくある失敗
感情だけで法的措置へ進む
「契約違反だ」と判断してすぐに訴訟へ進めば、前オーナーとの関係は一気に悪化します。
その結果、顧客への引継ぎや事業運営に支障が出ることがあります。
関係維持を優先しすぎる
逆に、「波風を立てたくない」と問題を見過ごせば、社員からの信頼を失います。
さらに、金融機関や株主への説明責任も果たせなくなります。
品質改善を後回しにする
責任追及に時間をかけるあまり、品質改善や顧客対応が遅れれば、企業価値そのものが低下してしまいます。
私ならどう考えるか
私なら、まず感情を横に置きます。
そのうえで、事実を一つずつ確認します。
- 契約書の表明保証条項
- 開示資料と実態の違い
- 前オーナーが認識していた範囲
- 影響額の正確な試算
- 品質や顧客への影響
その間も、品質改善と顧客対応は止めません。
問題を解決しながら、契約上の補償や協議を進めることが重要です。
訴訟は最後の選択肢であり、最初の目的ではありません。
最善策
私なら、次の順番で対応します。
- 事実関係を徹底的に確認する
- 売買契約の表明保証・補償条項を精査する
- 品質改善と顧客対応を最優先する
- 前オーナーと冷静に協議する
- 補償請求や和解など複数の選択肢を比較する
- 金融機関や主要取引先への説明を準備する
- デューデリジェンスや内部統制を見直し、再発防止策を講じる
重要なのは、勝つことではありません。
企業価値を守り、事業を安定して継続できる状態をつくることです。
なぜ法律だけでは解決できないのか
表明保証違反が認められるかどうかは、契約内容や証拠によって判断されます。
しかし、法律上の結論が出るまでには時間がかかることもあります。
その間にも、顧客は商品を待ち、社員は会社の将来を見ています。
経営者は、法的対応と事業継続を同時に進めなければなりません。
法律は会社を守る手段ですが、企業価値を高めるのは日々の経営です。
実務上のチェックポイント
- 売買契約書の表明保証条項を確認したか
- 補償請求の期限を把握しているか
- 影響額を客観的に試算したか
- 品質改善を最優先しているか
- 主要顧客への影響を整理したか
- 金融機関への説明内容を準備しているか
- 前オーナーとの協議記録を残しているか
- 社員へ事実を適切に共有しているか
- 内部統制や在庫管理体制を見直しているか
- 次回以降のデューデリジェンス改善策を検討しているか
まとめ
M&A後に問題が見つかると、「だまされた」という感情が先に立ちます。
その気持ちは自然なことです。
しかし、経営者に求められるのは、怒りではなく冷静な判断です。
私は、このような場面では、法的権利を守ることと、企業価値を守ることを切り離して考えるべきだと思います。
契約上の権利は適切に行使しながら、品質改善と事業継続を止めない。
重要なのは、「相手に勝つこと」ではなく、「買収した会社を成功させること」です。
それが、M&Aを本当の意味で成功へ導く経営判断だと私は考えます。
※本記事は経営判断を考えるための架空の事例をもとに作成しています。実際のM&Aでは、契約内容、表明保証条項、デューデリジェンスの範囲、事実関係などによって対応が異なります。
丸の内経営法律事務所は、企業法務を得意とする名古屋市の弁護士事務所です。これまでに関わった中小企業のトラブル解決数は 200件 以上となります。「関わった人全てを豊かにする」を企業理念に、名古屋市をはじめ東海エリアの中小企業を法務面・経営面から多角的にサポート。顧問弁護士として労働問題解消や契約書作成など、企業のトラブルを未然に防ぐリーガルリスクマネジメントにも尽力します。
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